育て達人第167回 丸山 宏

造園の研究者 文化的景観の保全に助言も

農学部生物環境科学科 丸山宏教授(近代造園史)

名古屋の大学では珍しい造園の研究者。ランドスケープ・デザイン学研究室を構え、国の文化財である名勝庭園、重要文化的景観などに関する専門家でもあります。地域に根差した文化財の価値から、庭園散策の見どころまで幅広く質問すると、京都出身らしい柔らかい口調で答えが返ってきました。

福井県の越前海岸の急傾斜地に清楚にかつ力強く咲くスイセン。この水仙畑の国の「重要文化的景観」選定に向けた県の有識者検討会の会長を務めていますが、どんな仕事ですか。

柔らかい語り口の丸山宏教授

柔らかい語り口の丸山宏教授

棚田など、地域の生活や生業、風土によりつくり出された景観を文化財として後世に継承していこうというのが重要文化的景観です。2004年に改正された文化財保護法によって新たにできた分野です。福井の越前海岸にある水仙畑の歴史的、文化的価値を認め、まちづくりの起点になればと願って検討しています。報告書を2018年度内に作成し、2020年度の選定を目指しています。

重要文化的景観は愛知県にはありますか。

研究室は資料の山

研究室は資料の山

2006年に滋賀県の近江八幡の水郷が初めて選ばれ、全国で63件が選定されていますが、残念ながら現在、愛知県にはありません。新城市の四谷の棚田とか稲沢市の祖父江のイチョウ(ギンナン栽培)など個人的には文化的景観に候補地になるのではないかと思っています。

文化的景観保存に関するご自身のポリシーを聞かせてください。

長年にわたり地域がつくり出してきた景観は地域にとっての文化財です。どのような保全・保存あるいは整備ができるのか、後代にどう継承するのか。それは地域のプライドをいかに残せるかということです。地域にとって、文化財は地方創生のカギだとも言えると思います。

ご自身の研究について語ってください。

主に造園の歴史研究をしてきました。京都の円山公園の成立史や都市計画における公園緑地史、日本における国立公園の歴史などがあります。また、実務の方面では姫路城の西にある西御屋敷跡庭園「好古園」の設計・作庭に携わったりしてきました。この経験が現在携わっている文化財の整備事業に役に立っていると思っています。

庭園散策の見どころを教えてください。

特にどの庭園がいいかとか好きだとかは言えませんが、見どころの一つは石組です。石組というのは世界の庭園にはない日本庭園独自のものです。滝から清流、池へと流れる護岸の石組の意匠が庭園の善し悪しを決めます。また、飛石などのリズム感も感じてほしい。石についてぜひ興味を持って各地の庭園を訪れていただきたいと思います。

石には意志が込められていたのですね。

だから、年を経て、庭木が成長したり、根締めが大きくなり、肝心の石が隠れるようになったりしたら、剪定(せんてい)するなどして直さなければなりません。手水鉢のコケもきれいにはがし、石も磨いておくのが基本です。

京都大学人文科学研究所時代の思い出は。

20代後半から30代にかけて、京大人文研の吉田光邦先生(故人)の共同研究班に参加しました。「近代ツーリズムの黎明(れいめい)」や「明治初期の京都博覧会」などの論文を書きました。学問の自由度が高く、交友の範囲も広くなり楽しい経験でした。

学生にメッセージをください。

私の研究室では、卒論のテーマは学生各自に見つけてもらっています。自分の発想でテーマを決め、いろいろな資料やデータを集めて論理的に文章を展開する。そのプロセスが思考のトレーニングになります。そのうえで、造園関係に就職してほしいと願っています。

時節柄、受験生にもメッセージをください。

名古屋の他大学には造園の研究室はありません。総合大学として貴重な存在だと思います。公園や庭に関する仕事に就きたい人は来てほしい。

この際強調しておきたいことがあればどうぞ。

名古屋城天守閣の木造復元が話題になっていますが、国の名勝庭園に指定されている二の丸庭園の素晴らしさを多くの人に認識してほしい。1612年に天守閣が完成した後、初代尾張藩主、徳川義直が元和年間(1615~1623年)に作庭し、文政年間(1818~1830年)に10代斉朝によって回遊式池泉庭園に拡張、改造されました。現在、整備中ですが、2018年2月に追加指定され指定面積が6倍になりました。日本全国の城郭の庭としては傑出したものです。「尾張の財産」とも言える庭園です。

丸山 宏(まるやま・ひろむ)

1951年、京都市生まれ。1982年、京都大学大学院農学研究科博士課程退学。1993年、農学博士。同大学農学部助手を経て1998年、名城大学教授。文化庁文化審議会専門委員、愛知県文化財保護審議会委員、名古屋市都市計画審議会委員、日本造園学会理事などを歴任。著書に「日本近代公園史の研究」(単著)、「近代京都研究」(共編著)、「造園の歴史と文化」(共著)など。所属学会は日本造園学会、日本森林学会、日本都市計画学会。

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