育て達人第042回 河田 信

会計は組織活動の大切な羅針盤   ロスはあっても時間を惜しむ学生生活を

経営学部 河田 信 教授(管理会計)

 河田信教授は、機械メーカーの企画部長などを経て、10年前に本学経営学部教授に就任しました。「会計は組織体の活動の羅針盤という大切な役目を持っている」というのが持論です。名城大学発ベンチャーである株式会社名城プロセスマネジメント研究所(MPM)の代表取締役社長でもある河田教授にお話を聞きました。

――法学部政治学科を卒業して製造業に就職した動機はなんでしょう。

「学生時代はロスもあるが、時間だけは惜しむべき」と語る河田教授

「学生時代はロスもあるが、時間だけは惜しむべき」と語る河田教授

 大学を卒業したのは1964年。当時の就職活動でも学生たちの人気は商社や銀行でした。私はお金を転がすような仕事は眼中にありませんでした。「俺はメーカーで働く」という毛色の変わった人間も何人かいて、私もその一人でした。現場で汗を流して働くこと、ものを作ることが仕事の原点だと思ったからです。いきなり工場の現場実習に出されましたが、先入観を持たないで体験するすべてが新鮮でした。現場作業は新入社員にとってはいい教育方法だと思います。高度経済成長期でしたが、よく働く企業戦士でした。

――大学入学が1960年。安保闘争の真っただ中ですね。

 「安保(日米安全保障条約)は絶対通してはいけない」という緊迫感が大学キャンパスを支配していました。東京中の学生たちは続々と国会を取り巻き、私もその一員でした。学生時代は麻雀で遊んだり、余計なこともやりました。だいぶロスもありましたが、ロスがなければつまらない学生時代だったとも思います。

――先日の日本経済新聞のコラム欄で「世界に“ものづくり会計”を発信するのが夢」と語っておられました。

 ものづくり会計というのは、日本が誇る製造現場の強さをどう伸ばしたらいいかという発想。例えば10日で作っていたものが6日で作れるようになったとします。これは現場の腕が上がったからで、できた暇を有効に使えばさらにいいという発想です。ところが今日の会計はそれをほめるシステムになっていません。暇ができることは損失であるという考え方で計算します。絶賛すべきなのに叱ってしまう。伝統的な大量生産時代の発想法です。

――「会計は組織活動の羅針盤」とも指摘されていますね。

 船が天国に向かっているのか、地獄に向かっているのか、羅針盤が逆を向いていたら大変なことになります。それが世界金融・経済危機という形で実際に起きてしまいました。現場でおかしいぞと思っても一般に本社や株主は量産時代の思考が強い。在庫を積み上げた目先の利益はおかしいと見抜く羅針盤でなければなりません。トヨタですら羅針盤が多少狂ったと思います。2000年以降、成長と拡大に引っ張られすぎました。世界一が目の前に来ている。お金は今までの蓄積がある。つい原点を忘れてしまったということでしょう。

――2005年に大学発のベンチャーであるMPMを立ち上げました。

 経営コンサルタント収入などで昨年も2000万円近くを売り上げました(今年は、多分そうはいきませんが)。 経営学部の教員が企業の経営診断をしたり、学生や大学院生たちを企業に派遣し、就労体験や経営診断経過を博士論文や修士論文にまとめさせています。今、台湾の企業にインターンシップとして行っている院生もいます。収益だけでなく、学生たちの教育、研究の場の提供という貢献も大きいと言えます。

――大学が元気になるにはどうしたらいいでしょう。

 企業人だった体験から、大学は一般的に無駄、非効率、不完全燃焼の巣窟だといってしまえばそれまでですが、本気になると底知れず元気になる可能性も一方に秘めています。どうやって、マッチをすってそこに火をつけるかでしょう。名城のみならず、大学は目的が何か、お客さんはだれかということをしっかりと押さえることが求められます。例えば名城大学のように「達人を育てる」という羅針盤なら、各部門の機能をしっかり羅針盤に合わせ、日常の行動システムに落とし込むことです。これは結構大変なことですが、今の経営学部をみるとやれそうにも思えます。「考える学部」がキーワードでしょう。

――学生たちへのメッセージをお願いします。

 私は「おたく」というのはいい言葉だと思います。一つのことに夢中なるのはすばらしいことです。司馬遼太郎も大阪外語大学の学生時代、授業には出ないで図書館の本を全部読んだといいます。読書のおたくだったわけです。アメフトのおたくというのもあるでしょう。今の学生の3分の1 は3年生でほぼ単位は取り終え、4年生で就職を決めれば、あとは海外旅行やバイト。これって、ホントに青春といえるかな。ヒマを生かし、逆に猛ダッシュするという手もある。学生たちには「青年よ大志を抱けとまでは言わないが、おたくでよい、愚直でコツコツ、時間だけは惜しめ」と言っています。自分の反省をこめてです。

河田 信(かわだ・まこと)

山口県出身。慶応大学法学部卒。明電舎、帝人製機に勤務。帝人製機では航空機計画部長、企画部長、開発推進部長などを歴任。1999年から現職。2009年3月まで2年間、経営学研究科長。経済学博士(東北大学)。著書に「プロダクト管理会計」(中央経済社)、「米国製造業の復活」(共訳、中央経済社)、「トヨタ 原点回帰の管理会計」(中根敏晴、國村道雄教授らとの共著 中央経済社)などがある。専門は管理会計。67歳。

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