育て達人第031回 安藤 喜代美

失敗恐れず前向きに   大事な学びの蓄積

人間学部 安藤 喜代美 准教授(家族社会学)

 タワー75の12階にある人間学部の安藤喜代美准教授の研究室には学生たちがよく出入りします。学生たちのために用意されたキャンデー容器は、いつも学生たちが補充するミルキーで満たされています。卒論の締め切りが近づくと、30分刻みの面談予約表も登場するほどです。春休みに入り、久しぶりに静けさを取り戻した研究室でお話を伺いました。

――人間学部は今年で3回目の卒業生を送りだします。指導した3期生たちはどんな卒論を仕上げたのでしょう。

学生たちが補充していくミルキーの容器を手に語る安藤准教授

学生たちが補充していくミルキーの容器を手に語る安藤准教授

 指導したゼミ生は16人です。大半が家族をテーマにしていました。祖父母、両親、兄弟、姉妹など身近な家族と自分との関係を見つめることから出発したようです。離婚や同性愛など今の社会には、簡単には「家族」を定義できない現状もありますが、「心の家族」をキーワードに、里親の実例をもとに、血のつながりだけが家族ではないと論じた学生もいました。家族についてだけなく、私が担当した現代社会論の講義がきっかけで、石油の代替エネルギーをテーマに選んだ学生もいます。

――卒論の作成はいつごろからスタートするのですか。

 4年生になった4月には卒論計画表を渡し、充実した内容に仕上げるためにも計画性を持って臨むよう指導しています。5月下旬に仮タイトルの提出があり、関連調査、データ分析に取り組んだ後、秋からは本格的に書き始めるよう指導しています。アンケート調査では出身高校や中学校に依頼して、家族などに対する意識調査に取り組んだ学生たちもいます。今年は「指導が厳しかった」という声がかなりありました。「先生が厳しかったからやれた」と感謝の言葉ももらいましたが、私も相当に口うるさかったのでしょう。私がああだ、こうだと言わなくてもいいことを願っています。

――研究室におじゃまするといつも学生がいるように見えました。

 後期の半ばくらいからは卒論指導の時間を書き込ませるスケジュール表をドアの前に張り、希望する時間が重複しないようにしていました。メールでの予約は受け付けず、アポイントを変える時は直接変更に来させていました。自分の行動に責任を持たせるためでもあり、確実に30分は相談に応じる時間を取るためでもあります。スケジュール調整に苦労しながらも、学生たちは週に一度くらいは研究室に顔を出していました。中には、卒論以外のことでアドバイスを求め、話を聞いてほしいという学生たちもいます。立ち寄れる場所を求めているんだなあと思います。これだけ大きな大学になると、自分の居場所があるかどうかは大きな問題であると思います。私もアメリカの大学や大学院で学んでいて、方向性を見失いかけた時には、親身になってアドバイスしてくれる友人や先生たちに何度も救われました。

――アメリカの大学院では家族社会学の研究に取り組んだわけですね。

 最初に留学したアメリカ北部のワシントン州の大学では社会学を修士課程まで勉強しました。指導教授からは「この世界で生きるならPh.D(博士課程)の学位を取った方がいい」と助言をいただきましたが、その大学には博士課程がなかったこともあり、北西部から対角線に下がるルイジアナ州の大学に移りました。土地勘もなければ知っている人も皆無で、スーツケース2個だけを携えての旅立ちでした。実際に博士論文の作成に入るまでには、多くの必須科目を受講し、指導の先生から指定された多くの文献を読み、論文(レビューペーパー)を書かなければなりませんでした。「博士論文を書いていいよ」というトンネルの入り口までがとても長く感じられ、博士論文に入ってからは終わりのないトンネルに迷い込んだようでした。しかし、徹底的に基本を鍛えられました。論文は、アメリカの国勢調査のデータを使い、高齢者の家族形態とそれを決定づける要因について分析したものです。居住形態、人種、社会的・文化的バックグラウンドなどについて200ページくらい書きました。

――現在はお墓の研究もしていると聞きました。

 お墓は、家族意識の深い領域に関わっており、旧来の直系制家族のメンタリティを色濃く残している領域でもあります。お墓を継がなくてはならないという重圧感よりも、次の世代にお墓を継がせること自体に対して躊躇しているのが現状かもしれません。お墓を管理するお寺も、お墓に対する考え方が多様化するなかで、ビジネス的な側面も含めて様々な対応が迫られています。やはりお墓に興味を持っている人間学部の先生方と共に、これまで研究を進めてきましたが、今後もコツコツと続けて行きたいと思っています。

――学生たちに何を望みますか。

 コミュニケーションの必要性、重要性がいろいろなところで言われますが、どうしても「話す」という一方だけが強調されがちな気がします。コミュニケーションには相手があることですから、相手の話をしっかり聞く、情報をしっかりつかむこともその能力の一つかと思います。もちろん、自分の意見を言えることは非常に重要なことです。学生たちには話す能力と同様に、聞く能力も備えてもらいたいと思います。そういった意味でも学ぶべき時にはしっかり学び、大学を成長の場としてほしいです。

安藤 喜代美(あんどう・きよみ)

愛知県出身。米国ワシントン州立ウエスタンワシントン大学修士課程、ルイジアナ州立大学博士課程修了。Ph.D(社会学博士)。人間学部講師、助教授を経て現職。大学院大学・学校づくり研究科でもフィールド調査法を担当。専門は家族社会学。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ