落語家 桂才賀
えー、毎度ばかばかしい話を一席。
「隣の空き地に囲いができたんだって?」
「へぇー、かっこいい!」
のっけから寒いギャグを披露して、すみませんでした。
今回のお題が落語だということで、落語の流儀にしたがい、マクラから入ってみたのですが…。
みなさんもきっと「マクラってえのはなんだい?」と思っていることでしょう。マクラとは、落語の冒頭にする世間話や小咄のこと。ちょっとバカ話をして少し場を和ませてから本題に入り、最後にオチ(サゲとも言います)を付けて終わるのが落語のパターンなのです。
いきなり本題に入らないというのは、実は人とコミュニケーションを取る際にも有効なテクニック。
落語は話芸というだけあって、人と話をする時にも生かせるものなのです。
落語が始まったのは室町時代末期から安土桃山時代にかけてのこと。
大名のそばに仕え、話し相手をしたり、世情を伝えたりする「御伽衆(おとぎしゅう)と呼ばれる人たちがいたのですが、その中のひとりの安楽庵策伝というお坊さんが、豊臣秀吉にオチのついた話をしたら大ウケしたそうです。
以来、面白い話をして大名を笑わせるお伽衆が増えていったのだとか。
江戸時代になると、いつの間にか大名など身分の高い人だけを相手にするのではなく、庶民を相手にお金をとって面白い話をする人が増えていったのです。
これが庶民の間で大流行。古典落語と呼ばれるさまざまな演目ができていったほか、名人芸を披露する噺家が出てくることで、落語文化が確立されていきました。
落語の魅力とはなんでしょうか。
いろいろと意見はあるでしょうが、私は想像力をかき立ててくれることではないかと思っています。
高座に出る噺家さんが持っている小道具は扇子と手ぬぐいだけ。身振り手振りに加え、これらの小道具を巧みに使い、さまざまな登場人物を演じ分けるのです。
例えば、扇子を使ってそばを食べる仕草。名人と呼ばれる人が演じると、本物のそばを食べているように見えてくるから不思議。
見えていないのに情景が広がっていく面白さは落語ならではの魅力でしょう。
もうひとつ、話に出てくる登場人物も魅力的です。
酒を飲んでばかりでろくに働かない「芝浜」に出てくる勝五郎やまんじゅうが大好きなのに嘘をついてまんじゅうをせしめようとする「まんじゅうこわい」の熊さんなどなど。
与太者(役立たず、怠け者と言った意)で、ろくでもないことを考えているのですが、行動が間抜けでどこか憎めないのです。
落語家 立川談志
「時そば」に出てくる男もそんな与太者の典型例です。
ある男がそば屋へ行くと、別の客が代金を払う場面を見かけます、
客は「一つ、二つ、三つ…」と一文ずつ数えながら払っていました。
八文まで払ったタイミングで客はそば屋にこう話しかけます。
客「いま何時(なんどき)だい?」
そば屋「へえ九刻(9時)にございます」
すると客は「十、十一、十二…」とまた数を数えながら十六文まで払い終わると、そそくさと帰っていきました。
みなさんはもうお分かりですね。客はそば屋が「九刻」と答えたタイミングでは支払わなかったので一文分得をしたのです。
そば屋はだまされたことに気付いていないようでした。
その様子を見ていた男は自分もマネをして同じようにそばの勘定をちょろまかそうとしますが、詰めが甘いために失敗。結局は逆に損をしてしまったというオチです。
人間悪いことはできないものですね…。「いま、何時だい?」で有名なこの落語。このオチ、聞いたことがない人はぜひ聞いてみてください。
どこか教訓めいた話を、バカだなぁと明るく笑いに変えてしまう。それが落語の魅力のひとつだと言えるかもしれません。
ちょっと説教臭くなってきましたかね。
あまり野暮なことを言うなと怒られてしまいそうなので、今日はここまで。
そろそろお後がよろしいようです。
落語家 春風亭一之輔
落語というとどうしても年齢の高い方々が聞くというイメージがありますが、最近は若い世代でも落語ファンは増えているようです。
噺家になる人も増え、その数は過去最高に上るのだとか。
実力ある若手の噺家も頭角を表してきています。
有名な噺家さんであればCDが出ていますし、You Tubeでも聞くことができます。
食事をしながらとか、洗濯をしながらとか、肩肘張らずに一度聞いて見てはいかがでしょう。
生きていると日々、いろいろなことがあります。勉強や就職活動や人間関係についてなど大小関わらず悩みは出てくるものです。そんな悩み事などで気疲れをしている人にこそ落語はオススメ!こんな人もいるんだと今悩んでいることがバカらしくなってくるかも知れません。
話に出てくる与太者の失敗談を思い切り笑い飛ばして、気分をスッキリさせましょう。
立川わんださんは本学の卒業生(商学部商学科1998年3月卒業)で、卒業後に落語家をこころざし、2019年10月には真打に昇進されました。
真打とは、高座で主任(トリ)を勤めることができる実力のある噺家のことを指します。
ぜひ、一度聞きに行ってみてください!
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