創部からおよそ40年。ワンダーフォーゲル部(通称・ワンゲル部)は競技性を持たず、みんなで楽しく安全に山を登ることを主眼に置きながらも、全部員が自ら登山計画を立てられるレベルにまで育成する、本格派の体育会の部活です。入部希望者が多く、入部倍率はなんと2.5倍!この人気部活を率いる主将、副将、会計の3人に、活動内容から後輩に託したい想いまでを語ってもらいました。
・新歓登山(御在所岳1,212m/日帰り)
・年間約10回の登頂
(主に鈴鹿山脈、他に蝶ヶ岳2,667mなど)
・夏合宿
富士山3,776m/1泊2日
北アルプス表銀座縦走(燕岳、大天井岳、槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳)/4泊5日
南アルプス悪沢岳、赤石岳、聖岳縦走/5泊6日
お話を聞いた皆さん
佐藤里緒さん/主将/薬学部薬学科3年生
池田怜真さん/副将/情報工学部情報工学科3年生
千賀陽生さん/会計/情報工学部情報工学科3年生
☆部員数:1学年約10人(全学年約40人)※幽霊部員はゼロ
主将の佐藤さんが入部を決めたきっかけは、部活紹介のホームページに載っていた一枚の山の写真でした。「こういう景色を自分の足で見に行く、冒険にチャレンジしたい」と心を動かされたといいます。高校時代は吹奏楽部で活躍し、大学1、2年は吹奏楽部と兼部。山が楽しすぎて、いつしか山に没頭してしまったため、ワンゲル一本に絞りました。
一方、副将の池田さんは、母親が登山をする家庭に育ち、中高時代に何度も山へ連れて行ってもらったといういわば経験者です。これまでは連れて行ってもらう側でしたが、大学では「今度は自分が計画する側に回りたい」と思うようになり、山岳部も検討したものの、活動内容がはっきりしなかったこともあり、最終的にワンゲル部に入部。
会計の千賀さんもまた、経験者です。全員部活が必須という高校で、「やるなら一人ではできないことに挑戦したい」と、球技が苦手だったこともあり、山岳部を選択。実家近くの山で、たけのこ掘りやみかん狩りをして育ち、歩くことへの抵抗がなかったことも入部を後押ししたそうです。大学でも山岳部を希望していたものの、池田さんと同様の理由でワンゲル部の門を叩きました。
入部の経緯こそ三者三様ですが、そもそも山岳部とワンゲル部の違いはどこにあるのでしょうか?
山岳部は競技性を重視し、タイムも競うのに対し、ワンゲル部は大会がなく、みんなで楽しく山を登ることを目的とした部活です。それでいて体育会に所属するため、就活などにも何かと有利。“いいとこ取り”と3人は笑います。
また、ワンゲル部が加盟しているのが「東海学生ワンダーフォーゲル連盟」です。連盟内には事故対策委員会があり、加盟大学の担当メンバーがLINEグループを通じて登山道の危険箇所やクマの目撃情報などをリアルタイムで発信。「メンバーが安全に楽しく登るために、常に危険を予測する組織が必要になる」と池田さん。近年はSNS発信にも力を入れており、メンバーらが山の写真を積極的に投稿することで、連盟の認知度も上がってきたそうです。現在椙山学園大学、愛知淑徳大学、名工大、名城大の4校が連盟に入っており、新規メンバーとの合同新歓登山なども行っています。
活動は6月からスタート。2週間に1回のペースで土日を使って一泊の泊まり登山へ。標高1000m前後の鈴鹿山脈を中心に合計3回ほど行い、夏合宿では北アルプスや南アルプスへ5〜6泊の縦走に挑みます。3180mの槍ヶ岳にはほぼ毎年登頂。すべてテント泊で、6人前後の「パーティ」単位で分かれて行動します。
9月からの後期は世代交代の準備期間に入ります。1、2年生がパーティリーダーとして登山計画の立案と実行を2回経験し、3年生がそれを監督、指導する形です。3年生の進級時までに、全員に「パーティリーダー権」の取得することが課されます。登山計画の時間配分から荷物の重さ、周りへの気配り、体調管理までできているかが判定基準。かなり厳しい基準ですが、「技術と責任感を次の世代に伝えることが、部の存続そのものを支えることになる」と池田さんは語ります。
また、昨年度から初回登山は御在所岳への日帰りに変更し、2回目から宿泊登山へ。その後は標高と負荷を段階的に上げていく仕組みに変更されました。まずは日帰りで登山とは何かをちゃんと学ぶことを重視した結果です。オフシーズンの冬は交流を図る目的で、スキー合宿も実施。とにかくみんなで楽しく山を登ろう!という思いを大事にする和気あいあいとした雰囲気のため、登山初心者にも人気を呼び、入部は現在抽選制となっています。
入部前の登山経験は各人それぞれでしたが、3年間の活動を通じて得たものも3人それぞれに異なるようです。
「山の計画を立てるのと同じ感覚で、勉強もバイトも段取りを考えられるようになりました」と佐藤さん。加えて、テント泊という非日常を共にすることで、コミュニケーション能力も磨かれたとのこと。電波が届かない中で会話を交わし、後輩の心の状態にも目を配りながら過ごす経験が、人間力を大きく育ててくれたと振り返ります。
これに対し、池田さんが実感しているのは「積極性」です。元々人見知りするタイプだったといいますが、テント場で他の登山者に道の状況を積極的に聞けるようになりました。「その情報ひとつで翌日の行動時間が30分、1時間と変わってきます。全員で一体となって行動する場面では、自分が恥ずかしがることが周りを危険にさらすことにもなる、という気づきが積極性につながりました」。
そして千賀さんが挙げたのは「計画を立てる心理的なハードルが下がったこと」と「事務作業への慣れ」の2つ。登山の情報を調べて計画を立てるのに慣れたことで、登山以外の旅行にも頻繁に出かけるようになったと振り返ります。また、会計として部内外の手続きを重ねてきた経験も、社会に出てから役立つはずだと感じているそうです。
一方で、指導する立場ならではの苦労も多くあると3人は口をそろえます。
「自分がすでに知っているスキルと、後輩が知らないことの境界を見極めるのが難しい」と千賀さん。従来のマニュアルが断片的な内容だったため、今後のために整備、整頓を進めています。
池田さんは、現場での情報共有の難しさだと語ります。「浮石は危険なので、見つけたらすぐに情報を後ろに伝える復唱の大切さを、実体験を交えて話すようにしています」。
佐藤さんが挙げたのは、集団の中での一人ひとりの責任感です。「歩くのが速い人もいれば、ゆっくりな人もいます。でも、それぞれのペースに合わせながら、お互いに協力して登ることが、部活として山に登る意味だと思っています。」
一人で自由に登ることもできるけれど、みんなで登るからこそ、きついときには励まし合えたり、山頂に着いたときの嬉しさを共有できたりする。そうやって、みんなで登った山が思い出として残っていくのが、ワンゲルの良さです。だからこそ、自分が良ければいいということではなく、周りのことを考え、集団の一員としての責任感を持つことが一人ひとりに求められています。
まもなく代替わりを迎える3人。今後のワンゲル部について、佐藤さんは、「個人では行けないような山にも挑戦してほしいと思う一方で、体力に自信のない子を置き去りにしない環境も続いてほしい」。池田さんは、「今の活動水準がちょうどいい塩梅。エスカレートしすぎず楽しんでほしい。名古屋大学、南山大学、岐阜大学が加盟している山岳連盟(※東海学生ワンダーフォーゲル連盟とは別団体)との交流を通じた、安全情報の充実を目指したい」。千賀さんは、「楽しく登山ができる場、登山仲間を求める人たちのよりどころとして、部が続いてほしい」と各々が思い思いに願いを語りました。
スマホを使わない非日常は貴重な時間。遠くに見えていた頂上も、気づけば目の前まで来ているという達成感はなにものにも代えがたい。さらに、登山が単なる部活を超えた生涯の趣味や人間関係の基盤になると、次々とワンゲルの醍醐味を語り続ける3人。手付かずの自然という雄大さと危険が隣り合わせの環境に挑むことで得られる「総合情報を複合して判断する力」は、先行き不安なこの世の中を生きていく上で、間違いなく必要な力になってくれるはずだと3人は力強く締めくくりました。
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