育て達人第008回 山岸 健三

COP10の名古屋開催   昆虫を含めた生物多様性の論議を

農学部生物資源学科 昆虫学研究室 山岸 健三 教授

 農学部の山岸健三教授は、高校時代のハチの研究以来、昆虫との付き合いが40年以上。名城育ちでもある山岸教授に、研究生活を振り返ってもらいながら、2010年に名古屋市での開催が決まった生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)についての思いを語っていただきました。

――COP10が2年後に名古屋市で開催されることが決まりました。生物の多様性は、公害や森林伐採、地球温暖化などの影響で、地球規模で急速に失われています。里山での昆虫の多様性解明に取り組んでいる立場から、COP10開催への思いをお聞かせ下さい。

体長わずか1ミリの寄生蜂の標本が並ぶ研究室で語る山岸教授

体長わずか1ミリの寄生蜂の標本が並ぶ研究室で語る山岸教授

 生物の多様性を保全するということは非常に困難な課題です。里山における生物の多様性では目に見える動物や植物だけでなく、目には見えない昆虫や微生物まで考えていかなければなりません。私は農業活動こそが里山を維持していると考えていますので、都市化などによって、里山から水田や畑がどんどん失われている現状には大変心を痛めています。愛知万博でも「環境」がキーワードになりましたが、お祭り騒ぎに終わってしまった感があります。COP10もお祭り騒ぎに終わらずに、ぜひ、多くの人たちが里山保全に目を向ける機会になってほしいと思います。

――昆虫学研究室ではどのような研究に取り組んでいるのでしょう。

 自然林や農耕地には未知の昆虫が何万種類もいます。こうした昆虫の全種類を明らかにする「種多様性」の研究に取り組んでいます。特に農業害虫の代表的な天敵である寄生蜂類の研究では、膨大な数の昆虫を捕獲し、学生たちが卒業研究の一環として標本作製に取り組んでいます。これまでに寄生蜂類だけで30万を超える標本を作製しており、寄生蜂類に限って言えば、国内最大のコレクションになっています。

――それだけの数になると標本の管理も大変では。

 その通りです。人手の限られた大学での行き届いた管理は難しく、博物館のような専門の公共施設にその役割を担ってもらえるのが理想だと思っていますが、残念ながら愛知県内で大きな自然史博物館があるのは豊橋市だけです。環境をテーマにした愛知万博に続いて、COP10という生物多様性をテーマにした世界規模のイベントが開かれるわけですので、ぜひこの機会に、動植物や昆虫、できれば菌類までを含めてカバーできる博物館の必要性についての論議が前進すればと期待しています。

――昆虫との付き合いはいつごからですか。

 私は地震で有名になった新潟県の小千谷市出身です。中学時代は地質学に興味を持ち一人で露頭調査をしていましたが、高校時代は生物部で植物や小さなハチの採集をしていたことから、地質-植物-昆虫をつなげて考えるようになりました。名城大農学部に入学した1969年(昭和44年)当時は、農学部が春日井市から天白キャンパスに移ったばかりでした。当時は天敵昆虫を使って農業害虫を減らそうという研究が脚光をあびていた時期で、私は応用昆虫学研究室で、高校時代からの夢であった、天敵の代表格としての寄生蜂類の研究に取り組むことになりました。

――最近でもやはり昆虫好きの学生が入学して来るのですか。

 最近は、昆虫と言えば、カブトムシとクワガタくらいしか知らない学生が多くなりました。カードで集めた「ムシキング」などでの知識は豊富ですが、実際に山野で、昆虫を追いかけ回した体験があるという学生はまずいません。それでも標本作りでは4年生たちがしっかりした仕事をしてくれています。昆虫学の面白さが深まるのは標本作りの次の段階である分類学なのですが、残念ながら、大学院に進んで本格的に昆虫学の研究に取り組んでくれる学生は少なくなりました。分類学や生態学は就職に結びつきにくいという点もネックになっています。

――名城大学農学部の開設は1950年。60年に近い歴史を刻むなかで、農業を取り巻く環境も大きく変わりました。

 誕生した当時の農学部は農業後継者を育てるのが教育の柱でしたが、残念ながら今では日本の農業そのものも衰退してしまいました。本学でも農学科、農芸化学科が改組され、現在の生物資源学科、応用生物化学科、生物環境科学科と変わりました。教育目標も、生物資源の有効利用と安定的な生物生産、生命現象の解明、食品機能と生物機能の応用、そして生物と人と調和の取れた環境の創出を掲げています。それだけに、学生たちには、COP10の名古屋開催を機に、生物多様性の意義、里山と切り離すことのできない日本の農業再生について、ぜひじっくりと考えてほしいと思っています。

山岸 健三(やまぎし・けんぞう)

新潟県出身。名城大学農学部卒。九州大学大学院農学研究科修了。農学博士。名城大学農学部助手、助教授を経て教授。 専門は昆虫学。著書に「冬虫夏草の科学」など。日本昆虫学会、国際ハチ類学会などに所属。57歳。

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