育て達人第060回 能勢 充彦

土佐を離れて読み返す「竜馬がゆく」   若者なら恐れずに挑戦を

薬学部 能勢 充彦 教授(生薬学)

 「名城大学広報」では4月号から、薬学部の能勢充彦教授による連載「漢方随想録」がスタートしました。能勢教授は生粋の土佐っ子。連載第1回では高知市の生んだ昭和期の漢方医学者で、現代医療に漢方を普及させた大塚敬節(おおつかよしのり)の句碑を紹介しています。土佐時代の思い出もまじえながら語っていただきました。

――NHKの大河ドラマ「龍馬伝」が大人気です。

「好きなことにどんどん挑戦してほしい」と語る能勢教授

「好きなことにどんどん挑戦してほしい」と語る能勢教授

 毎週、家族で見ています。司馬遼太郎の「竜馬がゆく」でしか知らなかった「竜馬」とは違う「龍馬」が描かれており、面白いなと思います。中学時代に歴史小説の手ほどきをしてくれた同級生がいて、高校時代までに「国盗り物語」をはじめ、歴史ものは一通り読みました。「竜馬がゆく」との出会いは18、19歳のころ、学生だった名古屋での下宿時代です。高知よりも名古屋での生活が長くなりましたが、「竜馬がゆく」は留学先のアメリカにも持っていったことがあるなど、折にふれて読んでいます。

――「漢方随想録」の1回目の舞台も高知市。「彼の地は、維新や自由民権運動の立役者を生んだだけでなく、植物学や漢方医学の偉大なる先達をも輩出して参りました」として、牧野富太郎博士にちなんだ県立牧野植物園の中にある大塚敬節の句「術ありて 後に学あり 術なくて 咲きたる学の 花のはかなさ」の碑が写真とともに紹介されています。

 大塚先生は昭和期、漢方復権に尽力した方です。句についてはいろんな解釈があり、理論ばかりで頭でっかちになってはいけないという意味でもあります。漢方についての連載1回目としてはちょうどいいと思い、妹に頼んで写真を撮って送ってもらいました。坂本竜馬をはじめ、話題の豊富な土地に生まれ、育ててもらったことに感謝していますが、現実の高知は貧乏県です。四国山脈に閉ざされた土地柄もあり、自分たち住む世界は「県内」、高知県以外なら日本、世界もすべてを「県外」に区分してしまう感覚の県民性です。

――どうして漢方を研究することになったのですか。

 中学、高校は私立の一貫校で、理系の友達の多くが医学部志望でした。そんなにだれもが医者を目指すなら、自分は医者が使う薬について学ぼうという気になりました。アマノジャクだったんですね。入学した名古屋市立大学薬学部では荻原幸夫先生が漢方の研究をされていて教えを受けました。恩師である荻原先生は名市大を定年後、名城大学に移られ、私も5年前から名城大学に来ました。

――漢方薬と新薬との違いを教えて下さい。

 漢方薬と新薬(西洋医薬品)とは考え方が全く違います。風邪薬で例えるなら、西洋医薬品は熱を下げたり、咳を止めたり、鼻水を止めたりする対処療法ですが、漢方薬は体を温めることで風邪をひいた元を断つという根本治療です。西洋医学でもかつては薬草とか天然のものを薬として用いていましたが、現代科学の進歩があって、有効成分だけを抽出して大量製造する医薬産業となりました。一方、中国で生まれた伝統医学を、日本流にアレンジしたのが漢方です。中国では漢方と言わず中医学と言います。

――漢方の研究者は多いのですか。

 医学部でも薬学部でも、漢方薬について説明することができるようカリキュラムに組み込まれ、教育の面でもしっかりと扱われるようになってきました。しかし、研究者となると、逆に減ってきています。漢方薬は伝統薬とも言われるように様々な症例への処方、いわば実践を通しての効果を積み上げてきています。しかし、科学的解析の難しさや研究費を十分に確保できないという厳しい現実があり、研究者が減ってきています。私自身、「漢方薬の科学的解析」を研究テーマにしていますが、哲学が科学で割り切れないのに似た難しさを痛感する時もあります。講義では「薬用植物と生薬」「和漢医薬学」で、生薬や漢方の基礎理論を教えていますが、漢方に興味を寄せる学生たちは結構います。西洋医学で治せなくても東洋医学なら有効という場合もあります。薬剤師として、薬物治療の上で一つの武器にしてもらえればと思いますし、漢方薬の研究者も育てていきたいですね。

――学生たちは「竜馬」を読んでいるようですか。

 残念ながら本そのものを読む学生が減っているようです。小説もいいですし、エッセイを読むことでいろんな人の考え方に触れることもできます。私は中学生時代、歴史小説に夢中になって以来、本屋に行くのが好きになり、今でも週1回は本屋に足を運んでいます。学生たちを見ていると、まじめでおとなしさが目立ちます。本来、18~20歳という年代は怖いものがない時期ですが、一方で悩み、迷うのも当然のことではないでしょうか。(竜馬のように)自分の思ったこと、好きなことにどんどん挑戦してほしいと思います。

能勢 充彦(のせ・みつひこ)

高知市出身。名古屋市立大学大学薬学部卒、同大大学院薬学研究科博士後期課程修了。薬学博士。同大学薬学部助手、講師を経て2005年4月から名城大学薬学部教授。2001年度に日本生薬学会学術奨励賞、東海皮膚科漢方研究会学術奨励賞を受賞。48歳。

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