2022/06/07

vol.2 トラックシーズン早々から存在感誇示
4年生4名が新チーム牽引

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全日本大学女子駅伝と富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)の「駅伝2冠」を4年連続で獲得している名城大学女子駅伝部。学生生活を「駅伝無敗」で終えた最上級生は3月に卒業したが、4月には新入生7名が加入し、部員総勢20名の新チームが始動している。今年度も2大駅伝の優勝が最大の目標となり、全日本大学女子駅伝では史上初の6連覇がかかる。
今年度のキャプテンには小林成美選手が就任し、副キャプテンを山本有真選手が担う。寮長の荒井優奈選手、主務の市川千聖さんを含めた4年生4人がチームを率いている。すでにトラックシーズンは本格的に動き出し、名城大学女子駅伝部は存在感を発揮。これまでの活躍を振り返りつつ、その先を展望する。

日本学生個人選手権で小林選手が10000m、山本選手が5000mに優勝

4月15日から17日に神奈川・平塚で開催された日本学生個人選手権には名城大学から11名がエントリー。初日の10000mでは小林選手が33分21秒48で優勝した。同日の1500mでは山本選手が4分24秒79で4位に入り、1年生の米澤奈々香選手と柳樂あずみ選手が5位、6位に続いた。最終日の5000mでは山本選手が15分49秒19で優勝。同じく最終日の3000m障害では谷本七星選手(2年)が10分07秒19の自己新記録で2位を占めた。
この大会は今年の6月30日~7月5日に中国・成都での開催が予定されていた“大学生のオリンピック”と言われる「ワールドユニバーシティゲームズ」(WUG)の選考を兼ねて実施され、大会翌日、小林選手は10000m、山本選手は5000mで代表に内定した。

しかしながら、コロナ禍で中国での感染がなかなか収まらず、5月に入って開催延期が決定。本来、2020年に行われるはずだったWUG成都大会はまたしても1年延期となり、小林選手と山本選手は大学在学中の出場機会を逸してしまった。小林選手は昨年も日本学生ハーフマラソン選手権(3月)の優勝によってWUG成都大会の代表に内定しながら、その後の大会延期決定に伴って出場機会を逸しており、これで2年連続の不運だ。
そんな経緯もあり山本選手は「残念でしたが、あり得ることだと思っていたので、やはりそうなってしまったか、という感じです」と話した。2年連続でのWUG延期決定は小林選手が日本選手権10000m(5月7日、東京・国立競技場)で遠征している期間だったため、2人はメッセージアプリで連絡を取り、励ましの言葉を掛け合ったそうだ。その後は前を向き、新たな目標へ向かっている。

トラックシーズン序盤、それぞれの収穫と反省

4月、5月は日本グランプリシリーズの競技会が全国各地で行われ、こちらにも複数の選手が出場。実業団の有力選手を相手に、名城大学女子駅伝部の選手たちは健闘した。
4月9日の金栗記念選抜陸上中長距離大会(熊本・えがお健康スタジアム)では1年生の柳樂選手が大学初レースにして1500mで4分15秒71をマークし、東海学生記録を28年ぶりに塗り替えた。5月4日のゴールデンゲームズinのべおか(宮崎・延岡)では山本選手が5000mで自己ベスト、15分23秒30の快走をした。こちらも東海学生新記録で、今春卒業した和田有菜選手(現・日本郵政グループ)が2020年に作った記録を1秒84更新した。
山本選手はこれまでケガに苦しむ時期もあったが、現在は「自分でも不思議なくらい、痛いところがなく走れています」と状態は良好。4月30日の木南記念陸上(大阪・ヤンマースタジアム長居)でも3000mで自己記録に迫る9分05秒11の走りをするなどまさに絶好調だ。

4月29日に広島市で行われた織田記念陸上の3000m障害に出場した谷本選手は10分27秒07(6位)で走り切ったものの、レース中に右足首を捻挫。一時期は車椅子や松葉杖を使用するほどだったが、当初の診断で見込まれた状況よりも早く回復しており、復帰の目処が立ちつつある。「ケガを経験して、(3000m障害の)負の部分があるのを知れてよかったと思います。駅伝に影響が出ないように、シーズンの後半には障害は跳ばないと思います」と話し、3000m障害については今後、ケガのリスクも考慮して出場時期を決めていく意向。「5000mで15分40秒を切る」ことを当面の目標に掲げ、現在は身体を強化する補強トレーニングに勤しんでいる。

5月7日の日本選手権10000mには小林選手が臨み、33分35秒89で15位だった。昨年の夏には31分22秒34の日本学生新記録を樹立。今年7月に米国オレゴン州・ユージンで行われる世界選手権の参加標準記録(31分25秒00)をすでに突破しており、日本選手権で3位以内に入れば代表権獲得だったが、この大会での内定はならず、「まわりの期待に応える走りをしたかったのですが、実力不足でした。大切な試合に調子を合わせる難しさを感じました」と小林選手。自身が今年もっとも重視していたWUG成都大会の再延期もあいまって、「気持ちの整理ができていないところがある」と5月中旬には話しており、いったんリフレッシュして再起を誓う。6月中旬に日本選手権(大阪・長居)で行われる5000mの出場資格をクリアしているものの、今後のレース出場は不透明だが、「駅伝へ向けてがんばるのは絶対です」ときっぱり。チームの目標達成に対しては揺るぎない意志を見せた。

4年生の荒井選手も昨年の日本学生ハーフマラソン選手権3位の結果から小林選手とともにWUG成都大会の代表になりながら、大会延期で出場の機会を逃した経験がある。昨年冬に左足首を捻挫した影響が尾を引いていた荒井選手は、“試運転”のつもりで臨んだ4月の日本学生個人選手権の10000mは14位(34分29秒98)とふるわず。5月上旬の日本選手権10000mへの参加資格を有していたが、仕上がりはまだ不十分と判断して出場を回避した。「この大会で変な走りをして自信をなくすよりも、練習を積んで土台をつくること」を優先しての決断だった。長い距離が得意という自らの強みにこだわり、今後は6月後半から7月中旬に北海道の各地でシリーズ開催される「ホクレン・ディスタンスチャレンジで10000mの自己ベストを出したい」と意気込んでいる。

このほか増渕祐香選手(3年)が日本学生個人選手権で10000m8位(33分33秒91)、5000mで9位(16分18秒60)。2月に左脚のすねの骨膜を痛める故障(シンスプリント)の影響で1ヵ月弱走れない時期があった。走りを中断することがこれまでなかっただけに「走れなかったことが不安要素になって気持ちで負けていた」と振り返る。今年は3年生になり、「ただ年齢が上の先輩というようになるのでなく、走りの面でチームを引っ張って、後輩たちから憧れられるような存在になりたいです」と気持ちを新たにしている。

五味叶花選手(2年)は日本学生個人選手権の5000mで16分41秒65(10位)だったものの、ゴールデンゲームズinのべおかの同種目で自己記録に迫る16分09秒42で走った。「ベストに近い記録が出せたので、ほっとした一方で、悔しい気持ちもあります」と振り返る。「走れそうな感じはあるので、まずは自分の納得のいく走りをしたいです」と今後へ向けて気合を入れ、自身初の2大駅伝メンバー入りを目指している。

この先控える競技会としては日本選手権が6月9日から12日に大阪市で開催される。日本一を決めるこの大会に、名城大学からも複数の選手が出場する予定。1500mに米澤選手、柳樂選手、山本選手が、5000mに山本選手、米澤選手、小林選手がエントリーしている。山本選手は2種目に登録しているが、特に5000mに意欲的。「自己ベストで走れたときに、自分は日本で何位になるのか知りたい」と自己新を目標にチャレンジしていく。「食らいつく走りをしたいです」と、実業団の有力選手を相手に自身の力を試すのを楽しみにしている。
今年の日本選手権は20歳未満の選手を対象にしたU20日本選手権も兼ねて開催され、1年生と早生まれの2年生がこのカテゴリーへの出場資格を有する。名城大学からは1500m、3000mに複数の1年生がエントリーしているほか、2年生の五味選手が5000mに出場予定だ。
また、その後はホクレン・ディスタンスチャレンジが控える。ここでは毎年のように名城大の選手が快走しており、今年も好記録が期待できそうだ。これらの競技会を経て、夏合宿へと向かっていくことになる。

「駅伝で勝つのは当然。どんな勝ち方をするかが大事」(米田監督)

トラックシーズン序盤から好記録が相次ぐ活況と見えるが、米田勝朗監督は「驚きはありません。このくらいは走れるだろうと思っていました」と選手たちの力に確かな手応えを感じていた。
実業団の有力選手とも競って個々のレベルをさらに引き上げ、学生相手のインカレではしっかり結果を残して名城大学女子駅伝部の存在を誇示するのがトラックシーズンの狙いになる。
その勢いで駅伝に臨むが、6区間で競う全日本大学女子駅伝には「5000mで15分30秒を切る選手が3人、15分40秒を切る選手が3人で編成できるようにしたい」と構想を話し、「優勝」の二文字しか考えていない。

昨年は全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝の両大会で1区から先頭を譲らない完封リレーを見せた。その前年の2020年、富士山女子駅伝の2区でトップに立って以来、先頭を一度も譲っておらず、「改めて数えてみると、19区間連続で先頭を走っていることになります」と新たな指標を口にする。「そういったことも念頭において、各区間に誰を起用しようか考えられると思います。監督として準備していく際、そういうモチベーションの持ち方もありかな、と思います」と笑顔を見せる。今年も「勝つのは当然。どんな勝ち方をするかが大事」という内容重視を強調しており、多様な観点での新たな挑戦を胸に抱いている。

チーム全体を引き上げるスタッフ陣

これまで同様、選手だけでなくスタッフ陣も名城大学女子駅伝部の強さの源だ。中尾真理子コーチ、玉城柾人コーチ、主務の市川さんがこれまでと同じく重要な役割を担う。また、3年生の黒川光さんが1月に選手からマネージャーへキャリアチェンジし、タイムの読み上げや給水など現場で活躍している。「選手の頃は自分のことで精いっぱいでしたが、今は各選手の様子をよく見られるようになりました。これまでどれだけサポートを受けていたかなど、わかることが多くなり、チームに対する思いがより強くなりました」と黒川マネージャーは充実感を話す。 スタッフ陣からは共通して「上位選手と、なかなか試合に出られない選手の差が大きく広がっていること」が課題として挙げられていた。上位の選手の記録が非常に高いレベルだけに差が付くのは致し方ないが、ケガが長引いて試合に出られていない選手もフォローしながらチーム全体の向上を目指している。

中尾コーチはBチームで練習している選手と面談するなど、各選手の意識向上のため丁寧なケアを行っている。玉城コーチは今年が就任3年目。学生に近い立場でコミュニケーションを取り、選手たちとの関係はさらに深まっている。
1年時から主務を担ってきた市川さんはマネージャーとしてはもちろんのこと、最上級生として意見を表す機会も多くなっているそうだ。「4年生になってチーム全体を見るようになり、チームの課題について私も一緒にがんばって考えています。選手同士だと話せないこともあるので、私がマネージャーの立場で、スタッフの思いを伝えたりしています」と尽力している。

「現状打破 チームのため 私がやる」が今年度のスローガン

今年のチームは「現状打破 チームのため 私がやる」をチームスローガンに掲げている。駅伝シーズンに実を結ぶよう、日々心がけて過ごすための標語として、4年生を中心にして考案した。
「今に満足せず、向上心を持つこと、そして他人任せにせずチームとしてまとまりを持ちながら、個々の強さが出せることが必要だと考え、この言葉に決めました」とキャプテンの小林選手は話す。
1月からキャプテンを担っている小林選手に対し、「これまでは個人のレースもあったので『キャプテンらしく』ということはあまり言ってきませんでした」と米田監督。小林選手自身もそれは感じており、今後は主に4年生の間でミーティングを活発に行い、チームの課題解決に向けてより積極的に取り組んでいくつもりで、「私がキャプテンとして存在感を強く発揮するのではなく、それぞれのやり方を大切にして個人個人が主役になるようにしたい」と個の力を重要視する意向だ。
春先から絶好調の副キャプテン・山本選手は「走りでは憧れられるようになりたいですが、普段は気軽に話せる身近な存在でありたい」という後輩との接し方の理想像を持ちながら、チームを牽引していく。
「大学の枠にとらわれず、強豪チームと言われるレベルにみんなで上がろう、と話しています。彼女たちの強い思いをレースの中で感じ取ってほしい」と米田監督。駅伝の連勝記録更新、5年連続の2冠獲得に向け、今後もチーム一丸となって邁進していく。