年末の風物詩、全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)が今年も12月30日、静岡県で開催された。名城大学女子駅伝部はこの大会では2018年から6年連続で優勝を続けており、その継続を目指して臨む大会となった。10月末の全日本大学女子駅伝では4位に終わり、その雪辱を狙う舞台でもある。大会前日の記者会見で指揮官・米田勝朗監督が「2ヵ月で大きく変わるものと思っていないが、やってきたことをレースで表現してほしい」と緊張感ある面持ちで語った。
レースは静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社をスタート、同県富士市の富士総合運動公園陸上競技場をフィニッシュとする7区間43.4kmのコースで実施。スタート時の気温は9度、天候は曇りで穏やかな駅伝日和となった。午前10時の号砲で、選抜2チームを含む全24チームの第1走者が一斉に出発した。
1区は4.1km。前回、前々回とこの区間で区間賞を獲得している柳樂あずみ選手(人間学部3年)が今年もここを担った。最初の1kmは3分13秒と、近年のなかでは速いペースでの幕開け。中盤を過ぎてから全日本選抜の小川陽香選手(立教大学2年)が飛び出し、単独トップに立った。2位集団がそれを追走したが、柳樂選手はそこからも後れ、13分15秒の15位で中継。「流れを作りたいと思っていた中でこの結果となり、申し訳ない気持ちです」と振り返った柳樂選手。8月後半から右アキレス腱のけがで2ヵ月ほど走れない時期があり、「(駅伝シーズンに臨む)過程の部分で後悔が残った」と唇を噛んだ。この区間は日本インカレ10000m覇者の小川選手が区間タイ記録(12分42秒)をマークする快走で後続を15秒引き離して区間賞を獲得。柳樂選手は先頭から33秒差でのタスキ渡しとなった。
2区(6.8km)は米澤奈々香選手(人間学部3年)が昨年に続いて担当。全日本大学女子駅伝優勝の立命館大学がエースの村松灯選手(4年)をここに配するなど、前半の重要なポイントとして強力なライバルが集まった。米澤選手は玉川大学、帝京科学大学をかわして2つ順位を上げたものの、区間13位(21分50秒)と流れを変える走りとはならず。「1区で少し遅れてしまい、予定していた位置ではなかったのですが、自分がしっかりリズムを変えていかなければいけませんでした。それにもかかわらず、情けない走りをして3区にその流れを渡してしまった」と肩を落とした。
この区間では日本体育大学の齋藤みう選手(4年)が区間賞の走りで同校を9位からトップに押し上げ、大東文化大学、立命館大学がそれぞれ2、3位で中継。名城大学は先頭から1分16秒差の13位で次の区間へタスキをつないだ。
3区(3.3km)は近藤希美選手(人間学部1年)が大学で初めての全国駅伝出走。10分44秒の区間14位で一つ順位を落とす苦戦となった。「全日本大学女子駅伝で走れなかった分もいい走りをしたかったのですが、それが叶わず自分自身に失望しました。もうちょっといい走りができると期待していた部分があったのですが、戦うことすらできませんでした」とレース後には涙を抑えられなかった。
この区間は立命館大学の森安桃風選手(1年)が区間賞を獲得して同校が2位に浮上。日本体育大学が3秒差で先頭を守り、名城大学は首位と1分41秒差の14位でタスキをつないだ。
4区(4.4km)は瀬木彩花選手(法学部2年)が担当した。東洋大学、中央大学を抜いて順位を2つ上げ、14分31秒の区間7位でタスキをつないだ。「最低限の走りはできたと思うのですが、どんな状況でもらっても区間賞争いができるような走りができないといけないと思い、自分の弱さを感じました」と厳しく自己評価した瀬木選手。この経験を今後の成長への糧とする。
この区間では立命館大学の山本釉未選手(1年)が区間新記録の13分54秒で走破して首位に立った。名城大学はそこから2分15秒差の12位で中継。レースは後半に突入した。
最長10.5kmのエース区間・5区は谷本七星選手(人間学部4年)が昨年に続いて任された。谷本選手はこれで4年間の2大駅伝すべてに出走。今回は主将として、名城大学のユニフォームをまとって走る最後の駅伝に臨んだ。これまでにない追い上げる展開で5人抜きを演じ、34分41秒の区間4位と力走。入賞圏内の7位まで順位を押し上げて、学生駅伝最後のタスキ渡しを完遂した。「このチームのために、支えてくれたいろんな人たちのために、その思いだけで走りました。自分の力をしっかり出し切って終われたので、後悔なく卒業できます」と万感の思いでレースを振り返った
前方でも順位の入れ替わる熱戦が繰り広げられ、大東文化大学のサラ・ワンジル選手(2年)が区間賞を獲得して首位を奪取。26秒差で日本体育大学、さらに5秒差で立命館大学が続き、不破聖衣来選手(4年)の区間2位の力走をした拓殖大学が10位から4位へ躍進。名城大学はトップから2分35秒差の7位で中継した。
6区(6.0km)を担ったのは原田紗希選手(法学部3年)。笑顔で谷本選手からタスキを引き継いだが、思うようにペースは上がらず20分26秒の区間7位での継走となった。全日本大学女子駅伝の後、心身の調子を整えきれず苦闘していた原田選手。「そこから急ピッチで(立て直しました)。自分が走る資格はないと思っていたのですが、いろいろな方々に支えられてなんとかこの舞台に立たせてもらえました。その感謝の気持ちと、もっといい状態で走ればもっといい順位だったと思うので、申し訳ない気持ちとでいっぱいです」とレース後に涙をこぼした。
首位争いは白熱し、立命館大学の福永楓花選手(4年)が区間新記録(19分12秒)となる区間1位の快走でトップを奪い返した。日本体育大学の嶋田桃子選手(4年)も従来の区間記録を上回る19分23秒でチームを2位に押し上げる。両校の差は6秒。大東文化大学がさらに43秒差でそれに続き、勝負は最終区間へ。名城大学はこの区間終了時点でトップから3分18秒差の7位となった。
最終7区(8.3km)は高低差169mの厳しい上りコース。ルーキーの山田桃子選手(人間学部)が初めての大学駅伝にしてこの難所に挑戦した。3km過ぎからの急坂に苦しめられながらも前へ前へと足を運ぶ。城西大学にかわされて一つ順位を落としたが、富士総合運動公園陸上競技場では歓声のなかでチームの仲間たちに迎えられ、8位でフィニッシュテープを切った。個人成績は31分26秒の区間12位で、「思い描いた走りが全然できませんでした」と話した通り、ほろ苦い駅伝デビューとなった。
総合タイムは2時間26分53秒。1位は立命館大学で、記録は2時間21分09秒。2020年に名城大学が作った大会記録(2時間21分38秒)を塗り替える大会新だった。2位は大東文化大学で2時間23分47秒、3位は日本体育大学で2時間24分02秒だった。
米田監督は大会を振り返り「年間を通じてきちんと(練習を)やれなかった選手が多かったので、こういう結果になるのは仕方ない。自分たちはやっぱり甘かったんだ、ということに心から気づいてほしい」と総括。「厳しい結果を突きつけられ、もう一度強くなるチャンスをもらったと受け止め、これから頑張ってほしい」と、現実を直視するとともに、未来に目を向けた。
今大会、序盤で出遅れる苦しい展開のなかで勇を鼓したのがメンバーでただ1人の4年生として出走した谷本主将。まさに最上級生の走りを実現させ、爽やかなラストランとなった。今年度はチームを率いる立場として常に前に立ち、「どうやったらみんなが上がっていけるかを考えてここまでやってきました。練習でも絶対に一番きついところは私が走ると決めていたので、それを貫いてきました」。故障者の続出する状況で苦労も絶えなかったが、「走りで引っ張るしかない」と心に決めた自身の取り組みに胸を張り、悔いを残さず笑顔で次のステージへ向かう。卒業後にはJP日本郵政グループへ進み競技を続けることが決まっており、名城大学女子駅伝部でのすべての経験を今後の力に変えていく。
副将として谷本選手と協力してチームを牽引してきた米澤選手は来年度最高学年となり、新チームでいっそう中心的な役割を担うこととなる。「1年間でどれだけ自分たちが変われるかチャレンジしたいと思います」と語り、すでに視線の先には1年後の大会がある。優勝した立命館大学をはじめ、今大会で表彰台を占めた大学はいずれも過去何年間も常に上位争いを続けてきたことに触れ、「自分たちは8位と一気に順位を落とし、2位、3位にも食い込めないというようなチームになってしまっていました。他大学のような粘り強さが名城には足りないと思い、そういった他大学の強さをしっかりと学んで、来年は強さをより磨いて戻ってきたいです」と抱負を述べた。
米田監督は「『米澤が変わればチームが変わる』というくらい影響力があると思います。口で言うだけではなく、しっかり結果を出せる選手に変わってほしい」と、変化をもたらすことのできる存在として大いに期待を寄せている。女子駅伝部は過去に五輪・世界選手権代表選手を含め数々の名選手を輩出してきたが、米澤選手にはそういった選手たちをも上回るポテンシャルを持つと太鼓判を押し、実行力を備えたエースが新チームの原動力となる未来を思い描いた。
これからチーム一同目指していくのは1年後の日本一の座の奪還。米田監督は今大会終了後のミーティングで選手たちを叱咤激励した。「もう2位以下で満足できるようなチームじゃないし、周りからも2位以下で頑張っていると言われるチームでもない。それを宿命だと思って、あとはやるしかない。とにかく『1年間、本気でやった』と自信を持って言えるような競技生活を送ってもらいたい。そうじゃなかったら、簡単に日本一になんか取り返せない」。
それに応えるように、来年以降もチームに残る選手は今後に向けて気持ち新たに次の目標を語っている。瀬木選手は「来年は自分が、全日本大学女子駅伝なら1区、富士山は1区や2区を自信を持って走れるように頑張っていきたい」と重要区間を担う選手となるべく成長を誓う。
原田選手はハーフマラソンで学生の世界大会であるワールドユニバーシティゲームズの出場権を獲得し、そこで優勝することが目標。「(実現できれば)駅伝の長距離区間を安心して任せてもらえる存在になれると思うので、それをモチベーションにしっかり力をつけていきたい」と気合を入れ直した。
今回駅伝デビューを果たしたルーキーたちは〝優勝を経験していない学年〟となり、それだけにより強い思いで今後の部を担う気概を見せる。「優勝したくて名城大学に入学したので、優勝できるように来年も頑張りたい」と意気込んだのは山田選手。近藤選手は「『1年目から経験ができたんだ』と先輩からも言っていただいたので、この悔しさを無駄にせず次につなげたい」と前を向いた。
大会終了後、米田監督はさまざまな感情が入り交じる胸中を語った。「近年は『また来年も勝たなくちゃいけない』というプレッシャーの中での選手の姿しか見ていなかったので、来年が楽しみだと思ったことはなかった。今は素直に、来年どこまで立て直すことができるのかを見ていくことが楽しみです」。指揮官の目に希望が宿り、新たな時代の到来を予感させた。
2018年から2023年まで全日本大学女子駅伝で7連覇と最多連続優勝記録を樹立、富士山女子駅伝でも2019年から2023年まで6連覇を果たし、6年連続大学女子駅伝2冠の偉業を成した名城大学女子駅伝部。常勝チームとしての歴史に一つのピリオドが打たれ、新たな目標へ向かう決意でこの年が締めくくられた。
順位 | 大学名 | 記録 |
---|---|---|
優勝 | 立命館大学 | 2時間21分09秒 |
2位 | 大東文化大学 | 2時間23分47秒 |
3位 | 日本体育大学 | 2時間24分02秒 |
4位 | 拓殖大学 | 2時間24分05秒 |
5位 | 順天堂大学 | 2時間25分09秒 |
6位 | 城西大学 | 2時間25分27秒 |
7位 | 大阪学院大学 | 2時間25分52秒 |
8位 | 名城大学 | 2時間26分53秒 |
区間(距離) | 選手名 | 通算順位 記録 | 区間順位 記録 |
---|---|---|---|
1区(4.1m) | 柳樂 あずみ(3年) | 15位 13分15秒 | 15位 13分15秒 |
2区(6.8km) | 米澤 奈々香(3年) | 13位 35分05秒 | 13位 21分50秒 |
3区(3.3km) | 近藤 希美(1年) | 14位 45分49秒 | 14位 10分44秒 |
4区(4.4km) | 瀬木 彩花(2年) | 12位 1時間00分20秒 | 7位 14分31秒 |
5区(10.5km) | 谷本 七星(4年) | 7位 1時間35分01秒 | 4位 34分41秒 |
6区(6.0km) | 原田 紗希(3年) | 7位 1時間55分27秒 | 7位 20分26秒 |
7区(8.3km) | 山田 桃子(1年) | 8位 2時間26分53秒 | 12位 31分26秒 |
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