- 池上
- ノーベル賞授賞式の様子を日本で見ていたのですが、「名城大学所属」とアナウンスされていたのを聞いて、同じ大学の者として大変嬉しく思いました。大学院ではどんな授業をされているのですか?
- 吉野
- 環境工学概論という大きなテーマを掲げて、電気化学の基礎的な講義の他に、企業での研究開発の進め方や世の中の先読みの重要性を教えています。
- 池上
- 今おっしゃった先読みの仕方というのは、企業での研究に長年携わられている実務家ならではのお話ですよね。
- 吉野
- 一番大事な点ですからね。ただ、当然ですが先読みは難しいですよ。10年先をちゃんと読めたら100%成功できます。しかしこれからの未来は本当に大きく変わるでしょう。明らかに変わり始めるのが大阪・関西万博の2025年あたり。電池も自動運転も、様々な技術の開発ロードマップは大体2025年をターゲットに進んでいます。
- 池上
- 歴史的な視点で未来を考えることは大事ですよね。
- 吉野
- 今、我々はモバイルIT社会に生きていますが、それに向かって世界中が動き始めたのが1995年。あの時と世界的な様相がよく似ています。ちょうど今はその流動期だと思いますが、その1995年に相当するのが2025年。そこからさらに5年後、2030年には「これが新しい世界か」と皆さんが気がつく頃という気がしています。
- 池上
- よく私は経済学の授業で名古屋のモノづくりを代表する自動車を例にするのですが、これから電池で動く電気自動車になるとエンジンは不要になる。これが突然無くなったらどうなるのか。あるいは自動運転になるとシステムを作る会社が主導権をとって、国内の主要な自動車会社は下請けになってしまうかもしれない。そういう時代が来るんだよという話をすると、学生は真剣な表情になります。社会に出る前の学生たちに先を読む大切さを伝えて、それを考える力をつけさせるのはなかなか難しいですよね。
- 吉野
- 一つの方法としては例えば身近な問題を題材に、1年後に答えが出るような仮説を立て検証することです。そういうトレーニングの繰り返しで先読みの力がつきます。今なら、もしも国際的なスポーツ大会で全く無名の選手が1位になる条件とは何か?とか。そして、次は少し先を見立てて見る。ちょうど今のスマホが生みだすビジネスモデルのように、自動運転はどんなビジネスを世にもたらすかとか。