名城大学附属高等学校陸上競技部の女子長距離ブロックは、今年度から名城大学女子駅伝部の協力を仰ぎながら目標に向かって鍛錬を積んできた。2023年まで全日本大学女子駅伝で7連覇を飾るなど、大学女子駅伝界で活躍する駅伝部の米田勝朗監督が、次代を見据えた大きな一手として、立花前理事長に提案したのが附属高校との「高大連携による本格強化」だ。
これまで選手スカウトは、米田監督が築いてきた全国の人脈に依拠する部分が大きかった。しかし、将来的なチームの持続可能性を考えた時、監督自身の頭には強い危機感があったという。
「私も年齢的にいい歳になってきました。数年後に次へバトンタッチをする上で、何もない状態で引き継いだら、次の指導者は相当にきつい。特にスカウトの部分で、私から次の人に代わっても一つの安定した流れができていて、毎年一定数、良い選手を確保していくためには、附属高校の存在がとても大きなメリットになると考えました」
周囲からも「名城の附属で駅伝をやれば絶対に強くなる」と言われ続けていた。その構想を具現化する最大の担い手となったのが、昨年度、附属高校女子長距離の監督に就任した松澤誠(たかし)監督だった。
日本体育大学出身の米田監督と日本大学出身の松澤監督は、ともに大学時代に大所帯のチームで主務を務めた経歴を持つ30年来の盟友。松澤監督は前任の千葉・成田高校で19年間にわたって指導し、女子マラソンで2023年ブダペスト世界選手権代表にもなった名城大OGの加世田梨花選手(現・ダイハツ)をはじめ、数々の選手を全国区へ育て上げた。両親の介護などの事情で地元・愛知へ戻る松澤監督と、良い指導者を探していた米田監督のタイミングが合致。当時の大学理事長への直談判を経て、異例のスピードで招聘が決まった。
松澤監督は「高大が連携して、将来世界で戦えるような強いアスリートを育ててみない?と米田先生から話をいただき、本当に有り難かった」と振り返る。
進学校でもある名城大学附属高校のスタイルに合わせ、「練習をがっつりやらせるのではなく、勉強と部活の両立、そして自主性を重んじています。ですから部としても週4日しか練習していません」と、松澤監督は高校生に詰め込みすぎない指導方針を貫く。
そうした中で現在、大学と附属高校は週2回(火曜日・土曜日)の合同練習を実施している。火曜日は高校生が大学の練習拠点である天白キャンパスに合流し、夜は大学女子駅伝部寮に宿泊。大学生とともに同じ夕食を摂り、翌水曜日の早朝練習をこなしてから高校へ登校するという。
大学の部員にとっても、高校生の存在は大きな活力となっている。主将の瀬木彩花選手(4年)は次のように実感を語る。
「高校生はすごく元気で明るいので、私たちも元気をもらっています。スピード練習などでは高校生の方が元気よく走れている時もあって、刺激をもらいながら練習ができています。寮にいる時もテストに向けて勉強も頑張っていて、自分たちより勉強している感じがして偉いなと感じます(笑)」
大学と高校の垣根を取り払い、〝チーム名城〟の仲間として互いを高め合う――。名城が誇る駅伝DNAを未来へつなぐ新たな挑戦が、いま力強く加速している。
■市川 紗帆(いちかわ さほ/2年/岡崎市立六ツ美北中学校出身)
チームただ一人の2年生である市川選手は、愛知県代表として全国都道府県対抗女子駅伝に2年連続出場。中学3年生だった2025年1月の大会は中学生区間の3区で力走(区間12位)して愛知県チームの8位入賞に貢献。今年は高校1年生ながら一般・高校生が出走する7区で区間13位と奮闘した。
高校進学に向けては別の学校を志望していたが、松澤監督の就任を聞き、「陸上を本気で頑張るには名城に入るのが一番」と、願書提出の直前で進路を変更。1年時は女子部員が自身と2年生の先輩数名のみだったため、男子部員に交じりながらひたむきに汗を流した。「個人ではインターハイで決勝に行き、チームでは都大路(全国高校駅伝)に行きたい」という目標は入学時から変わらない。
大学生との合同練習については、「中学の頃から憧れていた選手たちと一緒に練習できる1回1回がすごく貴重。夏合宿も5日間ほど参加させてもらい、走ること以外にも陸上に対する想いなど、たくさんのこと学ばせてもらっています」と目を輝かせる。
今季は7月の日本福祉大ナイター1500mで4分34秒67、9月の日体大長距離競技会3000mでは9分45秒29と自己新をマーク。11月上旬の県高校駅伝へ向け、「3年生と出場した昨年の県駅伝は1区で悔しい思いをしたのでリベンジしたい気持ちもありますが、今のチーム力なら他の後輩が1区を走った方がチームのためになる。私はアンカーの5区で優勝のゴールテープを切りたいです」と、都大路初出場へ闘志を燃やしている。
■是枝 愛香(これえだ あいか/1年/三重県・四日市市立内部中学校出身)
中学時代は全日本中学校選手権(全中)1500mで2年連続決勝を走り、昨年は全国チャンピオンに輝いた。同年の全国中学校駅伝でも1区区間賞を獲得した世代トップランナーだ。クラブチームの友人が見学に行ったことをきっかけに名城大学附属高校の存在を知り、「大学生と一緒に練習できる環境がある」と聞いて「ここだ!」と直感。他校からの誘いを断ち、自ら進学を決めた。三重県四日市の自宅から片道約1時間半をかけて通学している。
高校入学後も破竹の快進撃を続け、愛知県大会1500mで優勝。東海大会2位を経て、滋賀インターハイでも堂々の7位入賞を果たした。7月の日本福祉大ナイター1500mでは名城大の学生による完璧なペースメイクを受け、4分22秒00の自己新を叩き出した。
自身のストロングポイントを「きついところで気持ちで負けない強さと、ロングスパート」と話す是枝選手。「高校の練習もみんなで切磋琢磨できていますし、大学の練習でも大学生の先輩たちが上手に引っ張ってくれて質の高い練習ができています」と充実感をにじませる。
9月の日体大長距離競技会でも3000mで9分23秒46の自己新で好調を維持。秋のシーズンに向けては「まずは国スポ(国民スポーツ大会の少年B3000m)で優勝すること。そして、県高校駅伝で優勝して都大路に行くことです。駅伝では1区で他校の選手を引き離してタイムを稼ぐ走りをしたいです」と力強く宣言。チームのエースとして全国の舞台を見据えている。
■居沢 清美(いざわ きよみ/1年/新城市立鳳来中学校出身)
居沢選手は中学時代、昨年の全国中学校選手権1500mで10位に食い込んだ実力者だ。名城大学附属高校へは自宅からの通学が難しかったが、米田監督の計らいによって高校生部員でただ一人、大学女子駅伝部の寮に入寮。大学生と寝食をともにしながら高校生活を送っている。
「大学生と練習できる環境が一番の魅力でした。遠くて通えないと悩んでいた時に、米田先生から大学生と一緒に生活する提案をいただき、こんなチャンスはないと思って決断しました」と居沢選手。親元を離れた新生活に最初は不安だったが、ビデオ通話で家族と話したり、寮では大学生の先輩たちが温かく迎え入れてくれたことで、「リラックスして過ごせています」と笑顔を見せる。
お弁当作りや勉強、練習の時間管理を自らこなすことで、競技者としての自立心とメンタルが成長。7月の日本福祉大ナイター記録会では、1500mで4分29秒08と自己新をマークした。
「日福のレースはラストを思い通りに切り替えて上げられて楽しかったです。3000mのような長い距離になると、終盤にメンタルが崩れてしまうのが今の課題。今の目標は駅伝で都大路を走って活躍すること。そして、将来は走りで海外の大会に行きたいです」と、世界を見つめながら日々を過ごしている。
■佐野 伊桜里(さの いおり/1年/岡崎市立竜南中学校出身)
全国中学校選手権800m出場の実績を持つ佐野選手は、中学の指導者と松澤監督の縁、そして同じコーチに指導を受けていた先輩・市川紗帆選手の存在が決め手となり、名城大学附属高校への進学を決めた。「ここで1からチームを作ることに惹かれました。高校での目標はインターハイと都大路出場です」と力を込め、高校生のチームメイトは、今やともに目標を目指す大切な仲間となった。
ただ、春先は思うような結果を出せず、「自分のメンタルの弱さや走力の足りなさ、詰めの甘さが出た前半シーズンでした」と真摯に自己を見つめる。その悔しさを埋める原動力となっているのが、大学生との合同練習だ。
「大学生は決められた量や設定よりも、常に『もっと上を目指そう』としていて、私は自分で限界を決めてしまうところがあるので、先輩たちの上を目指す姿がカッコ良いと思います」
3000mの自己ベストも9分台に突入するなど調子を上げてきており、駅伝シーズンでは「絶対に選手として駅伝に出て、都大路行きに貢献したい。都大路ではただ出るだけでなく、名城大学附属高校の名を全国に広められるように頑張りたいです。3区か4区の短い区間で、自分のスピードを活かした走りをしたいです」と話し、チーム全員で戦うことを誓った。
■卜部 桃花(うらべ ももか/1年/名古屋市立天白中学校出身)
1月の全国都道府県対抗女子駅伝で愛知県代表の8区を任され、区間3位の快走を披露した卜部選手。中学時代は1500mの全中参加標準記録突破が1週間間に合わず、悔しい過去を持つ。「高校では絶対に全国の舞台に立つ」という強い思いを胸に、松澤監督の熱心な勧誘を受けて名城大学附属高校へ進んだ。
長い距離に自信を持ち、高校では3000mを主戦場に選択。5月の県大会2位を経て、東海大会でも6位に食い込み、1年生にして見事に滋賀インターハイ出場を勝ち取った。全国の舞台ではペースの急激な変化に対応できず予選敗退となったが、「全国のレベルの高さを肌で知ることができた」と糧にしている。
週2回の大学との合同練習では、入学当初は「火曜と土曜が来るのが少し憂鬱になるくらいきつかった」と明かすが、今では1000mを3分10秒ペースで余裕を持って刻めるまで走れており、9月の日体大長距離競技会3000mで9分32秒47 の自己新をマークした。合同練習も「やるぞ!」と前向きなメンタリティーで臨むことができている。
大学の寮では「細見芽生先輩(2年)が身体のケアマシーンの使い方を優しく教えてくれたり、いろいろな先輩がいろいろなことを教えてくれます」と感謝を口にする。
秋の駅伝に向けては「主要区間の1区を走りたいです。良い流れを作って必ず都大路に行きたいです」と頼もしい言葉が返ってきた。
■近藤 紗杏弥(こんどう さあや/1年/豊川市立西部中学校出身)
中学時代に全国中学校駅伝への出場経験を持つ近藤選手にとって、名城大学女子駅伝部は「駅伝も強くて、トップ選手がどんどん世界に羽ばたいていく」というような憧れのチームだった。
名城大学附属高校を進学先に選んだ理由は、「日本一の名城大学と一緒に練習できるのが魅力でした。まさか一緒にできるとは思っていませんでしたが、できるなら強くなりたいと思いました」と語る。自宅から電車で片道1時間以上かけて通学。朝練は自主的に自宅周辺で行い、往復2時間以上の通学と部活動を両立させている。
高校では中学3年時に納得のいく結果が出せなかった800mを軸に強化。現在は秋の駅伝シーズンを見据え、中距離仕込みのスピードを長い距離へ適応させるトレーニングに注力し、9月には3000mで9分56秒87の自己新をマークした。
大学生との合同練習では学ぶことが多いという。「大学生は切り替えがすごいです。練習ではガっと集中して取り組みますが、寮や食事ではみんなが楽しくコミュニケーションを取っている。それは6日間参加させていただいた夏合宿でも感じました。先輩方はみんな優しくて、恋バナなんかもしています(笑)」と笑みがこぼれる。
週2回とはいえ、これまでの合同合宿で近藤選手は確かな手応えをつかんでいる。チームの目標である都大路初出場への準備も順調だ。
本格始動からわずか半年。高大連携がもたらした果実は、タイムや大会実績という目に見える数字となって明確に表れている。
7月に行われた日本福祉大学ナイター記録会では、名城大の学生が高校生のためにペースメーカーを務め、絶妙なイーブンペースで先導。その結果、是枝選手の1500mでの4分22秒00をはじめ、出場した選手たち全員が自己新記録をマークした。米田監督はこの舞台裏をこう明かす。
「インターハイ前で、是枝さんに自信をつけさせるために大学生が1400mまで引っ張りました。結果的に是枝さんはインターハイで7位に入賞したので、大学生にとっても『自分のペースメイクが高校生のプラスになった』と大きな自信になります。助けたり、助けられたりするのがチーム。高校生も大学生も関係なく、仲間として高め合えるのがこの連携の最大のメリットです」
大学チーム自身も、高校生のひたむきな姿に背中を押され、10月25日にある全日本大学女子駅伝(仙台)に向けた士気を高めている。ここ2年は頂点から遠ざかっている悔しさを胸に、目指すは3年ぶりとなる「大学日本一奪還」だ。瀬木主将は「優勝を知っているのは私たち4年生だけ。私たちの走りが高校生に勇気を与えられるように、背中で引っ張って日本一をつかみ取りたいです」と前を見据える。
そして、全日本大学女子駅伝の2週間後には愛知県高校駅伝が行われる。附属高校の選手たちはそこで優勝し、全国高校駅伝初出場の切符をつかむ青写真を描く。強豪校が立ちはだかる愛知決戦に向け、松澤監督は「周りからは『1年目は無理じゃないか』と言われますが、やるからには行きたいですね」と意気込み、今回の高大連携の意義を改めて嚙みしめた。
「高校、大学という区切りではなく、『チーム名城』のジュニアチームという位置づけでやっています。トップチームである大学生の先輩たちに追いつき、追い越す気持ちで胸を張って挑みたいです」
大学が全日本で頂点に返り咲き、その勢いに乗って高校生が都大路への切符をつかみ取る――。互いを高め合う〝名城ファミリー〟の挑戦は、女子駅伝界に新たな風を吹き込もうとしている。
COPYRIGHT © MEIJO UNIVERSITY, ALL RIGHTS RESERVED.