育て達人第057回 青山 邦夫

民事裁判での実践力育てたい   目標を立て有意義な学生生活を

法務研究科 青山 邦夫 教授(民事裁判実務)

 法務研究科(法科大学院)の青山邦夫教授は、裁判官出身の実務家教員です。2008年4月、38年の裁判官生活を経て本学教員となった青山教授に、「裁く立場」から「教える立場」となっての感想も含めて、法科大学院の教育について語っていただきました。

――38年間の裁判官生活を経て、大学での2年間の教員生活の感想をお聞かせください。

「将来の目標から逆算した計画を立て、充実した学生生活を」と語る青山教授

「将来の目標から逆算した計画を立て、充実した学生生活を」と語る青山教授

 仕事の性質が違うなあというのが実感です。裁判官は原告、被告、証人の話を聞いて判断していきます。そういう意味では受け身かもしれません。大学での教育となると、自分の方から、持っている知識を与えるのが仕事です。裁判では弁護士や検事という専門家が相手ですが、大学ではこれから専門家になろうという途中段階の人たちが相手です。専門家相手と違って、学生の皆さんには基礎的な説明や解説も必要ですし、レベル差もあります。どの水準を中心に教えるかという点でも難しい面があります。さらに、裁判官は利害関係が鋭く対立する中で公正、中立の立場から厳正な決断をして判決を出さなければなりません。相当なエネルギーが必要です。大学教育ももちろん大変ですが、少なくとも重圧からは解放されました。裁判官在任中はそれほど感じませんでしたが、退任して、改めて大変だったなと思っています。

――どれくらいのペースで判決を出したのですか。

 名古屋高裁時代は、民事事件を担当する部に所属していましたが,その部は4人の判事で構成されていて年間300件以上の事件を処理していました。和解や取り下げで終わる事件もありますから全部の事件について判決をするわけではありません。判決をした事件は,処理した事件のうちの6、7割についてです。判決した事件には色々なものがあります。マンションの飼い犬の鳴き声で睡眠不足になったという住民の損害賠償を求める訴訟,自衛隊のイラク派兵で、平和に生きたいという権利を害されたとして損害賠償請求が行われた訴訟など、社会的に注目を浴びた判決もたくさんありました。

――法科大学院は、幅広い視野を持つ法曹を育てることを目指す司法制度改革の理念に沿い2004年以降、全国で開校しました。名城大学法務研究科の特色は何だと思いますか。

 本学法科大学院は司法制度改革の理念に忠実に、多様な素地をもつ法曹、多様な専門分野をもつ法曹を養成することを目指しています。この地方では唯一の昼夜開講ということもあり、いろんな分野の社会人が学んでいるのも大きな特色でしょう。医師や司法書士、企業の方など年齢も職業も多様な社会人学生が在籍しています。授業は夜9時過ぎまであり、さらに残って勉強している学生もいます。学生の要望に応えて春休み中もゼミを開いている先生もいます。

――授業を進める基本姿勢を教えて下さい。

 法律家には、現実の紛争を法律的に解決していくことが求められます。どういう問題があるのかを正確に把握し、それにどういう形で解決を与えていくかの力が必要です。解決力、分析力、そしてバランス感覚、基本的な知識も大切です。私の授業では、民事裁判での当事者の主張を整理する要件事実論など、民事裁判での実務に対応する具体的な事例を取り上げ、理論を踏まえての実践力をつけてもらうことを目指しています。

――法廷ものの映画やドラマ、本などは好きですか。

 外国の映画はよくみます。アメリカの陪審員制度を扱った「12人の怒れる男」、アガサ・クリスティ作品「検察側の証人」などは印象深い作品です。法律家が活躍している国柄を反映してかアメリカやイギリスの作品はしっかりした作品が多いような気がしますが、日本の法廷ドラマには専門家の立場からは首を傾げる作品もあります。

――法曹を目指そうという学生たちも含め、名城大生へのアドバイスをお願いします。

 目標を達成するという意欲と、そのために努力することが第一だと思います。特に法律を学ぶには独特の思考方法があり、これまで学んできた思考方法の殻を破ることも必要です。ある程度のところまでは指導に従う素直さも必要ですが、頑張ればその先からはおのずと開けてくると思います。名城大学の学部生の皆さんと直接接する機会はまだありませんが、楽しそうで、学生生活を謳歌しているのだなあという印象で見ています。就職に役立つ資格を取得のための専門講座も用意されているなど大学の面倒見の良さを感じます。私たちの世代の学生時代では考えられなかったことです。恵まれた環境を生かすためにも、まず目標を立てることです。将来、何になりたいかを早く見つけることで、4年間で何をしなければならないのかが逆算でき、今何をしなければならないかという発想が生まれてくると思います。

青山 邦夫(あおやま・くにお)

富山県出身。東京大学法学部卒、同大大学院法学政治学研究科修士課程修了。大学院1年目に司法試験に合格。2008年3月に名古屋高裁判事を退官するまで38年間、全国の地裁、高裁を中心に裁判官生活を送った。2008年4月から名城大学大学院法務研究科教授。66歳。

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