2025/11/07

Vol.4 昨年のリベンジならずも意地の表彰台

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10月26日、宮城県仙台市で第43回全日本大学女子駅伝対校選手権大会が開催された。大会は弘進ゴムアスリートパーク(仙台市陸上競技場)をスタート・フィニッシュとする6区間38.0kmで行われ、オープン参加1チームを含む26チームが駅伝日本一の座を懸けて競い合った。名城大学女子駅伝部は27年連続27回目の出場。8連覇を目指した前回大会では4位に敗れ、2年ぶりの優勝を目指して臨む大会となった。

米田勝朗監督は前日の会見で、名古屋ゆかりの武将・徳川家康の名言「人は負けることを知りて、人より勝れり」を引き、チームの状況をこの言葉に重ね、昨年の敗北から再起して強くなった姿を披露する決意を語った。
12時10分のスタート時の気温は15.4度。前日から降り続く雨空の下、戦いの火蓋が切られた。

期待のルーキーが1区で思わぬ苦戦

女子駅伝部の1区(6.6km)には細見芽生選手(1年)が起用された。最初の1kmは3分15秒とまずまずのペース。細見選手が3km過ぎまで果敢に先頭集団を引っ張ったが、そこから集団のペースアップにつくことができず、中継所ではトップの城西大学と36秒差でのタスキ渡しとなった。

個人成績は21分29秒の区間8位。10000mで4月の日本学生個人選手権と6月の日本インカレでいずれも2位を占め、7月下旬のワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ・ラインルール)ではメダルにあと一歩の4位に入賞するなど力を付けていた細見選手にとっては不本意な結果で、名門チームの1区を担うプレッシャーや疲労の蓄積などが影響して本来の走りができなかったのか。

「まだまだ力不足で、後半は体が動かず、周りの選手に全然歯が立たなかった。ラスト1.5kmからペースがもう一段階上がった時に対応しきれず、全然走れませんでした」と振り返り、苦い大学駅伝デビューとなった。
1区では区間賞の本間香選手(城西大1年)をはじめ、6位までが従来の区間記録を上回る好記録ラッシュでの幕開けとなった。

最後の仙台、4年生トリオが追い上げ

2区から4区は4年生が並ぶオーダー。指揮官の米田監督は「ここで勝負を決めたい」と考え、最上級生に中盤区間を託した。

最短4.0km の2区は大河原萌花選手が担当。これまで長く故障に苦しんできたが、4年目で初めての駅伝出走となった。米田監督もチームの秘密兵器になりうる選手として名前を挙げ、チーム随一のスピードに期待を寄せた選手だ。

区間2位の12分50秒と力走し、帝京科学大学、筑波大学をとらえ順位を2つ上げて次のランナーへタスキを渡した。「走っている時間は本当にあっというまでした。4年間の思いを振り返りながら、レースを楽しんで1秒でも早くタスキを渡そうという気持ちで走りました」と、万感の思いを噛み締めるレースとなった。

3区(5.8km)はチームの主将・米澤奈々香選手が任された。「どんな位置で(前の走者が)来ても自分のやるべきことは変わらない。やってきたことを信じて、仲間を信じて走るしかない」との思いで4度目の杜の都へ走り出した。

大東文化大学、福岡大学をかわして2つ順位を上げ、4位で中継。「後半しっかり(ペースを)上げていくイメージを持ち、自分の中ではそれを実行できたと思います」と、自身最後のこの大会での走りを振り返った。個人記録は従来の区間記録を上回る18分26秒の区間2位だった。

依然トップを走る城西大学との差は41秒となった。東北福祉大学・佐々木菜月選手(3年)が区間新(区間1位)の快走でチームを2位に上げ、3位には前回女王の立命館大学が続いた。

4区(4.8km)を担ったのは石松愛朱加選手。米澤選手と同じく4年連続での全日本大学女子駅伝出走を果たした。「(2、3区で)追い上げているのをテレビ中継で見て、背中を押してもらった気持ち」で走り出し、前を走っていた大東文化大学をかわして3位まで順位を押し上げて中継した。

16分00秒の区間3位で、「個人としてはあまりいい走りではなかったと思っています」と反省も口にしたが、「4年生としての走りはしっかりできたかな」と、最上級生の役割を全うした。上位2校の順位は変わらず、トップの城西大学との差は49秒で、勝負は後半戦へ突入していった。

もう一人の新人が最長区間を担う

5区・6区は長距離区間が続き、この2区間でコース全体距離の44.2%と大きなウエイトを占める。5区は9.2kmの最長区間。橋本和叶選手がルーキーながらこの重要ポジションに起用され、単独走が続くなかで堅実な走りをキープした。
ワールドユニバーシティゲームズのハーフマラソン銀メダルの土屋舞琴選手(立命館大4年)の追い上げを受け、一時は逆転を許した場面もあったが、中継所までに再度前に出て4位で最後のランナーへタスキをつないだ。橋本選手の個人成績は30分21秒の区間5位。

「1年生から最長区間を任せていただき、前の選手を最後まで諦めないで追うことができたのは良かったと思います」と頼もしくレースを振り返った。

この区間では大東文化大学のサラ・ワンジル選手(3年)が3年連続の区間賞を獲得し、首位を奪って最終区間へタスキを運んだ。続く2位には48秒差で東北福祉大学が続き、城西大学がトップから1分17秒差の3位で中継した。名城大学は先頭から1分30秒差の4位。そこからタイム差なしの5位には立命館大学が続き、混戦模様で各校の最後走者へタスキが渡った。

3位でフィニッシュ、2年ぶり表彰台に返り咲く

最終6区(7.6km)は全体で2番目に距離の長い区間。村岡美玖選手(3年)がアンカーを担当した。走り出す前には米田監督との電話で「絶対にメダルを確保しよう」とプランを確認し、名城大学のユニフォームで初めての大学駅伝に出走。42秒先行していた東北福祉大学を後半にかわして3位に上がった。
前方でもドラマチックな逆転劇が演じられ、ラスト1kmを切ってから首位が交代。城西大学が再度トップに立ち、仙台市陸上競技場へ最初に到達すると、僅差で大東文化大学が続き、そのすぐ後に村岡選手も競技場に姿を現した。

最後まで諦めない姿勢でトラックを駆けたが、栄冠までは惜しくも届かなかった。それでも個人成績では従来の区間記録を上回る24分44秒をマークし、城西大学の金子陽向選手(4年)に次ぐ区間2位の力走だった。「がんばったんですが、ちょっと届かなかった。前が見えたからこそ優勝できなかったのはすごく悔しいです。自分も区間1位になれず、その部分で詰められたところがあるのかと思うと悔しい気持ちが大きいです」とレースを回顧したが、これまで苦しんできたケガからの復活を印象付ける見事な大学駅伝デビューとなった。

総合成績は城西大学が2時間03分28秒で25年ぶり3回目の優勝。2位は大東文化大学で、記録は2時間03分44秒だった。名城大学は2時間03分50秒の3位でフィニッシュ。目標の優勝には22秒及ばなかった。

富士山女子駅伝で頂点へ

今大会では6区間のうち、4区と5区を除く4区間で区間新が誕生している。1区と3区ではそれぞれ区間6位までが従来の区間記録を上回った。2023年にコースが変更されたため現行コースでの実施は3回目とはいえ、多くのランナーが好記録で走破するレースが展開された。

「序盤の流れが大事だというのを、去年に続いて痛感しました」と、米田監督は今大会を振り返る。流れを左右する重要な1区を務めた細見選手は「強い他大学との差を広げるのを求められていたと思うし、私自身もそれができると思っていました」とレース後に話し、思惑どおりとはいかなかった自身の結果に涙を流したが、米田監督はこの区間について「どんなに強い選手でもプレッシャーのある中で走らなくてはいけないところ。1年生の選手に(チーム成績の)責任を負わせることは絶対にできない」とルーキーを励ました。
一方で、最上級生には今大会で見せたパフォーマンス以上のものを期待し、改めて奮起を促している。「(ばん回が必要となる可能性も加味して)そのために2区から4区に4年生を3人並べましたが、本当に4年生としての立派な走りができたかというと、まだまだそこにはたどり着いてなかったと思う。だからこそ、22秒という優勝校との差になったと思います」と発破をかける。

キャプテンの米澤選手はそれに応じるように「私たちがしっかりと強くなって、富士山女子駅伝では後輩たちに楽させてあげながら優勝に導けるように、4年生みんなでがんばりたいと思います」と前を向いた。

名城大学女子駅伝部にとっては前回大会の4位から一つ順位を上げて2年ぶりのトップスリー入りとなったが、今回の結果に満足することはなかった。この大会では2017年から2023年まで7大会を制して大会史上最多連続優勝を誇ったが、その記録が前回大会でストップ。2018年から2023年まで6年間続いた富士山女子駅伝との2冠も途絶えることとなり、なんとしても1年で日本一の座を奪還したいという思いで臨んできた。
さまざまな準備を重ねて挑んだが、今回は栄冠を取り戻すことができなかった。それでもうつむいたままの選手はいない。顔を上げ向けた視線の先には12月30日に開催される富士山女子駅伝がある。そこでもう一度、日本一にチャレンジすることとなる。

チームを率いるキャプテンの米澤選手は「3位という結果もしっかりと受け止め、2ヵ月後の富士山女子駅伝で優勝を目指すチャンスがまだあるので、そこに向けてもう切り替えていきたいです」とレース後すぐに次のターゲットへの思いを口にした。富士山女子駅伝では2018年から2023年まで6連覇をしていたが、昨年は8位と涙を飲んだ。その雪辱含め、4年生にとっては最後のチャンスである年末決戦に万全を期して臨むことを誓っている。「状態をさらにどう上げられるかがカギだと思います。ここからケガや体調不良なく、2ヵ月間しっかりと練習すれば、優勝は見えてくると思います」と米澤キャプテンは見据え、自身最後の大学駅伝で有終の美を飾ることを思い描いている。今回の1区で忸怩(じくじ)たる思いをした細見選手も、「初心に戻って練習を積んで、富士山(女子駅伝)に挑みたいです」とリベンジに燃える。「やっぱり駅伝で勝つということはそれだけ難しいことなんだと改めて感じてます。勝つのはそんなに簡単なことではないということを、部員と一緒にまた考えていきたい」と語ったのは米田監督。

富士山女子駅伝までの2ヵ月で、この難題にどう向き合い、どう突破口を見いだすか。その探求の先に、大きな一勝が待っている。