育て達人第061回 高橋 政稔

OBからホタルの幼虫   ビオトープで学ぶ小さな命と環境

理工学部 高橋 政稔 教授(環境共生都市論)

 天白キャンパス4号館南にあるビオトープに4月16日、ゲンジボタルの幼虫100匹が放されました。幼虫を提供したのはビオトープの存在に関心を寄せる2人の農学部OB。OBたちの期待に応え、ホタルはキャンパスの夜空に舞うことができるのでしょうか。ビオトープ造成を指導した理工学部の高橋政稔教授にお話を聞きました。

――大学キャンパスでホタルの乱舞が見られるとしたらすてきですね。

「ホタルが飛び立つのが楽しみ」と語る高橋教授

「ホタルが飛び立つのが楽しみ」と語る高橋教授

 一般学生や大学関係者、地域の皆さんも驚くでしょうね。感動すると思います。都会に住んでいても、ちょっと手を加えることで、小さな自然を復元することは可能だということを実感するはずです。今回の幼虫提供は、農学部OBの1人が昨年、たまたま訪れた天白キャンパスで、研究室の女子学生がビオトープの手入れをしているのに気づいたのがきっかけです。同じ9期生(1962年卒)のもう1人のOBと一緒に私の研究室を訪れ、「ぜひキャンパスに舞うホタルを学生たちに見せてやりたい」と申し入れてくれました。実は私も6年前にビオトープを造って以来、ずっと同じ思いで他の生物の観察をしていました。

――ビオトープはBios(生物・生命)とTopos(空間)の合成語といわれます。6年前、4号館南にビオトープが誕生した経緯を教えて下さい。

 私の研究室では「人と自然との共生」という視野で研究をしていますが、2004年度には農学部の学生たちと一緒に「自然復元研究会:みどりの環(わ)」という研究会をつくり、4号館南の空き地にビオトープを造りました。大学の施設部もバックアップして下さり、小さな池の水をモーターで循環させています。メダカが泳ぎ、ヤゴも自然発生しています。植物も外来種を除く30種類くらいを生育させています。「みどりの環」の会員は25人くらいですが、大学近隣の里山の手入れなどにも出かけています。里山も一つのビオトープだからです。ビオトープが象徴しているのは、小さい命があってこそ自分たちがあるということだと思います。

――「人間行動学」「環境共生都市論」「交通環境工学」が主な担当科目ですね。

 私が名城大学理工学部で土木工学を学んだのは車時代が始まったころです。人々の目がみんな自動車に向く中で、私は自転車、原動機付き自転車、自動二輪車の安全が一段と重要になってくると思いました。舗装道路では、二輪車の安全走行を脅かす轍(わだち)の溝ができるわけですし、水が溜まっても影響を受けます。二輪車の安全確保のための環境改善が必要だと思いました。学部卒業は1967年で、まだ大学院に土木研究科(開設は1977年)はなく、当時は名古屋工業大学にいて、今は名城大学におられる松井寛先生はじめ多くの先生方に指導していただき、自転車、二輪車の安全走行に関する博士論文に取り組みました。

――学生たちと一緒に飯田街道、中山道、飛騨街道などを歩いているともお聞きしました。

 ゼミ生たちとは古道探索「地域交通を歩く」のテーマで、旧街道を一緒に歩いています。土木工学や都市計画を人間行動と関連させて見ようとすれば、昔の人々がいかに知恵を働かせ、苦労して道を作り、歩いたのか、現場から学ぶことはたくさんあります。中山道の安藤広重が浮世絵で描いた現場で、浮世絵と現在との風景の変化も調べさせたりします。妻籠から馬篭まで歩きながら、山水でわかしたコーヒーをみんなで味わうのも楽しみです。

――環境創造学科ができて10年になりますね。

 2000年に環境創造学科ができたとき、私も土木工学科から移ってきました。人に便利さを与える点での土木工学に誇りを持ってきましたが、今では環境という衣をつけて土木工学を教えることの大切さを痛感しています。そういう原点に立ち、交通弱者を対象にした交通環境の整備(電動車椅子走行、自転車走行)、間伐竹材を利用した温暖化抑止材料の開発、そしてビオトープなどの研究に取り組んでいます。

――学生へのアドバイスをお願いします。

 大切なのは、これから半世紀以上は生きることになる人生とどう付き合うかです。大学時代の勉強はそのための力をつけるためです。そのためには自分を取り巻く垣根を低くして、いろんな人との交流を深めることが何よりも大切だと思います。「みどりの環」も、学部を超えた学生たちが、環境をキーワードに行動の環を広げています。最近の学生はコミュニケーション力が弱いとも言われていますが、垣根を低くして交流の輪を広げ、お互いに自分を高め合える仲間を増やしてほしいと思います。

高橋 政稔(たかはし・まさみ)

福岡県出身。名城大学第一理工学部建設工学科土木分科卒。博士(工学、名古屋工業大学)。技術員、助手、講師、助教授を経て現職。2010年4月から環境創造学科長。高校、大学時代は空手道に専念したこともあり、今年度からは空手部部長に就任。65歳。

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