育て達人第050回 村松 定史

何もしなければ何も見つからない   相手に気持ちを伝える訓練を

人間学部 村松 定史 教授(フランス文学)

 人間学部の村松定史教授は落ち込んでいた大学院生時代、1か月間、ひたすら美術館めぐりをした経験があるそうです。「迷ったときは何か好きなことにとことん没頭してみればいい。きっと自分がめざす方向性が見えてくるはず」。日本児童文芸家協会理事長にも就任された村松教授に悩み多かった青春時代も含め語っていただきました。

――どんな学生時代だったのでしょう。

「好きなことにとことん没頭を」と語る村松教授

「好きなことにとことん没頭を」と語る村松教授

 父親が受験勉強を嫌っていたこともあり、学習院で中等科から学びました。規律は厳しかったですが自由で個性を伸ばす学風で、中等科時代から小説を書く指導も受けました。高等科1年から大学教員によるフランス語の授業があり、そのまま文学部フランス文学科に進みました。60人中58人が女子学生。4年で卒業できないと目立つのでしっかり単位をとり、大学院でじっくりと好きなことを勉強しようと思いました。卒論も修論もフランスの作家ジェラール・ド・ネルヴァルです。その後、ベルギーの詩人ローデンバックにも興味を抱き、日本の近代文学の発展にかかわった西洋の詩人ということで研究を続けています。

――フランス語のほかに、パリ論、比較文化論、ゼミなど担当する授業では基礎の学習と理解、文献資料の調査、創意の展開を重視されていますね。

 フランスは実証主義ですのでその影響も多少あります。どの講義でもこの原則を貫いています。社会学だとフィールド調査にあたる文献調査では図書館で本を徹底的に調べさせ、要約させます。いきなり独創的な展開を求めても難しいので、章ごとに独創的なタイトルをつけるよう指導しています。例えば「外国人と日本人」ではつまらないので、「これでいいのか日本人」とか。6章なら6つのタイトルと全体のタイトルを自分の著書のようにつけさせます。3年くらいやると相当力がつきます。

――学生の反応はどうですか。

 卒論指導にはなかなか学生が集まりません。書かせすぎだと思われているようです。でも、調べたものをまとめて、タイトルをつけてプレゼンする。そういう学生を育てたいと思っています。どうやって自分の気持を相手に上手に伝えることができるか。人生なんて、身分が高かろうが給料が安かろうが、友達と、あるいは愛する人と幸せに暮らしていくことができればいい。それには言語というコミュニケーションしかない。それを学生たちに悟ってもらいたいと思って授業をしています。レポートは基本的にA4用紙に手書きですので、コピー&ペーストはできません。でも自筆なら文献を書き移しているだけでも相当頭に入ります。

――「パリ論」の授業もそうですか。

 行ってみたいパリの美術館10館を、地図やデータをもとにレポートに書かせます。興味あるものから選んでいくわけですから、書いているうちに「ルーブルに行ってみたい」という学生も出てきます。パリ論だけでなく僕の授業では、いい展覧会をやっている時は必ずその美術館のレポートを書かせます。ある時、男子学生が来て、「どうだった」って聞いたら「感激して動けませんでした」と感動しきりの様子でした。名城大学生はボストン美術館、徳川美術館は無料で観覧できる特典があります。レポートを課すと全員行くのにどうして利用者が少ないのか不思議です。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 自分が何をやりたいのか分からないという学生が多い。これは悲しいことです。でも、何もしなければやりたいことは見つかりません。やってみて初めて、自分が向いているのか向いていないのかも分かります。僕は大学院のとき、ものすごく落ち込んでいた時期がありました。30日間、都内の美術館、画廊、デパートの美術品売り場を訪ね歩きました。ある作家が好きなら、その作品を全部読んでみようと挑戦してみてもいい。自分が好きなことならとことんやれると思います。ぜひそれをやってほしいと思います。それがどこで役立つかはわかりませんが、自分の独自性が生まれてきます。今の学生は積極性に欠けると言われますが、僕らだって先生に促されて初めて新しい道に入っていきました。教員はきっかけをつくってやるのが仕事だと思います。

――今年度から日本児童文芸家協会の理事長にも就任されました。

 僕は人生が趣味のような生き方をしていますので、児童文学の翻訳もしています。小学生用にコンパクトにした「オペラ座の怪人」は気軽に読むには手ごろな本です。日本児童文芸家協会の会員は500人ほどですが、組織とか会議にはなれていない物書き集団です。寝耳に水の就任要請でしたが、社会貢献のつもりで引き受けました。人は与えられた場所で、やらなければならない時はやるしかありません。人間学部開設準備の時も、不慣れでしたが大学に勤務する以上、果たすべき仕事と思いました。附属高校国際クラスとの一貫教育も学習院での良き体験を生かそうと考えました。日本児童文芸家協会は法人改革もあり、週末から月曜日は東京での仕事に追われています。

村松 定史(むらまつ・さだふみ)

山梨県出身。学習院大学文学部フランス文学科卒、同大大学院人文科学研究科フランス文学専攻博士課程満期退学。パリ第Ⅳ大学大学院D.E.A取得。2001年度から名城大学教授。2009年度から日本児童文芸家協会理事長。著書に「デイリー日仏英・仏日英辞典」(三省堂)、「身につく仏和・和仏辞典」(三省堂)、「文庫三昧」(弘学社)など。62歳。

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