育て達人第065回 木岡 一明

仕事と理論を一体的に学んでほしい   修了者同士のつながりも財産に

大学・学校づくり研究科長 木岡 一明 教授

 大学院の大学・学校づくり研究科が開設されて5年目を迎えました。学部とは直結せず、大学職員や学校事務職員などの社会人が中心に学ぶ全国的にもユニークな大学院です。毎月第3土曜日に開かれる定例研究会には教育関係者にとどまらず企業からの参加者も見られ、6月で18回目を数えます。研究科長の木岡一明教授に語っていただきました。

――開設5年目ということですが、どんな人たちがどんなことを学んでいるのですか。

「個人、集団、組織と3段階の学びを体験してほしい」と語る木岡教授

「個人、集団、組織と3段階の学びを体験してほしい」と語る木岡教授

 大学や専門学校、義務教育学校や高等学校の事務系職員や教員、留学生、主婦など多様な人々が学んでいます。3期生まで22人の修了生を出しましたが、修論のテーマも大学の経営戦略から学生や留学生支援、職員育成システム、義務教育における学校間連携、教育委員会の在り方など多岐に及んでいます。大学職員として学んだ方々は成果を職場に持ち帰り実践に役立てていますが、小中学校関係者からのアプローチは当初の予想に比べれば少なかったかなと思っています。小中学校の教職員にとっては、仕事が終わってから学ぶということは条件的にまだまだ厳しいようです。教育公務員特例法を使った現職教員派遣という制度がありますが、この場合は教職大学院に行かれるのが一般的です。

――既存の研究科なら教育学研究科が近いのでしょうか。

 教育学研究科は教育学を基礎としていますが、大学・学校づくり研究科は教育学のみならず経営学もベースに置いていて、それらを統合しながら新たなものを創っていこうという志向性を持っています。教育学とも言えない、経営学とも言えない、両方なのだと言った方がわかりやすいかも知れません。研究科の案内では「大学・学校の持続的革新力を生む戦略企画とマネジメントの手法を開発・実践できる教育経営職人材の育成」と紹介しています。教育学と経営学の垣根を超えるだけなく、学校づくり(初等中等教育)と大学づくり(高等教育)を一つのコンセプトに置き、マネジメントの発想と戦略・手法で実践的なシステムを構築していくことを目指しています。

――実践的なマネジメント論を学ぶわけですね。

 そうです。私は教員養成や教育学研究のプラットホームであるべき教育学部は十分に機能を果たしてこなかったと思っています。例えば小中学校で管理職になるには、教師をやりながら、経験の中で管理職とはこういうものだということを知っていくという仕組みです。しかし、教育学部では、教科についての学びが中心で、学校経営に対応するマネジメントについての教育は十分には行われてきませんでした。経験したことのない問題にぶつかったとき、それを克服するための専門的な理論を学び、実践できるような力をつけてもらうのがこの研究科の狙いです。

――マネジメントと言えば、書店では「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本が大人気で、「もしドラ」ブームです。

 学校づくりに関する指導で全国の学校現場に招かれる機会が多いのですが、長い間、制度や慣習に依存してきた学校では、組織としての機能がうまく働かず、教職員は相互不干渉に陥って多忙感や孤立感にさいなまれています。こうした状況を乗り越えるためには、学校に関わる人々が、学校組織マネジメントについての理解を深め、マネジメント能力の向上を図ることが必要です。「もしドラ」がこれだけ話題になっているのは、企業、自治体では当たり前になってきているマネジメントや戦略、サービスの考え方が、あらゆる組織で求められるようになってきているからだと思います。書店に行けば「もしドラ」だけでなく、マネジメントを扱った本があふれています。それだけ組織の中での、自分の職務の位置づけで日々悩み、考えている人が多いのだと思います。組織が個人のファインプレーで何とかなるという時代ではなくなってきているのです。

――大学・学校づくり研究科での学びに興味を持たれている方々へのメッセージをお願いします。

 この研究科の一番の大きな特色はPBL(Project Based Learning)という授業形式を導入していることです。学校現場で抱える問題を、理論に照らし合わせながら、実践的にどうしたらよいのか、何が突破口になるのかといったことをみんなで考えていきます。仕事と学習を一体的に進められるということです。同じような悩みを抱えている人はいっぱいいます。お互いに問題を突き合わせてみると、今までとは違ったところに問題の本質があったりすることに気づきます。一緒に学んだ人同士の横のつながりも非常に重要で、修了してからも大きな力、財産になります。個人の学び、集団の学び、組織の学びの3段階を経験していただくことになります。

木岡 一明(きおか・かずあき)

大阪府出身。京都教育大学卒、筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得満期退学。国立教育政策研究所総括研究官から2006年4月、名城大学大学院大学・学校づくり研究科教授。08年4月から研究科長。専門は公教育経営学(教育行政学・学校経営学)。「学校の“組織マネジメント能力”の向上」(教育開発研究所)など著書多数。53歳。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ