育て達人第037回 橋本 啓史

生物多様性に欠かせない都市の緑   里山保全に学生たちも関心

農学部 橋本 啓史 助教(緑地環境学)

 農学部生物環境科学科の橋本啓史助教は大学教員生活4年目。担当する「緑地環境学」の授業では、名古屋市近郊の里山の現状も教材として取り入れながら、都市の緑化が生物の多様性に大きな影響を与えていることなどを講義しています。

――大学院での研究テーマは都市と緑地ですね。

「学生時代にはいろんな体験をしてほしい」と語る橋本助教

「学生時代にはいろんな体験をしてほしい」と語る橋本助教

 修士課程の論文テーマは「シジュウカラからみた都市緑地の自然の評価と創出」です。大学院生時代を過ごした大阪は緑の少ないところですが、樹木の昆虫を捕食するシジュウカラの生息数は都市の健全な生態系を創出するためのバロメーターともいえます。公園の樹木の量や、半径250メートル以内の街路樹の面積がどれくらいになればシジュウカラが住むようになるかについて研究し、街路樹なども利用して、市街地の緑の占める面積の割合を増やす都市緑化が望まれるとまとめました。博士課程の論文も京都市街地に残された社寺林などの孤立林の面積と鳥類の生息種類との関係について分析し、保全のための基本的な指針を示しました。

――鳥類や昆虫など生物に興味を持ったのはいつごろですか。

 少年時代は東京の都心で過ごしましたが、チョウやトンボ、カナブンやハナムグリなど昆虫採集が好きでした。緑の多い公園や閑静な住宅の周辺では結構、昆虫採集が楽しめました。母親の実家が愛知県岡崎市なので、夏休みや冬休みには三河地方の里山も歩き回っていました。中学生の時に茨城県に引っ越し、里山が身近になり、野鳥観察も始めました。

――担当されている「緑地環境学」ではどんなことを教えるのですか。

 造園学から発展したランドスケープ(景観)・デザイン学が、快適な都市景観づくりに関連する環境問題から砂漠化防止といったグローバルな環境問題まで、広い分野で活用されていることを紹介しています。学生たちも名古屋の鶴舞公園や中村公園、堀川、庄内川周辺など、自分にとって身近な緑地について、その歴史や管理の実態について調べてきて発表しています。学んだことを生かし、卒業研究で、里山と小動物との関係を調べる学生もいます。「緑地環境学」の講義以外でも、1年生の「生物環境実習」で多治見市の里山林の動植物調査をするなど、講義や実習に里山問題を取り入れています。

――学生たちの関心はどうですか。

 多数派とまではいきませんが、里山に関心を寄せる学生たちは結構います。豊田市自然観察の森と共同で、「サシバのすめる森づくり」をキャッチフレーズに、里山の生き物に関する研究をしています。調査には、生物環境科学科からは環境動物研究室や環境土壌学研究室と私たちランドスケープ・デザイン研究室、生物資源学科からは昆虫学研究室、さらに理工学部環境創造学科の水環境研究室も加わっています。私たちの研究室では、どれくらいの田んぼや林があったら猛禽類のサシバが戻ってくるかについての調査を昨年から本格的に行っています。

――サシバにとっての生息環境は厳しくなっているわけですね。

 水田に住むカエルなど里山の生き物は、人間が農業活動をしてきたことで生きてきた生き物です。ところが農業活動の維持ができなくなるなど里山が荒廃するケースが相次いでいます。サシバもカエル、ヘビ、昆虫などの餌がなければ生息が難しくなります。学生たちにとっては、里山は貴重な環境問題を学ぶ場でもあります。

――来年10月にはCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が名古屋市で開催されます。研究室でも関連する動きが出てくるのでしょうか。

 来年5月には日本造園学会が名城大学で開かれるなど名古屋では環境問題に関連する学会やシンポジウムが相次いで開催されます。目玉となりそうなのが「都市の生物多様性とデザインに関する国際シンポジウム」で、名城大学で開催予定です。研究者の立場から都市の生物多様性問題を話し合う会議で、海外からの参加者も含めて300人近くが参加することになると思います。名城大学の学生たちも会場係など運営のお手伝いをする機会もあると思いますが、世界の研究者たちを迎えることは貴重な体験になるはずです。

――学生たちがランドスケープ・デザイン学で学んだ成果をキャンパスの景観づくりに役立てられたらと思うのですが。

 天白キャンパスの研究実験棟Ⅰの前に今春、新しい憩いの場となる広場が完成しました。実は昨年の4年生16人には、実習課題として広場のデザインづくりに挑戦してもらいました。まだ、手つかず状態の広場がどのようなデザインなら魅力ある広場になるか、思い思いのデザインを仕上げていきました。大きな噴水を中心に据えるなど奇抜なアイデアもありましたが、実際に時計塔を中心に据えた広場が出来上がっていく様子と比較しながら、デザインの仕事の奥深さを学んだはずです。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 学生時代にはできるだけ現地に出かけて多くの体験をしてほしいと思います。また、得られた情報や知識をしっかりと自分のものにするためにも、どんどん本を読んでほしいと思います。ランドスケープ・デザインに関連する仕事に就いても困らないよう植物の知識をしっかり学んでほしいと思います。

橋本 啓史(はしもと・ひろし)

愛知県岡崎市生まれ。東京、茨城県育ち。筑波大学生物資源学類卒。大阪府立大学大学院農学生命研究科(修士課程)、京都大学農学研究科(博士課程)修了。2006年4月から名城大学農学部に講師として赴任。専門は緑地環境学、景観生態学。日本景観生態学会などに所属。31歳。

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