Challengers' Action

アメリカ研修
―私自身がこの研修を通して感じたこと―

理工学部 電気電子工学科 1年 岡﨑 竜也

2019年04月01日

コア・プログラム(1年次プログラム)

1.言語の壁

 本研修の冒頭にPlug and Play Tech Centerを訪問し、スタッフの方から英語で案内や説明を受けた。この時は、話されている内容がまるでBGMのように聞こえ、耳に入れることはできても、頭で理解することがほとんどできなかった。そのため、研修前半のプログラムは理解が不十分だった部分が多いように感じた。しかし、研修3日目あたりから英語を少しずつ聞き取れるようになってきたことを実感した。具体的には、日本の勉強で学ぶ英語とは違い、ネイティブスピーカーと話す英語は単語と単語の間が空いておらず、聞き取りにくいことが一番の問題であったが、それが日に日に聞き取れるようになっていくというものである。



 今回の研修で英語でのコミュニケーションに対する様々な気づきがあった。1つ目は、Excuse meやsorryといった英語は考えて口から出てくるものではなく、その場の状況に応じて反射的に出るものであると感じ、これらの英語は実際に英語圏で生活をしていないと分からないものであると感じたことである。



 2つ目は、私自身の現段階の英語は、聞き取った英単語を日本語に変換することをコミュニケーションの基本としているとわかったことである。そのため、英語の聞き取りは上記のように単語ひとつひとつを聞き取ることができたが、英単語を日本語に変換するスピードが話し手のスピードに追いついていないと、理解が追いつかないところが多々あったように感じた。この英単語を日本語に変換する過程で、語彙力が最も必要になることを実感し、中学校、高校、大学の教員が語彙力を重要視することについて理解することができた。しかしこの理解も、実際に英語圏の国で数日生活しないと感じられないものだと思った。

 次に訪問したINTEL museumではICチップを作るまでの歴史、ICチップの基本的な概念となったコンピュータなどについて学んだ。コンピュータの基本的概念は1と0の集合体であり、元々は計算機を目的として作られていたこと、ICの材料は半導体が用いられており、半導体の代表としてケイ素を用いていること等を学んだ。このケイ素の純度を99.999999999%まで引き上げたものを材料として使っており、この純度のことを9が11個並んでいることからイレブンナインと呼んでいることを学んだ。この純度をあげた上げたケイ素を現像、エッチング、プラズマ照射といった順に加工を行うことでp型とn型の半導体を作り、トランジスタを作っていること、トランジスタは現在のIC回路では小指の爪くらいのサイズであること、ICチップは20億個のトランジスタにより構成されていることを知った。



 また、そのトランジスタの1つのサイズは14ナノメートルであることを知った。INTEL museumのスタッフの方に、今後ムーアの法則は続いていくのかという質問をすると、回答は続いていかないというものであった。その代わりに、現在普及しているケイ素を用いた、半導体と同様の機能を果たす新しい材料を考えることが必要であると仰っていた。また、現在の半導体技術ではムーアの法則が成り立たない理由として、現在の技術によって実現している構成の細かさがケイ素の原子の大きさに近づいているため、それより細かくするとケイ素としての役割が果たせずに半導体として機能しないからであると仰っていた。



 The Tech museum of Innovationでは、カメラによる顔のパーツ認証や、読み取った人の全体のシルエットにエフェクトをかけるような技術が体験できた。この博物館では、コンピュータサイエンスや化学技術などの様々な知識を学ぶことができた。内容としては、汚れている水をフィルターによって浄化するシステムであり、フィルターとしてとても目の細かい繊維を用いることで、微生物などの小さな害虫や細菌などをキャッチして濾過をする浄水フィルタリング技術である。また、微生物に薬品を投与し、その微生物の住環境の違いによって様々な色をつけるというものである。この実験の目標は、実験の参加者が作った色を常に蓄積していってどれくらいの色の種類を登録したかをカウントすることである。



 Santa Clara Universityでは、ポスターセッションに参加し、現在研究中の水中移動のアルゴリズム、画像認識による対象物の認識、インフラ設備にIoTを足すことによる発達の見込みなどを聴いた。これらは私の専攻している内容ではないため、理解することがとても難しかったが、不明点を聞くと私が理解できるまで事細かく教えてくれる方がほとんどで、私が分からないことを前提に教えてくれていると感じた。この大学の研究室では3Dプリンター、レーザーカッターなどの最新加工機械の動作や、加工後の作品を見ることができた。またこの大学では、研究で作品を作るときは、コンピュータエンジニア、メカニックエンジニア、エレクトロニックエンジニアなどの様々な専攻科目を持ったスタッフがそれぞれの強みを生かし、協力して研究作品を作ることを基本にしていると知り、この研究の方針はとても効果的かつ効率的で、私自身の学習や研究に取り入れるべきものだと思った。



 DENSO INTERNATIONALでは、現在のIoT技術を用いた自動運転の開発に力を入れており、伺った話の中で自動運転のために車から得られる情報は毎時1TB(テラバイト)に及ぶことを知り、その情報量の多さにとても驚いた。その情報をすべて中枢のサーバーで処理することは効果的ではなく、リアルタイム性を求めるユーザーにとって身近な場所にある装置で処理を行うことで、サーバーへの負荷の軽減とリアルタイム性の向上につながることが見込めるという考えを聞き、不可能と思っていたこともアイディアひとつで可能になることを学んだ。

3.日本とアメリカの企業の考え方の差

 アメリカのシリコンバレーでは特に、スタートアップカンパニー(最先端の技術や斬新なアイディアを売りに市場を開拓しようとする企業)のような最新技術を生み出そうとする企業が多くあるように感じた。日本の企業では、既製品をどのように効率よく生産するか考えることや、上司から下された業務を無難にこなすこと等が高評価につながり、アメリカの企業のようなチャレンジ精神が希薄であるということを感じた。このことに関して、DENSO INTERNATIONALの鈴木さんは、日本の企業はアメリカのように成功するか失敗するかの賭けをすることが怖く動けていないと仰っていた。しかし、鈴木さんは日本の企業のように安定を求めている企業があるからこそ、スタートアップカンパニーのような不安定な企業が活動できるのだとも仰っており、私自身はそうした企業間のバランスがとても重要で、そのバランス自体はいつでも崩れてしまう現状にあるということを感じた。



 今回のアメリカ研修で訪問した企業などは、スタートアップカンパニー色が強いところが多いように感じた。これらのことから、アメリカはスタートアップカンパニーだけでなく、日本の企業のように安定を選び取る企業もあるがゆえに、アメリカの広い国土の中にあってシリコンバレーのようなとても小さな領域における不安定な企業が存在しうるのだと感じた。

4.日本とアメリカの大学の違い

 今回のアメリカ研修で見学をした大学はSanta Clara UniversityとDraper UniversityとStanford Universityの3つの大学であった。Santa Clara Universityではポスターセッションとワークショップに参加をした。そこで一番印象に残っていることは、大学に通う学生のうち、アメリカ国籍の学生がとても少ないということである。ポスターセッション、ワークショップの双方において私がコミュニケーションをとった学生は中国人の学生が多かった。このことから、日本の大学では在籍学生のうち自国の学生の割合が高いのに対し、アメリカの大学では自国の学生の在籍割合が日本ほど高くないように感じた。



 Draper Universityでは、専任教員を雇っていないことにとても驚いた。この大学では専任教員を雇う代わりに企業のCEOや、ベンチャーキャピタル(大きなリターンを狙い積極的な投資を行う組織または個人)、スタートアップカンパニーのCEOなどを非常勤講師として雇って大学の運営を行っているのである。また、始めに大学概要を説明いただいた際の受講方法は、直径約1mのクッションを教室一部屋ほどの広さの空間に無造作に置き、そこでどのような姿勢で聞いていても良いというものであった。日本の大学と比較して教授を雇わないことや、講義・講演を聞くときの姿勢など、多種にわたって大学というものの基本的な定義に違いがあることを感じた。



 この大学はスタートアップカンパニーをとても推進していて、ピッチセッション(アイディアや技術を持った人物が、予算を持つ側へ向けて提案を行うこと)などで大学に認められると、このDraper University自体がベンチャーキャピタルとして出資をしてくれるという事実にとても驚いた。これについては、日本の大学もここまでの規模では無いものの、近い形態をとっている大学もあり、こうした文化を取り入れようとしているのだと感じた。これらのことから、この大学は日本の大学の視点から見ると、大学というよりも企業が行っていることを平然と実行しているように感じ、このスタンス自体もアメリカのスタートアップカンパニーに対しての力の入れ具合を色濃く反映しているように感じた。



 Stanford Universityで一番印象に残っていることは、広大な大学の敷地である。校内は基本的に自転車で移動している学生がほとんどであるように感じた。また、日本の大学よりも、大学の歴史を重要視し、大学独自の歴史資料館を多く保有しているように感じた。



 これについて、私なりの考えでは、日本とアメリカの建物の違いがこれに関係しているという答えに行き着き、この点は地震の多さや敷地の広さが関係しているのではないかと感じた。

 Googleの企業内の方針として、リーダーは仕事ができる人物がなるということを知り、やはりこれも日本と正反対の経営方針であることにとても驚いた。Google内において、あるプロジェクトを作り上げる際には、社員の営業ランキングを作成し、そのランキングのトップになった人物がそのプロジェクトのリーダーとなるものである。これに対して、日本の企業はまず先にプロジェクトを立ち上げるとともに、リーダーやその他役員を決めることが多いように感じる。そうした差が競争力を上げてより良いものができることにつながっていると感じた。



 また、Googleplexで社員のニックさんに、どのようにしたらGoogleの社員になれるかを問うと、まずコンピュータサイエンスを完璧にして次にアルゴリズムをしっかりと理解できるようにすることが大事であることを教えられた。アルゴリズムとプログラミング言語のどちらを優先して学ぶべきかを聞くと、プログラミングを学ぶことでアルゴリズムを理解することができるとの回答があった。また、英語がわからない場合でも、プログラミング言語を完璧にしていれば、プロダクトを作る際に何を作ろうとしているかが大体わかることができるという点でも大いに学ぶ価値があり、多種多様なプログラミング言語を学ぶことは絶対に損をしないことであると感じた。

6.まとめ

 今回の研修では全体を通じて、理系の専門的知識を使う場合が多かったと感じた。そのため、研修内容において理解が困難になることは少なかったように感じた。それ故、学習・研究領域などが異なり、内容が分からない人がいた場合は、どのようにして専門用語や専門的知識を使わずに説明し、理解してもらうのかがとても重要であると思った。



 私はこの研修でアメリカを訪れるまで海外を訪れたことがなく、渡航前はとても不安だった。しかし、研修を終えた今、また海外に行きたいという気持ちが強くあり、自分自身の置かれている環境を変えることは自分自身の価値観を考え直す良い機会になることを改めて感じた。この経験から、今後自己練磨のために積極的に環境を変えて、将来高校の教員になった際に、生徒に伝え得るものを多く経験したいという気持ちがより一層高まった。