育て達人第027回 佐土井 有里

学生たちの挑戦意欲に期待   混迷の時代だからこそ世界に目を

経済学部 佐土井 有里 准教授(開発経済論)

 経済学部の佐土井有里准教授は、2007年から学生たちを引率し、オランダ、韓国での「フィールドワーク」プログラムを続けています。日本をはじめ、世界経済は一段と深刻化していますが、各国に多くの友人・知人を持つ佐土井准教授は「大変な時代であるほど自分自身のネットワークで世界の動きを的確に知ることが大切」と指摘しています。

――経済学部が昨年実施したオランダでの「フィールドワーク」では、参加した21人の学生が、ライデン大学の学生たちと交流を深めました。日頃の授業でも学生たちに、実社会で即役立つコミュニケーションやプレゼンテーション力をつけさせることを目指しているそうですが、「フィールドワーク」プログラムもその一環ですか。

「学生たちは頑張っています」と語る佐土井准教授

「学生たちは頑張っています」と語る佐土井准教授

 そうです。オランダは昔から国際交流の進んだ国で、大半の国民、そしてほぼ全ての大学生たちは英語が話せます。名城大学の学生たちもライデン大学とナイメーヘン大学の2校で、英語によるプレゼンテーションを行いました。1~4年生の21人が4班に分かれ、「日本の環境政策」「ゆとり教育」「オタク文化」「名古屋と名城大学」の4テーマについて発表しました。情報を集め、発表の構成を考え、英語でまとめるなど準備は非常に大変でしたが、成果は非常に大きかったと思います。発表会のほかにも企業訪問、現地学生たちとのディスカッションやパーティー、風車や城の見学、ライン川支流に沿ってのサイクリングなど様々な体験を通して楽しみました。

――学生たちには充実した体験になりましたね。

 事前特訓に相当時間をかけましたが、学生たちも会う人ごとに挨拶を交わし、自己紹介し、フィールドワークの目的を説明するなどとても頑張りました。最初は少し心配しましたが、彼らは予想以上に積極的で、気がついたら私の手を離れたところで生き生きと行動していました。より大きな自信を得て、英語力をグンと伸ばした学生がたくさんいました。帰国後も結束力は強く定期的に集まっているグループもあるようです。

――佐土井先生は海外生活を含め、訪れた国は40か国を超すとお聞きしました。

 学生時代にアメリカの大学に語学留学し、企業に13年在職した後、アメリカのワシントン大学大学院、京都大学大学院で国際関係やアジアの経済発展のメカニズムを探る研究を続けました。名城大学に勤務する前の5年近くは、オランダの国立アジア研究所で研究生活を送り、タイやマレーシアなど東南アジアの国々にも何度も足を運びました。

――13年の企業勤務を体験したうえで、さらに2つの大学院やオランダで東南アジアについての研究生活を本格化させたきっかけは何だったのでしょうか。

 就職したのは京都の三菱自動車人材開発部で、円高で海外に現地生産工場を設ける動きが活発化していた時期です。受け入れたアジアからの技術研修生たちの仕事への姿勢には、その国の文化、宗教が大きく影響している点に強い興味を持ち、アジア研究に目を向けるきっかけとなりました。一方で感じていたのが、企業では女性が働いていくうえでのグラスシーリング(見えない壁)でした。特に製造業では男性が中心で、長期的にみれば、自分自身を独自に磨くしかないと考え、ワシントン大学大学院への留学を決め修士号を取得しました。日本で博士号を取得した後はオランダに居を移しましたが、オランダは東インド会社が活躍していた16世紀以来アジア研究が盛んな国です。シーボルトが日本から持ち帰った資料をはじめ、アジアに関する数多くの貴重な資料もそろっています。研究メンバーとの議論も多く、厳しく鍛えられました。海外では自分で考え発動しないと何も起こりません。自ら「アジア自動車産業の技術形成」のシンポジウムを企画し、日本など世界各国から研究者をオランダに招へいし3日間主催したことも良い経験となりました。

――名城大学では中国からの学生をはじめ、多くの留学生たちが頑張っています。

 私も海外にいた時は、その国の人たちの倍くらい頑張らないと目標が達成できないと思っていました。アメリカ、オランダ時代は研究内容や語学力からくるプレッシャーで自信を喪失し落ち込んだこともあります。留学生たちは、そういった困難を克服するエネルギーがさらに必要で、様々な形で勉学へのモチベーションを上げ、それを持ち続けることが重要です。私のゼミでは、大学での厳しい(?)指導と共に、毎年、年末に大学院留学生を京都の自宅に招き、自炊での合宿をしています。昨年末は「アジア経済研究」という科目を受講しているアジアからの留学生6人が3日間の合宿に参加しました。みんなとても意欲的でした。修士論文にはかなり苦労していますが、きっと立派にやり遂げるでしょう。

――「名城育ちの達人」を育てる上で、考えていることをお聞かせ下さい。

 名城大学は、地元出身も多いこともありますが、学生たちはなかなか外に目が向かない傾向があります。海外の同じ世代の学生たちと比べても、日本の学生たちが幼く見える時があります。もっと外に目を向け、若いうちにいろいろなことに挑戦してほしいと思います。そのための機会を与えることが大学の役目とも考えています。

――昨年末から、アメリカに端を発した金融危機は、日本をはじめ世界の経済に深刻な影響を広げています。2009年をどのように予測しどう対応すべきと考えますか。

 誰もが予期できなかった事態が進行しており、明るい兆しはなかなか見えてこないことが懸念されます。海外の友人たちとメールのやりとりをしていると、日本では気づいていないような情報も飛び込んできます。混迷する時代であればあるほど、自分のネットワークを活かして、信頼できる的確な情報を集めることが大切だと思います。

佐土井 有里(さどい・ゆり)

京都市出身。同志社大学文学部英文学科卒。三菱自動車人材開発部勤務を経てワシントン大学大学院修士課程(国際関係論)、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程を修了(博士)。オランダの国立アジア研究所で4年半の研究生活を送り2004年から名城大学に。専門は開発経済論、アジア経済論。

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