育て達人第011回 高倍 昭洋

夢ある研究に挑戦しよう   この夏、附属高校生たちとタイで植林も

名城大学総合研究所長・総合学術研究科長 高倍 昭洋 教授

 天白キャンパス13号館1階にあるグリーンバイオビジネス研究センター(植物遺伝子工学研究センター)では、遺伝子工学による砂漠の緑化・バイオマスエネルギーの開発など、「名城育ちの研究」が展開されています。陣頭に立つ総合研究所長、総合学術研究科長の高倍昭洋教授は、「関心のある学生は遠慮なく研究室を訪ねてみてください」と呼びかけています。

――「名城育ちの研究」がスタートしたきっかけを教えて下さい。

「遠慮なく研究室を訪ねて下さい」と語る高倍教授

「遠慮なく研究室を訪ねて下さい」と語る高倍教授

私は博士課程終了後、2年間の研究員生活を経て理工学部に着任し、それ以降30年以上にわたり同じ名城大学で研究を続けています。植物の光合成の研究に取り組んでいますが、有機化合物の電子移動を研究した大学院時代の経験ができるだけ生かせるように、光のエネルギーを利用した電子の伝達反応を調べることにしました。当時、化学で植物を研究する人はほとんどいませんでした。

――研究テーマを選ぶ上で大切な点は何でしょう。

 一つの発見が大きなインパクトをもつ可能性のある研究、言葉を変えるなら、夢のある研究を選ぶことが大切だと思います。植物の光合成の研究分野には、未知の重要な問題が多く残されていると考えました。私は淡路島の出身で、海、野原、山で遊び回って育ち、運動神経と体力には自信がありました。さらに、恵まれていた点は、家内が、名古屋大学のスタッフとして植物の生物学的研究をしていたことです。私は、朝は5、6時頃に大学に現れて実験をスタートさせ、いったん自宅に戻り、子供らを保育所、学校に連れて行くとともに、夕方にも迎えに戻るという生活スタイルでした。夜8時頃にまた研究室に現れ、午前0時過ぎまで実験することもしばしばで、日曜日も研究していました。

――乾燥、塩害に強い植物の開発にも取り組んでいると聞きました。

 私たちは、死海で成育していたラン藻を実験室で培養しています。死海で成育する生物はあまり知られていません。ましてや、海水から炭酸ガスを取り込み、酸素を発生する死海のラン藻を研究しているのは私たち以外にない状況です。島津製作所の協力を得てこのラン藻のゲノム解析をしています。10年はかかりましたが、全ゲノムを解読できるところまできました。死海のラン藻のDnak遺伝子が作り出す蛋白質は活性が非常に高く、この遺伝子を植物に導入すると、植物の耐塩性が著しく向上することを明らかにしました。オーストラリアの干ばつとか、不適切な灌漑による塩害の被害が世界各地で深刻になっています。これらの問題を解決するためには、乾燥や高塩濃度下でも生育できる有用植物の開発が望まれています。私たちはDnak遺伝子を用いて塩・乾燥に強い有用植物を作る研究に取り組んでいます。

――――名城大学アジア研究所の活動の一環として、「東アジアにおけるグリーンバイオテクノロジー研究教育拠点形成」のプロジェクトを進めていますね。

 バイオ燃料として注目されている植物は、サトウキビ、パーム、キャッサバ等です。これらバイオマス資源は、東南アジア、アフリカ、ブラジル等の発展途上国が恵まれています。私たちは、タイ政府機関「BIOTEC」と協力して、これらバイオマス資源の開発に関する研究にも協力しています。別のタイ政府機関である森林工業機構と協力して、発根促進剤を利用して苗木を大量生産し、森林を回復させるための植林も行なっています。

――夏休みには附属高校の生徒たちもタイで植林体験をすると聞きました。

 8月20日から1週間、本学附属高校の生徒たちは、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)プログラムの一環でタイを訪問します。生徒たちは、私たちが長年、共同研究を行っているチュラロンコン大学を訪問するほか、北部のランパンではチークの植林を体験します。30センチくらいのチークの苗木が1年後には2メートル近くになります。植林した生徒にとって、一生チークの成長が気になることでしょう。ナコンラチャシマでは塩害地域やキャッサバの栽培を見学します。チョンブリではパームやゴム林を見学するとともに、オイルの抽出工場も見学します。私はSSHの高校生たちが名城大学に入学した場合は、1年生のときから研究室に配属し、大学院修士課程に進学することを前提とした教育・研究活動ができれば大変すばらしいと思っています。そのような中から、名城育ちの達人や名城育ちの研究が生まれると期待されるからです。

高倍 昭洋(たかべ・てるひろ)

兵庫県洲本市出身。大阪大学理学部卒。名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。 米国コーネル大学博士研究員などを歴任。専門は植物の環境応答機構。総合研究所長、総合学術研究科長。62歳。妻鉄子さんは名古屋大学大学院教授。耐塩性イネの研究で、優れた業績をあげた女性科学者に贈られる猿橋賞を受賞している。

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