2022/12/14

Vol.5 今シーズンの集大成 富士山女子駅伝へ準備万端

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10月30日の全日本大学女子駅伝で大会史上初となる6連覇の偉業を成し遂げた名城大学女子駅伝部。寒さの深まる師走のグラウンドでも、年末の全日本大学女子選抜駅伝(略称:富士山女子駅伝)での勝利を目指してたゆまずトレーニングを続けている。12月30日に行われるこの大会で優勝を果たせば、5年連続での大学女子駅伝2冠達成となる。

今年もチームの核となるのは最上級生。4年間、学生2大駅伝皆勤出場の小林成美主将、山本有真副主将が、富士山女子駅伝でも重要な役割を担うことになりそうだ。荒井優奈選手もエントリーされ、本番へ向け準備を重ねている。チームのマネージメントを担う市川千聖主務を合わせた4名の、名城大学女子駅伝部での4年間を振り返る。

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チームの財産となった4年生の成長

主務 市川千聖さん

市川さんは1年時から主務としてチームに尽力してきた。4年間、練習での給水やタイムの読み上げ、寮での食事の準備など、部の活動に関わる多くの業務を司ってきた。1、2年時はチーム唯一のマネージャーだったが、昨年度は一つ上の学年の藤ヶ森美晴さんがマネージャーとして加わり、1年間ともに働いてきた。また、4年目の今年度は黒川光さん(3年)と協力して業務を行なっている。長い間、市川さんが担ってきた主務の役職は来年度、黒川さんが務めることになる予定なので、今は後輩にじっくり引き継ぎも行なっているそうだ。
米田勝朗監督も「市川の存在はチームにとってすごく大きかった。特にキャプテンの小林が試合や遠征などでチームを離れる機会が多かったので、その間、かなり積極的にいろんな選手に声をかけていました」とその貢献を認めている。

最上級生になってからのチームづくりの難しさが特に心に残っているそうで、「全日本大学女子駅伝前の時期にはチーム内で意見の食い違いがあり、私たち4年生も下級生のことを見れていなかったと気づきました。ミーティングを重ねて何とかいい方向にチームが向き、だからこそ全日本大学女子駅伝ではしっかりチーム一丸で戦えたと思います」と仲間と乗り越えらえたことを語った。
「本当に4年間、関わってくれる人の良さに助けられたと感じています。いろいろな方々が私たち女子駅伝部に力を注いでくれている分、私たちは結果で返すしかないので、恩返しできるように残りの数日を過ごしたいです」。外部と接する機会が多い立場だったこともあり、校友会など大学関係者への感謝を口にした。
忙しい学生生活を送ったが、計画的に就職活動を開始して進路も無事決定している。卒業後は防衛省・航空自衛隊に入隊する予定だそうだ。

寮長 荒井優奈選手

1年時に全日本大学女子駅伝の6区〈区間2位)で優勝のゴールテープを切った荒井選手。チームで日本一となる経験はそれが人生初で、大学での特に印象深い場面の一つだと話す。その年には富士山女子駅伝でも1区4位と、優勝メンバーの一員として貢献。2年時の2021年3月には日本学生ハーフマラソンで3位に入り、ワールドユニバーシティゲームスの代表にも選ばれた(コロナ禍で大会延期となり、内定は解除)。しかし、その後は右足首の捻挫で調子を落とし、そこから絶好調とは言い難い日々が続くなかで奮闘してきた。「この1年半ほどあまり調子が上がった時期がないです。でも、今は最悪の状態からは抜け出し、故障しているわけでもないので、練習を積んで徐々に少しでも状態を上げていけたら、と思っています。富士山女子駅伝にエントリーされているので、しっかり大会当日に向けて準備をしていきたいです」と、大学での最後の駅伝へ向けてのトレーニングに集中している。

マラソンを走りたいという強い意向をもっており、卒業後は積水化学で競技を続ける。「長い距離に挑戦したいので、マラソンを専門にしている選手の背中を追って一緒に練習できたらな、と思って選びました」。実業団2年目までにはマラソンデビューしたいとの思いで、今後も取り組んでいくそうだ。

副主将 山本有真選手

1年時から駅伝メンバーとして走り続けている山本選手は、とりわけ最上級生となった今年度の躍進が目覚ましい。3000mで8分52秒19の日本学生新記録を樹立、5000mでも15分16秒71の日本人学生最高記録を叩き出している。
2年生までは故障がちで、特に2年の冬には足底の痛みが強く、歩くのもつらいほどだったと振り返る。それも理由の一つとなり、2年生の1月半ばから1ヵ月ほど寮を出て、競技から離れる期間があった。その後、部に戻って一念発起。競技を離れて身体の休まった面もあり、3年生になってからは練習を積めるようになった。今シーズンはそれが結果に現れるようになり、今年4月の日本学生個人選手権5000mで自身初の全国タイトルを獲得。ワールドユニバーシティゲームスの代表にも選ばれ(コロナ禍で大会は再延期)、そこから自信をつけて記録も向上していったそうだ。「この1年間はちょっと自分でも良すぎるかなと思うぐらい、ありがたく走らせてもらっています。これがたまたまだと思われないように、実業団でもこの調子をベースにして、もっとあげていきたいです」。

卒業後は荒井選手と同じく積水化学に進む。「私は、自分より強い選手がいる環境で強くなれるタイプなので、名城大でも、髙松さん(智美ムセンビ/昨年度卒業)や加世田さん(梨花/一昨年度卒、現・ダイハツ)たちのような先輩がいたから伸びたと思います。就職先にもそういった選手がいるのが、この進路を選んだ理由の一つです」と、自身に合った環境で競技力に磨きをかけるつもりだ。5000mを中心に、駅伝やさらに長い距離へも取り組みたいと話した。

主将 小林成美選手

今年の主将を務めたのは10000mで3年時に当時の日本学生記録を塗り替える31分22秒34をマークした小林選手。日本選手権でも3年時に3位となって表彰台に立つなど、数々の舞台で活躍してきた。また、コロナ禍の影響を受け本戦を走ることは叶わなかったものの、世界大学クロスカントリー選手権、ワールドユニバーシティゲームスに2回、世界選手権オレゴン大会と、大学在学中に4度日本代表に選ばれている。今年はコンディションを整えるのに苦労した1年となったが、12月に入ってしっかり練習は積めていると話し、富士山女子駅伝に向けて積極的に取り組んでいる。

山本選手同様、2大駅伝はすべて出走メンバーとして優勝を経験している。「1回1回すごく大事な試合だったので、これが特に印象的だったという大会は挙げられないのですが、ずっと先頭を走らせてもらってすごく幸せだったなと感じています」と、すべてが忘れられないものとなっているそうだ。「先日の全日本大学女子駅伝は、大会史上初の6連覇を目指すなかでかなりプレッシャーはありました。ですが、その年にキャプテンを務めて、チームをまとめられてすごく良い経験をさせていただきました。チームメイトのみんなに助けてもらってすごくありがたかったです」と女子駅伝部を率いてきた日々を振り返る。
卒業後も競技を続けるが、駅伝に懸ける思いが大きいと話す小林選手。「駅伝はチームに貢献するという気持ちがプラスアルファで追加されるので、やっぱりその分のモチベーションは大きいと思います。実業団でもお世話になるチームに貢献できるようにしたいです」と、全日本実業団対抗女子駅伝などの大会での活躍に向けて意気込んでいる。

選手の3名はいずれもワールドユニバーシティゲームス等の日本代表選手に選ばれながらも、大会の延期等によって在学中に国際大会の舞台を踏むことができなかった。そういった境遇も考慮して「海外のレースを経験させてあげたい」という米田勝朗監督の意向もあり、主務の市川さんも合わせた最上級生4名で11月16日から22日まで女子駅伝部の遠征としてオランダ・ナイメーヘンへ渡航した。セブンヒルズ15kmに出場し、山本選手が49分21秒で10位、小林選手は51分26秒で14位、荒井選手は53分33秒の21位。充実した時間を過ごして、チームに戻ってきた。

米田監督はこの学年の努力する姿は下級生のお手本になるものだと評価している。「最近のミーティングで、今、一番走れている山本の身体の使い方や競技に向かう姿勢をよく見ておくよう伝えたところです。駅伝で連覇を続けられるようになった要因というのは、毎年、上級生が軸になって走ってくれているところにあります。しっかり競技に向き合って、記録を伸ばしながら毎年走れる状態を作ってくれたから、勝ち続けることができています。4年生が今まで築き上げてきたものは後輩たちにも引き継がれていると思うので、来年以降もさらに強いチームに成長してくれるんじゃないかなと思います」と、この学年の成長がチームの財産となっていると話した。

5000m15分台が8人、富士山女子駅伝に向けて死角なし

4年生だけでなく、チーム状況は全体的に良好だ。
来年2月18日にオーストラリア・バサーストで開催される世界クロスカントリー選手権のU20日本代表選手選考競技会(5000m)が12月4日に京都で行われ、米澤奈々香選手(1年)が15分55秒43で1着となり、自身初の日本代表に内定した。
12月10日、同じく京都で開催されたエディオン・ディスタンスチャレンジの5000mには山本選手、増渕祐香選手(3年)、谷本七星選手(2年)と米澤選手が出場。山本選手は日本学生記録(15分13秒09)の更新を目指して臨んだものの、15分25秒92と惜しくもそこには届かず。だが、日本を代表する実業団選手たちに果敢に挑み、好タイムで名城大でのトラックレースを終えた。米澤選手は15分43秒62、谷本選手、増渕選手も15分50秒台でフィニッシュしている。
1年生も順調で、12月3日の日体大長距離競技会5000mで石松愛朱加選手が15分52秒28の自己ベスト。柳樂あずみ選手も15分54秒46をマークした。上記6選手に小林選手、原田紗希選手(1年)を加えた8人が今季9月以降に5000m15分台で走っている。
富士山女子駅伝は全日本大学女子駅伝を走った6名を中心に、15分台ランナーで全区間を固める可能性が高いが、その他の選手も今後の調子次第ではメンバーの座をつかみ取るかもしれない。具体的なオーダーについても大会直前まで指揮官の頭を悩ませることになりそうだ。

  • 米澤選手(左)、山本選手(右)

  • 柳楽選手(右)、石松選手(中)、五味選手(左)

富士山女子駅伝は7区間、43.4kmのコースのうち、後半3区間が全体の距離の約半分を占める。比重の大きな後半の区間を2年生以上が担当し、前半の平坦で距離の短い区間を1年生が担う構成となりそうだ。2年生の谷本選手は11月20日の東京・国立競技場での記録挑戦会にて、10000m初挑戦で32分38秒45の好タイムで走っており、駅伝でもこれまでより長い距離の区間での活躍が期待される。増渕選手も過去3年間欠かさず出走メンバーに入っており、後輩に負けていられないだろう。チーム内での競争も激しく、それぞれがさまざまな想いを胸に秘めて精進している。

中尾真理子コーチは「選手が何を目指して、どうしようとしているのかはスタッフも把握していないといけませんね。本人が嫌だと言うことはやらせない方向ですが、意外とみんな今のところ、提案は前向きに受け入れてくれている感じがします」と、各選手の思いに耳を傾ける。玉城柾人コーチは「入学してから高校時代の自己ベストを超えられていない選手もいますが、みんなポテンシャルはあるはずです。今はBチームでも、今後台頭してくる選手が出てきてほしいと思って、声をかけています」とチームの底上げに尽力している。

富士山女子駅伝は2013年に現在の略称となって第1回大会が開催され、今年で10回目の節目となる。名城大学女子駅伝部は今年5連覇を目指しているが、それを果たせば、第1回から第5回大会まで連勝した立命館大学に並ぶ最多タイの優勝となり、大会の歴史に新たな1ページを加えることになる。
最上級生になってチームの大黒柱に成長した山本は「自分にとっては学生最後のレースになるので、とにかくチームに貢献できる走りで終わりたいです。区間はまだわかりませんが、重要な区間を走らないといけないと思っていますし、区間新記録を出したいです」と頼もしい。
主将の小林選手も、今年のチームのラストステージに向けて気合が入る。「2冠を目標に掲げているので、達成できるように、残りわずかの日数ですが、気を引き締めてやっていきたいです。チームの最後の駅伝としていいかたちで締めくくれるように、しっかり自分の役割、キャプテンという役割を果たせればと思います」。
今年度のチームがスタートした際に掲げたスローガンは「現状打破 チームのため 私がやる」。その集大成となる富士山女子駅伝に向けて、各選手が「チームのため 私がやる」つもりで日々を過ごしている。