2021/06/21

4年連続の「2冠」へ挑むシーズン始まる Vol.1

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年末の全日本大学女子選抜駅伝(通称:富士山女子駅伝)で3年連続の大学女子駅伝2冠を達成してからはや半年、名城大学女子駅伝部は今も練習に汗を流している。今年度は和田有菜選手(4年)がキャプテンに就任。副キャプテンの松智美ムセンビ選手(4年)とともに、この部を牽引してチームづくりに勤しむ。各部員がそれぞれの目標を胸に、グラウンドを駆ける姿はこれまでより一段と力強くなったようだ。

トラックレースで早くも存在感示す

今年のトラックシーズンはすでに始まっており、名城大学の選手たちも活躍している。6月に山本有真選手(3年)が1500mで4分18秒88と自己記録を更新して日本選手権の参加標準記録を突破。10000mで躍進した小林成美選手(3年)が5000mでも自己ベストの15分33秒69を出すなど、昨年駅伝で活躍した選手がさらにパワーアップした姿を見せている。日本グランプリシリーズ陸上の各大会では実業団の選手と競い合う機会も得て、学生の枠にとどまらず、日本のトップレベルで戦う強いチームは健在だ。

トラックシーズン一番の大舞台はなんといっても日本選手権。日本一を競うこの大会は、今年は東京オリンピックの代表選考も兼ねて行われる。10000mのみ別日程ですでに実施され、他の種目については6月後半に大阪での開催が間近に控えている。

5月3日に静岡・エコパスタジアムで行われた日本選手権・10000mでは小林選手が32分08秒45と自己ベストの走りで3位入賞。この種目で学生として表彰台に立つのは10年ぶりの快挙だった。荒井優奈選手(3年)も32分44秒39で14位と健闘。荒井選手は昨年度は駅伝メンバーに入ることができなかったが、その悔しさをバネに個人のレースで実績を積み上げている。4月には32分33秒47の自己記録をマークした。

6月24日から27日に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催される日本選手権にも複数の選手がエントリーしており、有力選手が顔をそろえる日本最高峰のレースでどんな戦いを繰り広げるのか期待が高まる。1500mに松智美ムセンビ選手(4年)と山本有真選手(3年)、5000mに和田有菜選手(4年)が出場予定だ。
日本選手権と同日開催のU20日本選手権には1年生の谷本七星選手が1500mと3000m障害にエントリーしており、新人の活躍にも注目だ。

頼もしい新人が6名加入

今年は谷本選手を含め6名の選手がチームに加入した。その顔ぶれをここで紹介しよう。

谷本 七星(人間学部・人間学科/広島・舟入高校卒)

1年生ながらシーズン前半から活躍を見せている谷本選手。5月の東海インカレでは初めての5000mに挑み、チームの先輩を抑えて16分23秒04で優勝した。しかし「先輩は他の種目に出場した後のレースだったので、勝てたという感じではないです。むしろ16分20秒が切れなかったのが少し悔しい」と志は高い。高校時代には地元・広島で行われた全国高等学校陸上競技大会の3000mで8位の成績を収めている。高校は進学校だったため国公立大学への進学も考えていたが、進路選択の際に名城大学が合いそうだと直感し、入学を決めたそうだ。「まだまだ自分は無名の選手だと思うので、大きな大会で結果を残して、皆さんに知ってもらいたい。国際大会に出場できる選手になりたいです」と、大学でのさらなる飛躍を誓っている。

五味 叶花(人間学部・人間学科/長野・長野東高校卒)

名城大学女子駅伝部と関わりの深い長野東高校出身の五味選手。これまで多くの長野東高校出身ランナーが名城大学で活躍してきたが、そのなかでも和田選手へ特に強く憧れて本学への入学を決意した。2020年1月の全国都道府県対抗女子駅伝では和田選手、そして同じく長野東高校出身の小林選手とともに長野県チームの一員としてたすきをつないだ経験を持つ。高校2、3年生時に全国高校駅伝にも出場している。昨年はコロナ禍でトラックの競技会は中止となったケースが多く、ほとんど出場の機会がなかったため、「今は大会が開催されていることがうれしい」と話した。入学後には谷本選手と同じく東海インカレ5000mに出場し16分45秒56で3位の結果を残している。「大学での目標は、日本代表選手になること。学業もがんばっていきたいです」と意気込んでいる。

川野 朱莉(法学部・法学科/熊本・ルーテル学院高校卒)

川野選手は「練習では強い先輩たちに圧倒され、毎日必死ですが充実した生活を送っています」と話す。スピードよりも持久力に自身の強みを見出し、この強みを伸ばしていきたいと考えているそうだ。高校2年時にはインターハイ1500m、3000mに出場している。大学に入学してからは6月4日に神奈川・平塚で行われた日本学生個人選手権1500mに出場した(4分41秒01で予選9着)が、「まだ物足りない記録しか出せていないので、強くなるためにはどうしたらいいか考えて過ごしています」と高いレベルを求めている。5000m15分台が目下の目標。「ケガなく夏合宿を乗り越えて、駅伝のメンバー争いに絡んでいきたい」と話した。

前川 凪波(外国語学部・国際英語学科/茨城・茨城キリスト教学園高校卒)

「陸上と勉強を両立させてがんばりたい」と話した前川選手は、両親の仕事の事情で小学2年生から中学1年生まで、台湾に暮らしていた。当時現地でふれてきた中国語を大学でも勉強したいと考え、学部は外国語学部を選択。文武両道の大学生活を目指している。高校時代には全国高校駅伝に出場。大学では入学直後の4月24日の日体大長距離競技会で1500m、3000mの2種目で早くも自己ベストを更新している(それぞれ4分35秒45、9分56秒00)。「今はまだ全然力が足りていないと思います。同級生も強い選手ばかりで、追いつきたい。4年間で成長して、駅伝に出場したいですし、インカレなどの大会の標準記録もしっかり切れるようにしたいです」と陸上への情熱も十分だ。

畑本 夏萌(法学部・法学科/長崎・諫早高校卒)

高校2年生でインターハイ3000m出場、チームが8位入賞を果たした全国高校駅伝ではアンカーを務めた畑本選手。高校時代からテレビで観ていた名城大学の駅伝に憧れ、入学を決めたそうだ。「全国トップクラスの先輩と一緒に生活して、毎日勉強になることばかりです」。練習以外の時間には、先輩とダンス動画の撮影することもあるなど、和気あいあいとした生活の一面も話してくれた。現在はやや貧血気味で、徐々に大学での練習に体をならしている段階だ。6月の記録会が大学生としての初レースになる予定で、まずは3000mの9分台を目指し、着実に力を上げていきたいと考えている。「駅伝メンバーに入りたい。そして、駅伝で優勝して、伝統をつないでいきたいです」と力強く話した。

戸村 文音(法学部・法学科/長崎・諫早高校卒)

諫早高校出身の戸村選手は畑本選手と高校からのチームメイト。強豪校の一員として過ごした高校時代には全国高校駅伝を走ることができなかったことから、大学でも競技を続け、果たせなかったことを成し遂げたいと考えるようになったそうだ。「駅伝で走りたい。名城大でチームの優勝を味わいたい」と強い気持ちを語った。大学での新生活では、高校時代は所有禁止だったスマートフォンやパソコンなどにほとんど初めて触れ、リモートでの授業に最初は戸惑ったものの楽しい試行錯誤の日々を送っている。「私の決めたことを応援して、遠い地元から大学に送ってくれた両親に感謝しています。大きな大会に出られるような選手になって恩返ししたいです」と大学での成長を目指す。

昨年はインターハイが開催されず、他の大会も中止が相次いだため、トラックの競技会にはほとんど出場できなかったという選手が多い。そのため、大学での競技会出場の機会を喜ぶ言葉が口にされ、その機会に結果を残すことへの貪欲な姿勢が垣間見られた。
「1年生のフレッシュな姿を見ると刺激がもらえます」と話したのはキャプテンの和田選手。すでに多くの選手が先輩たちと同じ練習メニューをこなしており、名城大学女子駅伝部の一員としてそれぞれが存在感を放っている。

「今年は本当の意味で、勝負の年」(米田監督)

米田勝朗監督は今年のチームについて「毎年のことではあるのですが、6月の時点ではまだうまく回っていません。チームつくりは4年生に任せていますが、まだ自分たちの考えを部員全体に浸透させられてはいないと思います」と冷静な見立てだ。

チームを率いる和田選手は「キャプテンの仕事は一筋縄ではいかないな、と感じています。これまでの先輩の苦労を実感しています」と日々奮闘している。「みんな言ってることがバラバラで、思いを一つにするのはとても大変です。だけど、いろんな意見があるのはそれだけ多くのアイデアがあることだとプラスに捉えています」と個性豊かな部員たちを率いる姿は頼もしい。

今年も最大のテーマは学生駅伝2冠達成だ。とりわけ全日本大学女子駅伝対校選手権大会(通称:杜の都駅伝)は2017年から4連覇しているため、今年優勝すれば、立命館大学による5連覇(11~15年)というこの駅伝での最長連勝記録に並ぶことになる。「入学・卒業のある大学スポーツでは選手が入れ替わりますので、4年というのが一区切りだと考えられます。4連覇と5連覇では全然意味が違うと思いますよ」と、目指す連勝記録に大きな意義を見出している米田監督。今年は「本当の意味で勝負の年」として、学生日本一の座は絶対に譲らないつもりだ。

日本選手権に複数の選手が出場し、メダルを手にする選手も現れた現在のチームに、「実業団を含めた日本トップレベルの選手たちとこれだけ渡り合える大学は名城大学だけでしょう」という自負心を持っている指揮官。一方、これだけの強さを持ちながら、「昨年以上のチームを作らなければスキが生まれる」との緊迫感も抱いている。今年の部員は「負けを知らない」ため、例年以上に気を引き締めているようだ。現在の4年生が入学した2018年の駅伝シーズンは名城大学として初の大学女子駅伝2冠を達成し、それ以降一度も女王の座を譲っていない。昨年度の卒業生は1年時の全日本大学女子選抜駅伝(略称:富士山女子駅伝)で3位に敗れた経験があったが、今の4年生は大学駅伝では文字通り負け知らずだ。だからこそ、気持ちのゆるみで足元をすくわれることのないよう、本当の力をつけることを重要視している。駅伝シーズンまではまだ時間があるが、トラックでしっかりと結果を出し、ライバルとなる他大学が「名城大には敵わない」と戦意喪失するほどの圧倒的な記録を出すことがこのトラックシーズンでの目論見だ。和田選手や松選手、小林選手といった学生トップクラスの選手には、日本学生記録の更新という大きな目標を射程にとらえてほしい、と米田監督は話す。

今年のチームスローガンは「常に考動(こうどう)、今に懸ける」

キャプテン・和田選手が中心となって考案した今年のチームスローガンは「常に考動(こうどう)、今に懸ける」。感謝の気持ちや各自の目標、チーム全体のことを考え、行動に移してそれを示すこと、そして目標達成のために、一瞬一瞬を大切にして過ごすことが重要だという気持ちがこの標語の中に込められている。最上級生全員で話し合って決定したそうだ。
「勝ち続けるのは当たり前じゃない。謙虚な気持ちを持たないといけませんし、基本ができていなければ絶対に結果はでません」と和田選手。最高学年になり、またキャプテンという立場になって、チームを良くしたいという自分の気持ちを改めて確認し、ひとりよがりにならないよう仲間に頼るというプロセスも踏めるようになったと話した。「駅伝二冠を絶対に成し遂げます!」と今年のキャプテンは笑顔で宣言した。
米田監督によれば、チームづくりはまだまだ発展段階。今後もチームはより一体感を高め、成長していくはずだ。