名城大学女子駅伝部は今年も恒例の夏合宿を実施。7月31日からの長野・富士見高原合宿では練習量を上げて体力づくりを図り、8月下旬の岐阜・飛騨御嶽高原ではスピードを高めた実践的なメニューをこなした。チームの目標は7年連続の大学女子駅伝2冠獲得だが、その前に9月中旬の日本インカレをはじめとするトラックレースで個々の仕上がりをチェックしていく流れは例年通り。今年のチームの上半期を振り返りながら、夏合宿での近況、秋シーズンの展望などを紹介する。
駅伝シーズンでの快走は、夏場の走り込みにかかっている――。選手たちはそれぞれの想いを秘めて大事な夏合宿に挑んだが、合宿序盤、モチベーションを高める出来事があった。富士見高原合宿とほぼ同時期に行われていたパリオリンピックの陸上競技に、名城大学女子駅伝部OGで初のオリンピアンになった山本有真選手(2023年3月人間学部卒、現・積水化学)が5000mに出場。日本時間の8月3日午前1時10分にスタートした予選1組で17着(15分43秒67)にとどまって決勝には進めなかったものの、大舞台で3000m過ぎまで先頭を独走する積極的な走りを見せて存在感をアピールした。
現チームの3、4年生にとって山本選手は一緒に練習し、寝食を共にしたことがある先輩。「大舞台で戦っている先輩を見て、すごく勇気や刺激をもらった」とそれぞれが口を揃え、「2年前まで同じ練習をやっていた先輩です。自分たちもオリンピックとまでは言わずとも、本気でやればできると思って、先輩に続けるようにがんばりたい」と話す選手もいた。世界の強豪を相手に果敢なチャレンジをした先輩の姿は、現役部員たちを大いに感化した。
U20日本選手権女子3000m優勝
卒業生の山本選手が5000mで2位を占めてパリオリンピックの代表入りをほぼ確実にした6月下旬の日本選手権(新潟市)。それと一緒に同じ会場で行われていたU20日本選手権の女子3000mで、名城大学2年生の山田未唯選手が自己ベストの9分16秒12で優勝を飾り、U20世界選手権(8月27日~31日、ペルー・リマ)代表の座を射止めた。山田選手は北海道各地で行われる中長距離シリーズ「ホクレン・ディスタンスチャレンジ(以下、ホクレン)」の士別大会(7月13日)で9分14秒09とさらに自己記録を短縮して好調を維持。富士見高原合宿ではチームとは別メニューで調整し、「初めての世界大会なので、まずはしっかりと挑戦できれば」と意気込んでいた。
U20世界選手権リマ 女子3000m予選
地球のほぼ裏側に位置する南米・ペルーへの遠征は移動するだけでも大変で、不慣れな地で挑んだ初の国際大会の結果は予選10位(9分38秒38)。環境が整っている日本とはまったく異なりコンディショニングは難しかっただろうが、これからさらに強くなるための貴重な経験だったと言える。今後は日本インカレの5000mに出場予定。「長い距離も自信を持って走れるようなること」が山田選手の駅伝シーズンに向けた課題となる。
成長著しい山田未唯選手をはじめ、今年度前半は2年生の充実ぶりが目立っているおり、チームの指揮を執る米田勝朗監督は「3000mまではある程度のタイムで走れる状態になっているので、夏場の走り込みを経て、秋に(5000m以上の種目で)しっかり走れる選手が出てくると思います」と期待を寄せている。
U20日本選手権と同時開催のシニアの日本選手権で1500mに出場(予選2組12着、4分22秒02)した瀬木彩花選手は、「日本トップクラスの選手と走るいい経験ができました。次は出場するだけではなく、しっかり戦えるようになりたい」とレベルアップを誓っている。3000mではホクレン士別大会で9分15秒33と自己記録を更新。日本インカレでは昨年に続いて1500mにエントリーしているが、夏合宿では駅伝シーズンを見据えて体力づくりに重点を置いて走り込んでおり、「長い距離に対しての抵抗や不安をなくせるよう、きついところで粘ることを心がけながらやっています」と話していた。
同期の成長に触発されているのは力丸楓選手。ホクレン士別大会の3000mでは自己ベストとなる9分24秒98で走ったが、「もうちょっとレベルの高い結果を出したかった。同級生が9分10秒台で走っているので、そのくらいでは走りたかった」と満足していない。「秋以降にいい走りをするためには夏場にしっかり走り込むしかないので、ちゃんと乗り切ろうとがんばっています」と意欲的だ。5000mに出場予定の日本インカレで弾みを付け、その後は郷里・仙台で行われる全日本大学女子駅伝で昨年に続いて活躍する青写真を描いている。
勢いのある2年生が目立つ一方、昨年は力丸選手と共に1年生ながら全日本大学女子駅伝のメンバーになった薮谷奈瑠選手はマイペースで調整中。1月に左膝の靭帯を痛め、その後は右仙骨の疲労骨折も起こして約半年間はプール練習やウエイトトレーニングなどリハビリメニューを中心にこなしてきた。「人のことを気にすると焦ってしまうので、まずは自分の状態を上げることが先決。前半シーズンは試合に出られなかったので、後半シーズンで巻き返せるようにこれから調子を上げていきたい」。10000mに出場予定の日本インカレからステップアップしていくイメージを描いている。
村岡美玖選手も、長引くケガを克服して奮闘中。昨年から大腿骨の疲労骨折、すねの疲労骨折などの故障を起こし、それをかばって骨盤に痛みが出てしまうこともあったが、6月には走り始められる状態へ戻ってきた。「(夏合宿は)ゆとりある感じで練習をしています。故障せず練習を積んでいこう、という思いでやっています」。ようやく痛みがなく走れることに喜びを感じているそうで、今後は「まずはレースに出ること」を目指しながら、「長い距離でしっかりと記録を出し、他校の選手とも戦えるような走りができるようにがんばっていきたい」と前向きに話している。
そんな2年生の先輩たちを追いかけながら、1年生は初めての夏合宿で走り込んだ。昨年のインターハイで3000m日本人トップ(5位)、1500m日本人2位(4位)だった実績を持つ近藤希美選手は、4月下旬のU20アジア選手権(アラブ首長国連邦・ドバイ)に3000mで銅メダルを獲得したものの、その後は貧血に苦しみ、7月には左大腿骨の疲労骨折も発症した。その苦難を経て、夏合宿から練習を再開。「今回、ケガをしたことによって、走れないことの悔しさや、 走れることの楽しさを改めて感じたので、継続して練習できるからだを作っていきたい」と再起を誓う。
初めて名城大学のユニフォームを着て走ることになる日本インカレは1500mに出場予定。「1年生から全カレで優勝してトラックでも結果を残す」というのが入学前から抱いていた目標ではあるが、「無理をして故障することのないように」と慎重に調整していく意向だ。
下級生が成長を見せる一方、米田監督は「上級生にはもう少ししっかりやってほしいところですね。まだスイッチがちゃんと入り切っていない」と厳しい視線を向けている。
チームで戦う駅伝で名城大が勝ち続けているポイントは、重要な区間を上級生がしっかり走ってきたこと。「下級生は比較的楽な区間で結果を出して自信をつけ、上級生になって重要区間を走る」(米田監督)という役割のサイクルを重視し、今年の駅伝もチームの大黒柱は3、4年生に任せるつもりで構想を練っている。
今年は谷本七星選手(4年)が主将として中心的役割を担う。だが、上半期は「うまくいかなかったシーズンでした」と振り返る。6月は約3週間の教育実習があったためチームから離れて自主的に練習を続けてきたが、ホクレン士別大会後に新型コロナウイルスに感染して練習を中断。復帰してすぐに今度は坐骨神経痛を患い、本格的な練習再開は夏合宿に入ってからとなった。
「(ホクレン最終戦の千歳大会に)出られなかった悔しさや、主将として不甲斐ないという思いが強かった」という谷本選手は責任感を日々感じ、チームへの意識が昨年までよりも格段に高まっている。日本インカレには10000mに出場予定で、「日本人選手の中で1番を目指したい。個人で結果を出すことで、同じ練習をしているチームにも勢いがつくと思うので、必死に結果を狙っていきたい」と自らを奮い立たせている。日本インカレは過去3年間出場し、毎年入賞を果たしている(1年:1500m7位、3000m障害6位/2年:5000m7位/3年:10000m7位)が、それを上回る成績が目標だ。
副主将の米澤奈々香選手(3年)も、「前半シーズンで出た大会では結果を残せなかった」とやや悔いの残る時期となった様子だ。6月に足底を痛め、2ヵ月ほどはプールやバイクでの練習に取り組んできたが、8月の合宿ではランニングの練習を再開し、徐々に状態を上げられるよう精を出している。
「ケガでなかなかレースにも出ることができなかったので、夏合宿で練習を積んで、秋の駅伝にしっかりと状態を合わせたい」と巻き返しを期す。日本インカレは1500mに出場予定で、その後は5000mで「15分30秒切り」というハイレベルな目標に向かう。
原田紗希選手(3年)はホクレン深川大会(7月17日)の10000mで32分55秒50と自己ベストを更新した。もっとも、来年春に開催予定の日本選手権10000mへの出場を目指し、まだ発表されていない申込資格記録(今年は32分30秒00)のクリアに向けてレベルアップしていく過程で、まだその水準に到達できていない課題を口にする。日本インカレでも10000mに出場予定で、「1年生で表彰台(2位)に立っているので、もう一度立ちたい。そこを目指してがんばります」と意気込む。夏合宿では「自分が成長して、自分が(チームを)どうにかする、というくらいの気持ちでやっている」ときっぱり。上級生としての自覚が、精力的な練習につながっている。
1年生の時から大学女子駅伝2大会に欠かさず出場している石松愛朱加選手(3年)も順調に練習を積んでおり、夏合宿は「後輩には負けていられないという気持ちでやっています」と上級生らしく取り組んだ。春には「走りたくない」と思った時期もあったそうだが、自身で練習メニューを作るなどして自らモチベーションを向上させる努力を重ねた。「結果が出ないときは、それは自分の努力不足だと割り切って、自分のメンタルがコントロールできるようになってきた」と精神面の成長を感じている。5000mに出場予定の日本インカレでは「順位を重視して走りたい」と抱負を述べた。
初の駅伝メンバー入りを目指している3年生の大河原萌花選手は「練習でできている走りが大会ではできず、記録としても出ていないのがつらい」と今季を振り返る。すねや右足首の痛みなど故障がちだったが、7月上旬の西日本インカレの1500mで3位(4分34秒75)に入って調子は上向き。夏合宿ではAチームで練習を積んでおり、「絶対に駅伝を走りたい」という強い気持ちできつい場面も乗り越えている。上級生として意識も高まり、距離走の練習では積極的な声掛けでチームの士気を高めている姿が印象的だった。
夏の鍛錬期を終えれば9月19日~22日の日本インカレ(神奈川・川崎市)があり、毎年駅伝メンバーの選考に際して重視しているアスレチックチャレンジカップ(新潟市、9月28日~29日)にも複数の選手が出場する予定で、各自が目標達成へ向けて邁進していく。そして、なにより大切な駅伝シーズンは2ヵ月弱に迫っている。全日本大学女子駅伝は10月27日に宮城県仙台市で開催される。昨年は7年連続8回目の優勝を果たしており、今年もその座を譲るつもりはない。
夏合宿以降はチームの一体感づくりに励んでいる主将の谷本選手は「チームのまとまりをより意識して、ぶつかり合いながらでも、自分の想いやチームに対しての想いをどんどん膨らませていくつもりです」ときっぱり。これまで6年連続で全日本大学駅伝と富士山女子駅伝の2冠を達成している名城大学女子駅伝部。連勝の継続を目指して、たゆまぬ努力を続けていく。
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