育て達人第053回 谷村 光浩

世界史をしっかりと生き抜く強さ、しなやかさを   自分だからこそ取り組まなければならない分野があるはず

経済学部 谷村 光浩 准教授(都市・地域開発論)

 「絶対に手を抜きたくありません」。 経済学部の谷村光浩准教授は今年も十分に納得のいく準備をしたうえで授業に臨む決意です。教える内容の核心は、まず何よりも自らが知的に「ワクワク」したこと。これがなければ「伝わらない」と考えるからです。谷村准教授から学生の皆さんへの新年のメッセージです。

――担当科目は中国経済論、社会フィールドワーク、人間と社会の演習、経済政策研究指導など多岐に及んでいますが、手ごたえはどうですか。

「いくつもの物差し、時計を」と語る谷村准教授。絵は小学生のお嬢さんと一昨年夏に描いた「東山動物園」です。お二人の最新作は、今年2月の「第19回全日本アートサロン絵画大賞展」に入選されています。

「いくつもの物差し、時計を」と語る谷村准教授。絵は小学生のお嬢さんと一昨年夏に描いた「東山動物園」です。お二人の最新作は、今年2月の「第19回全日本アートサロン絵画大賞展」に入選されています。

 中国経済論では、現代の「スナップ写真」だけでなく、歴史をさかのぼっていきます。例えば私たちの「コンビニ」生活。中国で商業革命が起きたといわれる宋の時代にも、よく似た暮らしぶりが見られます。そうした角度から切り込んでいくと、高校時代までに断片的に持っていた知識が今とつながってきます。中国の政治、経済、社会の流れを骨太に見抜く力を培っていただけたらと願っています。社会フィールドワークでは、地球環境問題を視野に森林保全と企業の社会的責任について考えてきました。昨秋は、住友林業株式会社の方々のご協力を得て、富士山「まなびの森」で枝打ち実習や途上国の違法伐採をめぐる問題等の討議を行いました。森林は地球温暖化との関係でも注目されていますが、「森の時計」を体感した受講者が自らの提言づくりに挑む姿は、実に頼もしいです。

――「名城大学経済・経営学会会報」には「翻訳作業の舞台裏から」として『中国 都市への変貌: 悠久の歴史から読み解く持続可能な未来』にまつわるエピソードが紹介されています。

 翻訳としては4度目の今回、私が取り組ませていただいたのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)留学時代の恩師ジョン・フリードマン教授の著作です。フリードマン先生は都市・地域開発論の第一人者で、中国の経済発展については「内からの社会的力学によって推し進められており、都市開発は、中国みずからの歴史、価値観、制度との関係から論考されねばならない」と述べておられます。恩師の考えを正確に伝えたいとの一心から作業を進めました。唐・長安の経済活動を支えた社会システムを訳出するため、東京大学の図書館に『新唐書』等を求めて幾度も通い、また上海の再開発事業に抵抗する住民の名前(漢字表記)を探し出すため、サイバー空間にものめり込んでいました。

――専門ゼミでは国際開発・協力政策についても教えていますね。

 小さいころから建築デザインが大好きで、高校、大学時代とも夏休みは建設現場でアルバイトをしていました。「現場」で仕事を覚えたいという気持ちが強くありました。学部4年生と大学院生時代、名古屋の国連地域開発センターからいらした長峯晴夫先生のご指導を受けたのがきっかけで途上国のスラム問題に関心を持ち、のちに国際開発高等教育機構では「地球公共財」という開発協力アプローチのグローバルな政策研究事業にも携わりました。例えば、紛争地に自衛隊を出す、出さないという議論がしばしばなされてきましたが、視点を変えて、日本としては、理由はともあれ躊躇なく破壊される建物等にともなう環境負荷を、すぐさま二酸化炭素排出量として推計し、それに応じて攻撃した者に「課徴金」を求め、これを平和構築の諸事業にあてる仕組みを整備できないであろうかと提言してきました。

――学生たちへの注文は何でしょう。

 どのような進路を歩もうとも、自分が元気だと思える時は、世界のことを考えてほしい。この地球では、およそ6人に一人が飢えに苦しんでいます。世界全体を見回せば、すさまじい「格差社会」が広がっているのです。そういうことをきちんと視野に、物事を考えてほしい。ただ、今の自分に元気がないと思ったら、決して孤立せず、心静かに思索することです。いずれにせよ、21世紀前半を生きているからこそ考えられることは何か、「世界史をしっかり生き抜くんだ」という、強くしなやかな気持ちを持ってほしい。大学4年間には、問題解決に求められる知を、次々と学ぶ力を培ってほしいと思います。

――2010年の夢を教えて下さい。

 ときに、研究テーマに何を選んだら良いのかとの質問を受ける時があります。私は、自分が取り組まなければ誰も手をつけないであろうことに、ひたむきに打ち込めば良いと思います。ほかの人が手際よく進めてくれそうなことは、ある意味、信頼してまかせておけばよい。今年も、自分がやらなければと考える領域を、ひたすら耕していきます。

谷村 光浩(たにむら・みつひろ)

大阪府出身。近畿大学理工学部建築学科卒。同大学院工学研究科工学修士(建築学)、UCLA大学院建築・都市計画研究科都市計画修士、東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。名古屋大学大学院国際開発研究科助手、国際開発高等教育機構研究員、国連大学学長室客員研究員などを経て2008年4月から現職。47歳。

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