育て達人第036回 冨岡 徹

気になる学生たちの運動不足   ノルディックウォーキングで運動習慣を

経営学部 冨岡 徹 教授(体育学)

 学生時代から運動する習慣づくりを――。経営学部の冨岡徹教授(体育学)は、シニア世代向けに、両手にストックを持って歩くノルディックウォーキングの普及に取り組んでいますが、学生たちにも「ぜひ挑戦を」と呼びかけています。学生たちの運動不足が気になるからです。

――毎週金曜日の夕方、天白キャンパス周辺で、市民や大学教職員向けに「ノルディックウォーキングの会」を開いていますね。

「運動は続け出すと慣性が働き、億劫ではなくなります」と語る冨岡教授

「運動は続け出すと慣性が働き、億劫ではなくなります」と語る冨岡教授

 もうすぐ3年目に入ります。ノルディックウォーキングは、フィンランド生まれのスポーツで、現在の研究テーマです。両手にスキーのものに似たストックを持って歩くと、通常のウォーキングより楽に歩けるにもかかわらず2割増のカロリーを消費するといわれています。また、腰やひざなどへの負担が軽減することができ、ここ数年、愛好者が増えています。ただ、先行研究を整理すると、多少過大評価されている点もあるようにも思えます。「ノルディックウォーキングの会」は毎週金曜日の午後6時ごろに体育館前に集合し、1時間半ほど歩いています。本学周辺は起伏のある道が多く、名所旧跡もあり、歩くには楽しいコースです。参加者は多い時で20人くらい、最近は10人位です。参加者の声を聞くのも研究に生きています。手を使うことやリズムを意識することは脳科学的に有用だと言われていますし、継続していくことで研究上の手がかりを得たいとも思っています。

――参加している皆さんはやはり健康づくりを意識しているのでしょうか。

 確かに、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を意識はされていますが、楽しみたいという気持ちの方が多いようにも感じます。40歳から74歳までのメタボ該当者は予備群を含めると男性が2人に1人、女性は5人に1人と言われています。戦後、日本人の栄養摂取量はそれほど変わっていないのに、生活習慣病が蔓延するようになったのは、運動量が減っているからです。しかし、何をして良いかわからない人も多いと思います。そういう人たちを対象に、身近にできる効果的なスポーツとして注目されているのがこのノルディックウォーキングです。4月9~12日、ナゴヤドームで開催されたシニア世代向けの「アクティブ・シニアフェア」でも講演しましたが、予想以上に盛況で、関心の高さを改めて感じました。あとはどれだけの方が行動を起こすかです。

――学生たちの健康に対する意識をどう見ていますか。

 「自分は健康だから」と他人事のように考えている学生が多いと思います。しかし、授業に参加する学生の体力測定の結果もからみても明らかに体力は落ちています。心配なのは、運動そのものに興味を持たない学生が増えていることです。いくつかの選択科目では履修希望者がなかなか集まりませんが、実際指導してみると思いのほか上手になり、そして楽しみ、とても満足して学期を終わるのが常です。食わず嫌いの感が否めません。

――学生たちの体育科目の履修状況を教えてください。

 1991年の大学設置基準の大綱化による規制緩和で、大学教育は専門教育重視の流れが強まったように感じます。体育科目の必修単位数を減らしたり、選択科目扱いにする大学が増えました。体育の授業を受けずに卒業するケースが生まれており、運動不足の学生、いや日本人が増える要因にもつながっていると思います。選択科目を履修する学生はもともと運動好きな学生が多いのですが、学生の健康増進の点から考えると、体育を選択しない学生ほど運動への興味が薄いとも言えるわけで、体力向上、健康増進の必要性について理解を深めさせる必要があると私は思います。

――学生たちのノルディックウォーキングへの関心はどうですか。

 動くことに億劫になってはほしくないですね。女子学生の多くは、体重は軽いけど体脂肪率が高いことが分かっています。筋肉不足と言うことです。脂肪が燃えるのは筋肉ですから、筋肉不足は太りやすい体質を作っていることと一緒です。少しは動いて筋肉量を維持、増進させてほしいです。私は運動習慣の獲得のための方策を表現するとき、ニュートンの慣性の法則をよく例にします。物体に力が働かないと、静止した物体はいつまでも静止したままであるように、運動しない人はずっと運動しません。運動を始めるのは困難(摩擦)も伴いますが、続け出すと慣性が働き、億劫ではなくなります。運動習慣の獲得にも科学的素養は活用できます。学生の皆さんもぜひ運動モードにギアを入れてみてください。

――「運動するにも時間がなくて」という声も多いようです。

 2006年度にドイツで1年間過ごした時に感じたのは、学生たちが、アルバイトより、無駄遣いしないことを選んでいることでした。自販機で飲み物を買うのでなく自宅から飲み物を持ってきます。経済的な豊かさよりも、時間的なゆとりを得る方が大切だと考え、勉強やスポーツなどに有意義に使っていました。ぜひ、参考にしてほしいと思います。

冨岡 徹(とみおか・とおる)

神奈川県出身。日本体育大学卒、同大大学院体育学研究科修了。医学博士(昭和大学)。1999年に名城大学講師に。2007年から現職。大学体育連合東海地区理事として体育の授業改善にも関心を持つ。東海体育学会理事。国際ノルディックウォーキング協会公認マスターインストラクター。43歳。

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