育て達人第056回 稲葉 千晴

学生時代の夢が広がった日露戦争研究   授業では教員を困らせる質問を

都市情報学部 稲葉 千晴 教授(国際関係論)

 都市情報学部の稲葉千晴教授は日露戦争の研究者として知られています。NHKの年末大型ドラマ「坂の上の雲」では稲葉教授が時代考証を依頼された場面も出てくるそうです。少年時代から「外国が好きでたまらなかった」という稲葉教授に、日露戦争研究にかかわったきっかけも含め、お話を聞きました。

――国際政治史の中で、日露戦争を研究するきっかけは何だったのでしょう。

「殻を破るような学生時代を送ってほしい」と語る稲葉教授

「殻を破るような学生時代を送ってほしい」と語る稲葉教授

 高校生のころからヨーロッパにあこがれていました。「レ・ミゼラブル」とかパリを舞台にした小説はよく読んでいました。学生時代は留学情報も少なく、駐日大使館を訪ねての情報集めもしました。その中でフィンランド大使館が最も親切に対応してくれたこともあり、大学3年の時にフィンランドで念願の留学生活を体験しました。フィンランドには学部と大学院時代にそれぞれ1年半ずつ留学しました。この時、日露戦争をめぐってフィンランドなど欧州での諜報・謀略工作で重要な役割を演じた明石元二郎大佐の存在に興味を持ったのが日露戦争を本格的に研究するきっかけです。ソ連からロシアに変わったことで、ソ連時代には見ることができなかった資料が公開され、日露戦争についても多くの新事実が出てきたことで研究にのめりこんでいきました。最近は、日露戦争時にロシアの支配下にあったフィンランド、ポーランド、トルコの研究にも力を入れています。

――NHKの大型ドラマ「坂の上の雲」でも今年は日露戦争が舞台になりますね。

 私も時代考証の依頼を受けました。日露両軍が激突する奉天の会戦で、クロパトキン将軍が地図を広げて作戦を練るシーンです。難航しましたが何とかロシアの図書館で当時のロシア軍参謀本部の資料の中から該当する地図を見つけることができました。ドラマは11月か12月の放映ですが私も秋にはバルチック艦隊についての翻訳本を出す予定です。

――フィンランドには2007年度も在外研究として1年間滞在されましたが、フィンランドの教育に対し、日本でも関心が高まっている点についてどう思いますか。

 ヘルシンキ大学の国際関係研究センターで研究生活を送りました。フィンランドは人口520万人で、愛知県の尾張地区の規模です。小国のフットワークの良さを痛感しました。教育面での日本との最大の違いは、落ちこぼれを出さないよう努力していて、真面目に底上げを図っている点でしょう。格差が生まれる状況を避けようという努力が、結果として底辺を引き上げ、全体の水準を上げています。税金は高いですが、大学、大学以外の高等教育機関、職業専門学校にいたるまで、国民は無料で教育を受けることができます。

――都市情報学部ではどんな授業をしていますか。

 2009年度は国際関係論を担当しました。2010年度からは「都市と国際関係」「国際社会と政治」となります。以前は、国際政治の動向をキャッチさせるため、学生たちには新聞記事の切り抜きをさせ、関心を持った国際面の記事に自分の視点を加えて発表させていました。しかし、年々、新聞を読まない学生が増え、最近ではインターネット検索でも構わないということで、社説の比較に変えました。国際記事ではフィンランドなどヨーロッパの小国が登場する機会はどうしても少なく、東南アジア諸国の記事が多くなります。

――新聞は情報の宝庫でもあると言われます。

 その通りです。アメリカ、中国、ロシアといった世界に影響力を及ぼす大国の記事なら間違いなく載っていますし、イギリス、フランス、ドイツといった欧州主要国の大きなニュースは十分フォローできます。経済的な事情で新聞が購読できなくてもインターネットを使って記事データへのアクセスは可能です。各新聞社のホームページを活用することでも多くの情報を得ることができます。自分なりの知恵を働かせて、ぜひ生きた情報の宝庫である新聞を活用してほしいと思います。

――有意義な学生生活を送るため、アドバイスがありましたらお願いします

 夢を持ち、その実現のために何事にも意欲を持ち、積極的であってほしいですね。学生時代にはぜひ一度は外国に行って、日本ではできない経験を積んできてほしいと思います。日本と世界は、これからもどんどん関係が深まるわけで、若い人たちは積極的に海外に目を向けてほしいと思います。名城大学でも海外の大学と交流協定を結んでいて多くの留学生を受け入れていますが、海外に出かけていく学生はきわめて少数です。チャンスがあるのにもったいない話だと思います。意欲的、積極的であってほしい点では授業に向かう姿勢もそうです。教員を困らせるような質問をどんどんしてほしいと思います。フィンランドでの体験で言えば、学生は質問するのが当たり前で、それなくしては授業が成立しませんでした。若者らしく、殻を打ち破るような学生時代を送ってほしいと思います。

稲葉 千晴(いなば・ちはる)

栃木県出身。宇都宮大学教育学部卒、早稲田大学大学院文学研究科西洋史専攻博士課程前期修了。早稲田中学・高校教諭、東洋英和女学院短大助教授を経て1998年に名城大学都市情報学部助教授。2004年から教授。著書に「明石工作―謀略の日露戦争」(丸善ライブラリー)、「すぐにつかえる日本語―フィンランド語―英語辞典」(国際語学社)など。52歳。

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