育て達人第004回 渋井 康弘

デイハイクで愛知の産業の源流探る   経済学を学ぶ第一歩に

経済学部 渋井 康弘 教授

 経済学部と経営学部の新入生たちが教職員や先輩学生たちと新緑の木曽路を歩いたデイハイク。春日井~天白キャンパス間コースから木曽路コースとなって今年で3回目ですが、運営にあたった経済学部の渋井康弘教授は、「愛知の産業の源流を考える貴重な体験となったはず」と、その意義を語っています。

――新入生たちが旧中山道の馬籠から妻籠までの山道8キロを歩いたデイハイクには、経済学部から300人以上の新入生と、教職員、父母たちが参加しました。経済学を教える立場から、デイハイクの狙いを教えてください。

デイハイクの意義を語る渋井教授

デイハイクの意義を語る渋井教授

 町並みを見て歩いていると経済学のテーマを発見することがよくあります。木曽川水系には大正期、福沢桃介が多くの水力発電所を設立し、中部電力や関西電力の基礎を築きました。江戸から明治にかけては木曽川を通じて名古屋に木材が送り込まれましたが、この木材を材料とする木工技術がやがて金属加工に応用され、それが現在の自動車産業をはじめとする機械工業を支えています。島崎藤村の「夜明け前」の舞台であることも含め、木曽路コースを歩くことは、日本の近代化の過程を考える絶好の機会です。デイハイクは、サポート役のラグビー部員、応援団ら先輩たちの励ましを受けながら、仲間同士で長い道を歩き通し、名城大生であることを実感する機会でもありますが、それ以上に期待しているのが、経済学、経営学を学ぶ第一歩にしてほしいという点です。

――最近の新入生たちは、どんな動機から経済学を学びたいと考えているのでしょう。

 特に明確な目的意識はないと思います。「僕は数学が苦手ですが大丈夫でしょうか」と相談されるケースも多く、高校の進学指導で「数学ができないと経済学を学ぶのは難しい」など、不安をあおっているような気もします。経済は人間の活動の結果としてあるわけです。経済学では人間の営みが、どのようにして経済につながっているかを考えることが大切です。学生たちには、既成の理論を学ぶだけでなく、自分の頭で考えて自分の言葉で語れるようになることを目標にしてもらいたいと思っています。数学も使いますが、それは言葉で話すよりも数式にした方が短く伝えられるという部分を数式に変えているだけです。数学が苦手でも心配いりません。

――名城大出身の社長の数は中部地区の私大ではトップというデータもあります。その中でも特に経済学部の卒業生社長はかなり多いのでは。

 経済学部としても、卒業生に経営者が多いということは本学の特徴であると考えています。ただその背景には、名城大生に自営業者の息子が多いということも関わっていると思います。愛知県の産業研究をしている関係で当地の中小企業や零細企業を回っていると、確かに多くの名城出身の経営者たちと出会います。20社回ったら、そのうち5、6社は名城出身の社長だったということもありますし、社長の親戚が名城出身とか、息子が名城に通っているというケースも相当あります。

――名城育ちの達人がどんどん育っていると言ってもいいのでしょうか。

 私は中部地域の機械工業で働く職人と言われる人たちにインタビューをしてきました。その人たちがどのようにして中部地区の産業を支えてきたかを明らかにしてきたつもりですし、彼らのことを「達人」と言うのであればそう呼んでも良いとは思います。ただし、そうした技能を持っている人たちだけでなく、中小・零細企業同士の協力関係を仲介するような仕事をしている人たち、面倒な仕事ばかりを一手に引き受けることで取引先企業のスムーズな事業運営に貢献している人たちなど、中部の産業を支えている人たちはたくさんいますし、その中には多くの名城出身者がいると思います。

――新入生たちに充実した学生生活を送るためのアドバイスをお願いします。

 デイハイクには、大学で学ぶ経済学とはこんなものだということを示し、まずは第一歩を踏み出してもらおうという狙いがあります。産業近代化過程における愛知県と長野県との関連をこれだけ実感を持って語れる学生は、日本中探しても名城の経済学部・経営学部にしかいないと自負して良いと思います。どんな学部の学生にも言えることですが、今までにやったことのないような、ちょっと上の目標を設定し、それを達成しようと努力することが大切です。そういう経験を通じて人間は成長し、能力を伸ばしていきます。ぜひチャレンジしてください。

渋井 康弘(しぶい・やすひろ)

東京都出身。慶応大学経済学部卒、同大経済学研究科博士課程単位取得満期退学。 専門は工業経済論、産業技術論。2005年に愛知県が募集した「21世紀愛知ものづくり提言」で、論文「愛知県の工業集積~『合体型』の構造と有効な産業政策」が大賞を受賞。47歳。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ