赤﨑勇教授がノーベル物理学賞受賞!

研究業績

初期の研究業績

  • (1)Geのエビタキシャル成長とその熱力学的解析に関する研究業績
  • (2)GaAsやGaPを中心とするⅢ‐Ⅴ族化合物、およびそれらの混晶(GaAsP,GaInP,GaInAsPなど)の各種結晶成長(気相および液相エビタキシャル成長、融液成長、液体封止高圧引上げ成長など)および電気的、光学的性質に関する研究業績

  • (3)上記化合物による赤色、黄緑色LEDや赤色レーザーダイオード開発に関する業績等

があるが、ここでは、GaN系窒化物半導体関係の業績について紹介する。

注):(1)は名大(1959-64)における成果 (2)、(3)は松下電器東京研究所赤﨑グループにおける成果、1981~1992は名大、1992年以降は名城大における赤﨑グループによる成果

窒化物半導体に関する主な業績

  • GaNアズ・グローン電極によるフリップチップ型青色発光ダイオードの開発(1981年)
  • 低温バッファ層技術の開拓による高品質GaN系窒化物単結晶の創製(1986年)
  • 窒化物半導体におけるp型伝導の実現(1989年)
  • 窒化物半導体におけるn型伝導度制御の達成(1989年)
  • 高性能GaN p-n接合型青色発光ダイオードの実現(1989年)

以上により、LEDをはじめGaN系p-n接合型光デバイスおよび電子デバイス実現に必須の全ての基本技術を達成

  • 高品質GaNからの室温誘導放出の実現(1990年)
    上記GaNpn接合型LEDの実現と合わせてGaN系レーザダイオード実現の可能性を示した。
  • p型AlGaN(1991年)およびp型GalnN(1995年)の実現
  • 高品質GaN/AlGaN多重ヘテロ構造による量子サイズ効果の検証(1991年)
  • 高品質AlGaN、GaN、GaInN結晶を用いた屈折率の波長依存性の精密測定により、これらのDH、SCH構造による「光とじ込め、キャリヤとじ込め」の可能性を指摘し、同時に実証(1994年)
  • 「幅2.5nm以下の薄い井戸幅のGaInN/GaN量子井戸からの発光は井戸幅が広い場合に比べ強度が約3桁大きい現象」を発見(1995年)。(後日、「薄い量子井戸では、ピエゾ電界の効果が抑制され、本来の強い発光が得られる」ためであることを実証)。
  • GalnN/GaN/AlGaN量子井戸ダイオードからの電流注入による誘導放出に成功(実質上初の窒化物レーザーダイオードの実現)(1995年)

以上により、GaN系レーザーダイオード実現に必須の全ての基本技術を達成

  • GalnN/GaN/AlGaN量子井戸ダイオードによる当時世界最短波長(376nm)半導体レーザーダイオードの実現(1996年)
  • GaN上へのAlGaNおよびGalnNのコヒーレント成長を観測(1997年)
  • 歪みGalnN/GaN量子井戸におけるピエゾ電界の強度、方向の決定(1997年)
  • 歪みGalnN/GaN量子井戸におけるピエゾ電界に起因する量子閉じ込めシュタルク効果の検証(1997年)
  • 低温中間層(多段低温バッファ層)技術の開発、および同技術によるGaN中の転位密度大幅低減(1997年)
  • GaN系結晶におけるピエゾ電界強度の結晶方位依存性の理論的検討に基づき、無極性面、半極性面の存在を指摘(2000年)。
    これが引き金となり、無極性面/半極性面への結晶成長およびデバイス応用へとつながる研究の現在の隆盛を齎している。
  • 超高感度pin型AlGaN紫外線検出器の開発(1999年~2001年)
  • マストランスポート法によるGaN中の欠陥密度の大幅低減(2000年)
  • ヘテロ-ELO技術によるクラックフリー、低転位密度の厚膜AlGaNテンプレートの開発(2001年)
  • 低転位密度・クラックフリーのAlGaNを用いた短波長(350.9nm)レーザーダイオードの開発(2004年)
  • 高温MOVPE法の開発による高品質AlNの実現(2005年)
  • 超低暗電流・高オン/オフ比ノーマリーオフ型pゲートAlGaN/GaN HFETの開発(2006年)
  • UV-A、UV-BおよびUV-Cの全領域でLEDの外部量子効率数%を達成(2010年)
  • 歪超格子構造を用いて、GalnN系太陽電池で世界最高効率を達成(2011年)等
  • MOVPE成長中のGaNの結晶その場観察X線回折測定法の確立(2011年)
  • GaN系HFET型超高感度(可視光・紫外線)ホトセンサーの開発(2012年)
  • キャリア注入制御2波長で発光する窒化物半導体可視LEDの実現(2012年)
  • 窒化物半導体系世界初の電子線励起レーザの実現(2013年)

窒化物半導体に関する原著論文約700編以上、特許221以上、著書(章)約40(編著を含む)

<参考資料として>
以下は、“窒化物半導体に関する業績”について藤原財団「受賞者の研究業績(2002年)」を基に、2003年以降の業績(主に〔5〕)を補足したものである。

高品質GaN系窒化物半導体単結晶の創製とp-n接合青色発光デバイスの発明

Creation of GaN-Based Semiconductors of Excellent Quality and Invention of p-n Junction Blue- Light- Emitting Devices

 現在、世界規模で展開されているGaN系窒化物半導体材料とデバイスの研究・開発は、赤﨑氏とそのグループの研究が全ての出発点である。すなわち、低温堆積バッファ層技術の開拓により飛躍的に高品質な単結晶の成長に成功('86年)し、従来不可能とされていたp型伝導の実現とn型伝導度制御の達成('89年)、p-n接合青色発光ダイオードを実現('89年)、さらに、レーザーダイオード実現に必須の室温誘導放出に成功('90年)したこと等である。

 窒化物半導体に関する研究は困難を極め、世界中のほとんどの研究者が撤退していった。しかし、赤﨑氏は深い洞察と強い信念に基づき、ライフワークとして('73年)この未踏の半導体に挑戦し続けた。幾多の試行錯誤を繰り返し、結晶成長法としてそれまでほとんど用いられていなかったOMVPE法(MOVPE法、MOCVD法ともいう)を選び('79年)、GaNとの大きな格子不整合と結晶構造の違いに起因する重大な諸問題を、新規に着想し、開拓した低温で薄く堆積したバッファ層技術により克服し、格段に高品質なGaN結晶の成長に成功。この研究における最大の山場を突破した。同氏の最大の功績のひとつであり、これが次のブレークスルーであるGaN系半導体におけるp型伝導の発見やn型伝導度の制御の達成に不可欠であった。これらはいずれも世界に先駆ける画期的成果であり、これを契機に多くの半導体研究者・研究機関が雪崩を打って参入してきている。さらに、同氏とそのグループは窒化物半導体における量子効果の検証や結晶のさらなる高品質化技術の開発等、材料科学の研究においても常に先導している。

 1993年にわが国の企業がGaN系半導体による高輝度の青色発光ダイオードの量産化を発表し、世界的なセンセーションを引き起こした。この成功は、赤﨑氏らの基礎研究をベースに同企業独自の技術を付け加えたものであり、赤﨑氏のこの分野における先駆的貢献なしには語れない。これは、高輝度青色発光ダイオードの発表以後現在(2002年)まで10年間の、赤﨑氏の国際会議等での基調講演・招待講演が140件を超えていることからも理解できよう。このように高輝度青色発光ダイオードやレーザーダイオードの商業化により、赤﨑氏の研究業績が改めて再認識されている。

 未到の半導体材料、特にワイドギャップ窒化物半導体をデバイスまで繋げることは極めて困難であり、GaN系半導体については、上記のように世界中の多くの研究者が撤退するなか、赤﨑氏は挑戦を続け、デバイス化に必須の要素技術のほとんど全てを達成するとともに、GaN系窒化物半導体における量子効果など重要な物性を明らかにし、これまでに500編以上におよぶ多くの優れた業績を挙げ、国際的に高い評価を受けている。以下に主な研究内容について要約する。

〔1〕低温堆積バッファ層技術の開拓による高品質窒化物半導体単結晶の創製
窒化物半導体の高品質単結晶の作製は困難を極め、1970年代後半には、ほとんどの研究者が撤退していったが、赤﨑氏は試行錯誤の末、①単結晶成長法として当時、ほとんど用いられていなかった0MVPE(有機金属化合物気相成長)法を採ることを決意(1979年)、基板には、OMVPE法における成長条件、環境に対する耐性と結晶対称性の類似性を重視して、当面(将来、GaN基板など最適結晶が利用できるようになるまで)それまでも用いられていたサファイアを選択した(1979年)。同氏等は、②GaNとの大きな格子不整合や結晶構造の違い等に起因する重大な諸問題を“低温堆積バッファ層技術の着想"【赤﨑・澤木:特許1708203(1985年出願)、同米国特許4855249】【真部・赤﨑ほか特許3026087、同米国特許5122、845】と、その最適化により克服し、窒化物半導体の高品質単結晶の創製に世界で初めて成功し(1986年)、窒化物半導体の研究開発における最大の山場を突破した。(同氏等の成功により、上記が現在世界の標準となっている。)

〔2〕窒化物半導体におけるp型伝導の発見と、同n型伝導度の制御の確立、並びにGaN系高性能p-n接合型青色/紫外発光ダイオードの実現
 半導体をデバイスとして利用するには、高品質な半導体に不純物をドープし、伝導タイプを制御することが必要不可欠である。赤﨑氏らは下記のように、前人未踏の“窒化物半導体におけるp型伝導”を発見し、同半導体の“p-n接合型青色発光ダイオード”を世界に先駆けて実現した。すなわち①結晶として、上記〔1〕による高品質単結晶を用い、②p型不純物としてマグネシウム(Mg)が従来の亜鉛よりイオン化エネルギーが小さいことに気付き、そのドーパントとして有機マグネシウム化合物:ビス・シクロペンタジエニールマグネシウム(bis-CP2Mg)を用い、OMVPE法におけるMgのドーピングに成功、③そのMgを低速電子線で活性化し、1989年にp型伝導GaN(後1991年にp型AlGaN、1995年にp型GaInNも)を世界で初めて実現した。直ちに④電気特性、光学特性等に優れたp-n接合型高性能青色発光ダイオードを世界に先駆けて実現した(1989年)。
 一方、低温バッファ層の導入により残留不純物が激減(高品質化)するため、n型結晶の電気抵抗が著しく高くなることが明らかになった。実際のデバイス作製には、高抵抗から低抵抗まで広い範囲にわたって抵抗値を制御する必要がある。赤﨑氏らは⑤Si(シリコン)が全ての窒化物中で浅いドナーとして振舞うことを見出し、低温バッファ層技術により結晶を高品質に保ちながら、同時にシラン(SiH4)をドープする方法により、n型伝導度を広範囲に制御することに成功した(1989年)。これは上記p型伝導の実現とともに、実用上不可欠であり、現在、この方法が世界中で広く用いられている。
 こうして、1989年までに赤﨑氏らは、p-n接合型青色発光ダイオード実現に必須の全ての要素技術を達成した。

これらの研究成果は、いずれも世界に先駆けた画期的なものであり、これに刺激されて1990年ごろから世界中の研究者が雪崩を打って参入し、その直後からこの分野の論文数は指数関数的に増大するとともに、窒化物系の種々のデバイスが次々に開発されている。

〔3〕窒化物半導体量子井戸による電流注入紫外線誘導放出の実現
 青色発光ダイオードからさらに半導体レーザー(レーザーダイオード)を実現するには電流注入による光誘導放出、いわゆるコヒーレント光、を発生させる必要がある。赤﨑氏らは先の高品質結晶により、はじめて①室温における誘導放出を1990年に実現し、引き続き、DHやSCH構造を用いて誘導放出に必要なしきい値パワーを年々1桁ずつ低減させてきた。さらに1995年②井戸幅 ~2.5ナノメートル以下のGaInN/GaNの量子井戸構造からの発光強度が、井戸幅が広い場合に比べて3桁も大きいという現象を発見した。この量子井戸構造は、その後の青色LEDや紫色レーザーダイオードの活性層の設計に重要な指針を与えている
 (なお、後1997年に、同氏らはGaInN/GaN量子井戸に発生するピエゾ電界による量子とじ込めシュタルク効果を検証し、「狭い量子井戸で発光が強くなる現象」は狭い量子井戸においては、ピエゾ電界の悪影響が抑制されるためであることを実証している。)
 また、③同1995年、赤﨑氏らは、GaInN/GaN/AlGaN SCH量子井戸ダイオードによる電流注入誘導放出を実現(短寿命ながら、実質上初の窒化物によるレーザーダイオードの実現)し、窒化物による短波長半導体レーザー実現に必須の要素技術を1995年までに全て達成した。なお、1996年には、GalnN/GaN/AlGaN量子井戸ダイオードによる当時世界最短波長(376nm)のレーザーダイオードを実現している。

〔4〕GaN系半導体量子構造による量子効果 (量子サイズ効果1991、量子とじ込めシュタルク効果1997、圧電効果 1997) の検証
 半導体デバイスの高性能化にはナノ量子構造が不可欠であるが、同氏らは窒化物半導体の高品質のナノ量子構造を実現し、①1991年にGaN/AlGaN多重構造における量子サイズ効果を検証し、②1997年GaN C面上へのAlGaNおよびGaInNのコヒーレント成長(現象)と、③その歪んだAlGaN/GaNおよびGaInN/GaN量子井戸に大きなピエゾ電界が発生することを見出した。また、④同年GaInN/GaN量子井戸におけるピエゾ電界に起因する量子とじ込めシュタルク効果を検証している。さらに、2000年には量子井戸におけるピエゾ電界強度の結晶方位依存性を理論的に検討し、無極性面や半極性面の依存を明らかにした。これが引き金となり、無極性面/半極性面への結晶成長やデバイス応用に関する研究の世界的潮流を生み出した。このように、窒化物半導体の物性の解明と同量子井戸デバイスの高性能化に多大の貢献をしている。
(以上2002年までの成果)

2003年以降の成果の要約

〔5〕窒化物半導体混晶と同ナノ量子構造のさらなる高品質化と新デバイスの開発
 低温バッファ技術による高品質GaN結晶を基板として用いた①低温中間層技術(1997年)、②段差基板法(2000年)、③ヘテロ・ELO技術(2000年)、④高温MOVPE法を開発(2005年)している。これらの新技術により、より高品質のGaN、AlGaN、GaInNをはじめAlN単結晶を実現し、これらを用いて⑤超低暗電流ソーラーブラインド紫外線検出器(1999年)、⑥短波長(350.9nm)レーザーダイオード(2004年)、⑦高オン・オフ比ノーマリーオフ型pゲートAlGaN/GaN HFET(2006年)、⑧MOVPE法によるGaN結晶のX線回折の“その場”測定を達成(2011年) ⑨GaN系HFET型高感度ホトセンサーの開発(2012年)、⑩窒化物半導体において世界最高効率太陽電池の実現(2012年)、⑪キャリア注入制御2波長発光の窒化物半導体可視LEDの実現(2012年)、⑫窒化物半導体における世界初の電子線励起レーザの実現(2013年)など窒化物による新機能素子ならびに結晶評価技術などを次々に開発し、常に世界を先導しつづけている。

 窒化物半導体は従来の化合物半導体と異なり環境調和性に優れており、今後、紫外から可視光全域をカバーする光源としての可能性を秘めている。また、電子飽和速度が大きく絶縁破壊電圧が高いことなどから、次世代に必須の超高速・大出力トランジスタや高効率電力素子などの広範な応用が期待され、現在それらの研究開発に世界中の研究者がしのぎを削っている。
 これら次世代光デバイスや高機能電子デバイスの実現にも、赤﨑氏らの上記先駆的研究成果〔1〕~〔4〕はもとより最近の成果〔5〕の活用が必要不可欠である。

以上のように赤﨑氏の窒化物半導体に対する先見と業績は一段と抜きん出ており、日本で生まれたオリジナルな研究として国際的に高い評価を受けている。

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