2026年、名城大学蹴球部は東海学生サッカーリーグ1部の舞台で戦っています。全部員が運営の役割を担い、控え選手は声を張り上げて仲間を応援する。そんな一体感のあるチームですが、ほんの数年前までは「専任指導者ゼロ。スポンサーゼロ。エースは練習に来ない」というチームでした。部員たちは、どうやってチームを変えてきたのか。その渦中にいた3人に聞きました。
<活動実績>
・2026年度 東海学生サッカーリーグ1部
・2025年度 第64回東海学生サッカーリーグ2部3位
・松永悠碁(法学部法学科/2026年3月卒)/2025年度 得点王(17G)、アシスト王(18A)
8年ぶりの1部リーグに昇格した体育会蹴球部。現在部員数は選手46名、マネージャー3名。スポーツ推薦入学の学生は所属しておらず、指定校推薦や一般入試で入学してきた者のみです。本格的なサッカー経験者も毎年入学するものの、必ずしも蹴球部に入部するわけではありません。サッカーだけでなく、学業や就職活動と両立しながらサッカーをやりたい人間が集まる、体育会としては珍しい部と言えます。練習は平日に3日、土日祝は2日の週5日の活動頻度です。リーグ戦や各種大会への出場のための練習がメインですが、高校サッカーフェスティバルの運営サポートや小学生向けサッカースクールに出向くなど、地域での活動も行っています。
専任の監督による指導を受け、人工芝のグラウンドの刷新や試合撮影機材の導入など、1部に昇格したことで準強化クラブに指定され、大学側の環境整備も進みました。これまでゼロだったスポンサーも4社ついてくれることになりました。3社はサッカー部OBの企業で、1社はSNSの発信を見た理学療法士が関心を寄せ、支援につながったものです。
2024年から、部内に広報局、分析局、審判局、設備局、用具局、総務局からなる「局活動」の体制を敷き、全部員がいずれかの役割を担っています。同時に応援団も発足しました。ここ2、3年で部内の体制が大幅に変わり、それに伴い空気感も大きく変わったといいます。
「以前は試合に来ない、来ても携帯を触っているだけだった控えの選手が、声を出して応援するようになりました。OBの方からも、『応援するチームになったね』と言ってもらえた時は嬉しかったです」と、副主将の増岡壮思さんは話します。
「まだまだ決して個の力があるチームとは言えませんが、以前に比べれば途中退部者が激減しました。以前の完全に二分された雰囲気の悪さはほぼありません」と主将の又吉佑紀さんが振り返ります。
ほんの数年前まで、まったく違う姿だったと3人は口を揃えます。
「8年ぶりに1部昇格。ここまでの道のりは本当に長くて辛かったです」
こう静かに語るのは、4年生の藤島朔也さんです。
「入部して一番感じたのは、真剣に取り組んでいるメンバーほど報われない環境だったことです。毎日練習に来て、準備も片付けもチームのためにやっている選手よりも、練習を休んで試合にだけ来るような選手のほうが、上手ければ試合に出られてしまう。これでは部内の雰囲気がいいわけがありません。何とか変えたいという思いがありました」
当時、毎日グラウンドに立つ専任指導者は1人もおらず、外部の指導者に部費から交通費を払って依頼する体制でした。部員たちは、部を変えたいという「改革組」と「上手いけどサボる組」に二分されていきました。
「はっきり言って、私は『サボる組』でした。沖縄に帰省して、そのまま練習をサボることも当たり前でしたから」と又吉さんは明かします。
2年生になった藤島さんは、具体的に動き始めます。まず当時の指導者に「頑張った選手を使ってほしい」と繰り返し働きかけます。長年続いてきた体質への異議であり、反発も受けました。それでも「どういうチームであるべきか」という軸をぶらさず、1部で勝てるチームをつくるという長期的な視点で行動を続けました。
行動指針となったのは、2年生のときに参加した、筑波大学蹴球部でのインターンシップでした。全国優勝を経験している組織では、一人ひとりの使命感と目指すチーム像が運営側から選手まで浸透しており、それが一体感につながっていました。思いを言葉に表現し、共有することが組織を変える。このことをチームに持ち帰りました。
働きかけは、少しずつ周囲に影響を与えていきました。もっとも大きかったのは、1学年先輩の松永悠碁さんの変化でした。得点王とアシスト王を獲得するほどの実力の持ち主でありながら、当初は練習を休みがちでした。当時の主務や同期の熱量の訴えに、松永さんも意識が変化していきました。
「『俺が勝たせるからついてこい』という気概で松永さんが引っ張ってくれました。実力のある選手が真剣に取り組むようになったことで、チームの空気はがらりと変わりました」
「サボる組」の部員が次々と退部していく一方で、残った部員の意識も変わっていきます。又吉さんは藤島さんから「キャプテンは"又"、お前しかいない」と告げられ、腹が決まったといいます。2年生後半から意識が変わり、現在は主将としてチームを引っ張っています。1学年下の増岡さんも、「先輩たちがゼロからイチを生み出してくれた。それをどれだけ100に近づけられるかが、僕たちの代の役割です」と、先輩から託される形で副主将を引き受けました。改革は特定の誰かのものではなく、学年を越えて引き継がれるものになっていきました。
こうして少しずつ部内の雰囲気が変わってきた2025年10月。藤島さんたちは、当時4年生の前年度主務担当と、各学年の幹部計7名で、ミッション・ビジョン・バリューを策定しました。
Mission―共に歩む全ての人の原動力になり続ける
Vision―サッカーを通して、社会を動かす存在へ
Value―勇気を持って一歩を・社会力・利他で勝つ
「『勇気を持って一歩』は、たとえ対立したとしても、何を大切にするか、どうありたいかを軸に発言し、行動できるか。周りのせいにせず、自分で変える力です」と藤島さん。
「『利他で勝つ』は、ただ誰かのために自分を犠牲にするのではなく、うまくいくときも、いかないときも支えてくれる人、応援してくれる人に目を向けて、自分がどうあるべきかを考えてほしい、という思いを込めています」
策定メンバーに下級生のリーダー候補を加えたのは、卒業後も引き継いでもらいたかったからです。
「一緒に考えた、というよりも、考える過程を経験してもらいました。僕たちが卒業したあとも、この思いを伝えていってほしいからです」
こうした部員たちの取り組みの成果が、ついに形となりました。2025年のリーグ戦で10チーム中3位に入り、入れ替え戦で1部10位のチームを破って、8年ぶりの1部昇格を果たしたのです。
今季、1部に昇格してから9試合で2分7敗と勝ち星がありません。この状況について藤島さんはこう話します。
「結果ではなく、過程に目を向けることに尽きると思っています。結果にこだわりすぎると、結果が出なかったときに落ち込んでしまって、それまでやってきたことの積み上げが生まれません。練習に取り組む姿勢、準備、気持ちの部分にフォーカスして、チームの基盤をさらに底上げしていく。その先に結果がついてくることは、去年と一昨年で経験していますから」と前を向きます。
増岡さんは組織づくりの面からこう語ります。
「結果が出ない状況でも、何を自分がやるべきか、何を思ってサッカーに取り組むかを、一人ひとりが大切にできるチームにしたいと考えています。そのためなら、メンバー同士が思いをぶつけ合うことも恐れません!」
目標は、まず1部リーグへの定着で、その先に1部上位への進出と全国大会出場を見据えています。「誰かのためにひたむきに頑張れる人間が、報われる社会になってほしい」。3人のメンバーの根底にある想いは同じです。
取材後に、通常練習のためにグラウンドに向かった3人。集合した部員の輪の中心にいたのは専任監督です。
「1部に上がって、勝てていないという事実はちゃんと受け止めないといけない。毎日こうしてトレーニングをしているからには、あらゆる面で成長しないと意味がない。ここは全員が成長できる場でなければならないし、そういう場を全員で作っていくことが大事だ」
監督の言葉が、ナイター照明が灯ったグラウンドに響きました。
☆藤島 朔也/ふじしま さくや・理工学部環境創造工学科・4年・前年度主務
☆又吉 佑紀/またよし ゆうき・法学部法学科・4年・主将
☆増岡 壮思/ますおか そうし・理工学部自動車交通機械工学科・3年・副主将
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