育て達人第077回 小嶋 仲夫

世界に羽ばたけ新6年制薬剤師!   「食」とこれからの「生命」の話をしよう

薬学部 小嶋 仲夫 教授(環境衛生薬学)

 薬学部の小嶋仲夫教授は熊本県水俣市の出身です。「公害の原点」水俣病は、小嶋教授が専門とする食・化学物質・生命の研究とも無縁ではないようです。健康と化学物質、長寿を支える食物などについて小嶋教授に語っていただきました。

――名城大学の教壇に立って10年。振り返っての感想をお聞かせ下さい。

「研究室から次々と達人たちが育って行くのがうれしい」と語る小嶋教授

「研究室から次々と達人たちが育って行くのがうれしい」と語る小嶋教授

 昨年10月、研究室の卒業生たち約80人が10周年を祝ってくれました。何も知らされずにホテルのうす暗い会場に入るやクス玉が割れ、スポットライト。北海道など遠方から駆けつけた卒業生たちもおり、まさにサプライズでした。薬剤師として、また起業家として、それぞれが様々な分野で活躍していました。学生たちには「名城を誇りに世界へ」と言い続けてきましたが、みんな立派に「名城の達人」に育っており、感動でした。

――水俣病は環境汚染による食物連鎖が原因でした。

 水俣病は公害という概念がまだ確立していない頃に起こり、「公害の原点」と言われます。原因がチッソ水俣工場廃液のメチル水銀と政府が認めたのは1968年で、保健所に最初の事例が報告されてから12年後です。その間、大学の研究者などからも様々な原因説の論文が発表され、空気感染説、遺伝説も流されました。私の周囲でも、患者さんが町外れの避病施設に隔離されていました。突然グルグル回り出すネコも見ました。国の対応や研究者倫理が良識をもって扱われておれば被害の拡大を止め、第二の水俣病と言われる新潟水俣病も防げたでしょう。若い時の見聞は、薬学研究を進める大事な局面で自らの正義を検証する判断基準ともなっています。

――どんな研究をしているのですか。

 これからは医学と提携した薬学の役割が一段と大切になります。とりわけ、薬・化学物質のことになると医師の守備範囲を越えます。食物として体の中に入った化学物質は全てが体にいいわけではなく功罪があります。これまで2000万種類以上の化学物質が合成され、毎日数万種に囲まれて生活しています。環境衛生薬学はその仕分けの研究とも言えます。つまり、戦後わずか60年間で平均寿命が約30年延びるという、人類史上考えられない事態が出現しました。この背景には、化石エネルギーを背景にした豊かな「食と薬」の供給があります。いずれも化学物質ですね。これだけの化学物質を相手に、生命は今後展開できるのか、宇宙進化の視点から考えてみる必要があります。研究室では、iPS細胞(新型万能細胞)や遺伝子発現調節システム研究など現代のテクノロジーを駆使しながら、生命の未来に沿って健康を目指すために食・化学物質の適正な摂取について研究しています。

――薬学部は2011年度で初めて6年生が卒業します。どんな薬剤師が期待されますか。

 現在の最上級生は5年生で、4年生後期に研究室に配属され、5年生の半年は病院などで実務実習でした。この春から6年生に進級し本格的な卒業研究に入ります。5・6年生はこれまでの修士課程に相当します。薬学部では昨年12月、厚生労働省の平山佳伸審議官を招き、「医療行政の今後と6年制教育薬剤師への期待」と題して講演してもらいました。平山審議官は医薬品行政で重要な「医薬品医療機器総合機構」のスタッフの半数以上が薬学部出身であると指摘し、また薬剤師の役割が非常に大きくなっていることを強調しました。6年制になり、医療現場で働く薬剤師は医師・看護師と責任を共有し、世界の薬剤師と肩を並べることになります。

――どんな大学時代を過ごされたのですか。

 中学の頃から、京都1000年の文化と京大の自由・バンカラが共存するという不思議に関心と憧れを覚えていました。学生時代は仕送りを求めずに自活してみようと、大学の友人と午後の幼稚園を借りて進学塾を経営、また大手予備校の講師を続けました。勉強・実験には夜中の時間を充てました。小田実の本「何でも見てやろう」にも刺激され、大学院博士課程を出てから5年間、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)などに留学しました。ほとんどの州を回り、各大学の学生を訪ね、まさに青春を燃焼させた時代でした。

――充実した学生生活を送るためのメッセージをお願いします。

 これまで世界の若者たちと話をしてきて特に気がつくのは、日本の若者が自立するには青年政策・環境が貧弱であること、そして健康の基本である3度の食・運動の楽しさをあまり満喫していないことです。人生の多くを親に頼るのではなく、自立する素晴らしさを体験してほしい。バイトもいいし、世界も見てほしい。考え方、生き方が何と多様なことかを学ぶはずです。薬学教育でも、調剤については日本と外国とでは大きな違いがある。最近は若い女性が元気で行動的です。男性たちも人間味のある諸君が多いのですが、女性たちの行動力をカンフル剤にして、共に時代を開いていこうという気概を期待しています。

4年生秋から本格的な指導が始まる衛生化学研究室

4年生秋から本格的な指導が始まる衛生化学研究室

小嶋 仲夫(こじま・なかお)

熊本県出身。京都大学薬学部卒、同大大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。MITなど米国に5年間留学。ファイザー中央研究所創設と創薬研究を経て2000年10月から名城大学薬学部教授。学科長、附属図書館長、情報センター長などを歴任。大学協議員、大学院薬学研究科主任教授、全国衛生薬学担当教員会議委員長。著著に「健康と環境」「新しい衛生薬学」(共著)などがある。64歳。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ