ブックタイトル名城大学通信 52 [2016 Summer]

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概要

名城大学通信 52 [2016 Summer]

04特別企画◎ 池上彰先生とトークセッションアメリカの大学では1コマの前半を講義、後半を質疑応答に当てる授業もあれば、アクティブラーニングとして、あらかじめ読んできた本について最初から討論をすることもあります。イギリスのケンブリッジ大学やオックスフォード大学では、2コマのうち1コマを講義、もう1コマを討論という形で教育を行う場合もあります。また、アメリカは日本に比べて授業料が非常に高額です。しかも、学生自身が奨学金を借りて学んでいます。将来、自分で返済しなければならないため、おのずと真剣味が違ってくるでしょうね。西部/そういう面もあるんですね。僕自身は積極的に学ぼうと心がけてはいますが、同じ学部でも目的意識を持って学んでいる人と、そうでない人がいるのを感じます。理系の学生はどうですか?横井/理系は目的意識を持って学んでいる人が多く、しっかり勉強もしていますね。何しろ課題も多いので(笑)。私もそうですが、幅広い分野の中から、やりたいことや興味のある専門分野を見極めようとしている学生も多いと思います。池上/もう一つ、母国語による教育も日本の大学の特異性と言えます。明治時代、日本は国を豊かにしよう、欧米に追いつこうと、外国から教員を招いて英語やドイツ語で教育を行っていました。当時の人々は死に物狂いで勉強し、例えば、「economy」は経世済民から「経済」と訳したように、学術用語を日本語に翻訳して、すべて母国語で高等教育を行うまでになったのです。これは世界では大変に珍しいことで、欧米以外では初めての試みでした。今もアジアの大学の多くが、専門分野の学びには英語を使用していますからね。皮肉なことに、それが日本の学生と他のアジアの学生との英語力の差につながっていますが、この独自の発展により日本では質の高い教育が受けられるのです。―これからの日本の大学の役割とは時代や国の状況によって大学の役割は変わる。池上/大学の役割は、時代によって変わります。開発途上国であれば先進国に追いつくために、先進国の科学技術や学問的な知見をいち早く取り入れて、その国のエリートたちに伝えていく。しかし、大学の数が多くなり次第に大衆化してくると、研究を主体とする大学と、一般教養を身に付けて社会に貢献できる人材を育成する大学に、自然と分かれていきます。横井/私は研究機関としての大学の役割を考えてみたのですが、その前に、研究を大別すると2種類あると思います。一つはニホニウムやニュートリノの発見など学理を究める研究。もう一つは青色LEDのよ―海外の大学と日本の大学の違いについて日本の学生は主体的に学ぶ意識を持つことが重要。西部/僕は名城大学の海外英語研修でイギリス留学を経験し、視野が広がりました。特に刺激を受けたのは、海外の学生の積極性や学習姿勢です。一緒に遊びに出かけて遅くなっても、そこから彼らは次の日に備えて予習しています。学びへの主体性について、日本の学生との違いを感じました。ファルック/私は来日後、逆の立場から日本人の学生が消極的なことに驚きました。インドネシアの大学では講義の後、学生全員が手を挙げて先生に質問をするのが当たり前です。先生も積極的に質問を受け付け、熱心に答えてくださいました。池上/昨今は国際化が進み、アジアの大学もレベルが急激に向上しています。学生も非常に勉強熱心です。日本も昔はそうだったのですが、大学が大衆化するにつれ、目的なく大学に入り、楽しく過ごせればいいという考えの学生が増えてしまっているのかもしれません。インドネシアの場合、日本に比べると大学に進学できる人は少なく、進学できた人はエリートです。国の将来を何とかしたいと勉強している人も多いでしょう?ファルック/そうですね。インドネシアの大学進学率は25%程で、日本に比べるとまだ低いレベルに留まっています。一方で、大学卒業後、起業する人も多く、私自身も小さな会社を経営していました。世界でも数少ない母国語による大学教育。池上/日本の学生が消極的なのは、教育スタイルの違いも影響しているでしょうね。うに社会の発展に直接的に役立つ研究です。その観点から見たとき、今後、日本の大学はもう少し実用的な研究の割合を増やして、その成果を海外に発信できたらいいのではないかと思っています。池上/なるほど。ただ、実用化をするには基礎が大事ではないでしょうか。例えば、火山の中の状態を、ニュートリノを利用して透視しようという研究もあり、基礎研究が思わぬ形で役に立つこともありますよね。横井/そうですね。基礎はもちろん重要です。それに加えて基礎と実用の間をつなぐものが、もっと見えてくるようになれば、と考えています。ファルック/先ほど開発途上国の例が出ましたが、途上国の貧困率を下げるのに、大学はどんな役割を果たすのでしょうか。池上/いい質問ですね。貧困率というのは、その国の平均所得の半分以下の人の比率を言うわけですが、それを改善するには大学の先生や学生が問題意識を持っているかどうかだと思います。社会に出たら、「自分で課題を見付け、それに取り組む人材を輩出することが大学の役割です」 池上 彰 教授「英語力は当然として、自分に必要な情報を取捨選択できる