育て達人第058回 溝口 敦子
男女問わず理工系進出を応援します 与えられた時間惜しむ学生生活を
理工学部 溝口 敦子 准教授(河川工学)
理工学部建設システム工学科の前身は土木工学科。生活の基盤を支える「町づくり」、自然災害を意識した「国土保全」について学ぶ学科ですが昔から女子入学者が少ない学科です。女性の理工系分野への進出を応援している理工学部の女子学生キャリアアップセミナー実施委員でもある建設システム工学科の溝口敦子准教授にお話を聞きました。
――女性として土木工学を学ぶことに抵抗はありませんでしたか。
「やるべき時には集中してやりとげること」と語る溝口准教授
私が名古屋大学に入学した当時は、土木業界が女性を受け入れ始めた時期でした。受験当時、父が土木関係の会社に勤めており、「これからは女性も活躍できるぞ」と勧めてくれたこともありますが、何より母が父の会社の仕事を手伝い、家で構造物の基盤部分の製図を引いているのを見て、将来、家で仕事ができると勘違いをしたこともあります。亡き祖父が土木工学科の教員で、土木の世界には憧れの念もありました。ちなみに、名古屋大学工学部の土木工学科には50人中、私を含めて4人の女子学生が入学しました。
――理工学部では3月13日、理工系分野への女性の社会進出を応援しようと、女性教員の皆さんが「女子高校生のためのキャリアアップセミナー」を開催しました。
私も理工学部の女子学生たちを連れて参加しました。理工系への女性進出は分野によっても違います。建築、デザインとかのソフト面を扱う学科は結構人気ですが、建設、機械などハードを扱う学科となるとまだまだ敬遠されているようです。建設システム工学科を出て土木現場で働くとなると力仕事もあるわけですし、難しい面もあります。私は学生時代、女性であることは意識しないでどんどんやってきましたが、いろいろな経験をつみ、さらには子育てに追われるようになってからは男女差があることを改めて認識しました。女性の進出には周囲の理解や協力が必要だし、最近では、女性同士、助け合わなければと考えるようになりました。今後のセミナーには男性教員にもぜひ参加してほしいと思います。もちろん最後は自分次第です。チャレンジする精神を大切にしてほしいと思います。
――河川についての研究を選んだのはどうしてですか。
長良川の河岸侵食調査など様々な河川の調査に参加して自然現象に魅力を感じたことと、研究を通じ、ダム建設など人為的な影響を受け河道内が樹林化するなど川が大きく変わってきていることを痛感したからです。堤防を造り、ダムを造ったことで、多くの川の環境が変化しています。しかし、日本で安全に暮らすことを考えると、地理的条件からダムも必要な場所には必要なのです。治水という課題と向き合いながら、どうしたら、より自然な川を取り戻せるかという研究に、川のためにも取り組んでいきたいと考えています。
――今年はCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が名古屋で開催されます。河川環境の面からもかかわりがあるわけですね。
人間の生活に必要な堤防やダムを造ることで河川環境が変化し、生物の生態系を崩しているのなら、やはり人間が知恵を絞って、自然に近い形に戻してやる必要があります。最近では応用生態工学という、河川工学者と生態学者が一緒に活動している学会もあり、COP10開催に合わせて、研究成果の発表が期待されています。生物の多様性に対してはいろんな分野からのアプローチが行われていますが、私は生物の研究までに立ち入っておらず、まずは自分の専門分野、河川への影響を物理環境の面からしっかり見据える研究者の立場からCOP10での論議を見守っていこうと思います。
――最近の学生たちを見ていて気付くことはなんですか。
受け身の姿勢が多いことですね。今、この時期に学ばなければ損するんだというくらいの貪欲さをもってほしいと思います。私は学生時代、ずっと体育会のテニス部でした。朝5時に起きてテニスコート向かう日もあり、部活で疲れ、つい友人のノートに頼ることもありましたが、大切だと思った授業には真剣勝負で臨みました。「やるときは集中してやる」という姿勢を崩さず、何かを言い訳にして単位を落とすことがないように、また支援してもらっている両親にせめられることがないように過ごしていました。
――新学期が始まります。期待を持って学生生活をスタートさせる新入生へのアドバイスをお願いします。
自分のやりたいことに全力投球する学生生活を送ってほしいと思います。それから、友達をつくって下さい。最近は気軽に声をかけ合える友人が作れず悩んでいる学生も多いようです。肩の力を抜いて、いいところも悪いところも認め合う友人をぜひつくって下さい。学生生活にかかわる情報収集も大切です。私は学生時代、部活を必死にやっていたので、それはそれでよかったのですが、何か足りないものがあったとすれば、いろんなことでの情報の不足でした。例えば、海外留学できるチャンスもあったはずなのに、身近にあった貴重な情報に気付かずに過ごしていたような気がします。
溝口 敦子(みぞぐち・あつこ)
愛知県春日井市出身。名古屋大学工学部土木工学科卒、同大大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(工学)。2006年4月に名城大学講師となり、助教を経て2010年4月から現職。共著に「学生のためのはじめて学ぶ土木工学」(日刊工業新聞社)。35歳。