育て達人第078回 畑中 美穂

卒論仕上げた学生たちに充実感   テーマへの関心の深さが持続の力に

人間学部 畑中 美穂 助教(社会心理学)

 卒論を仕上げてほっとしている学生の皆さんも多いと思います。名城大学に赴任して3年目の人間学部の畑中美穂助教も12人のゼミ生の卒論指導を行いました。卒論発表会も終わり指導が一段落した畑中助教に、学生時代の体験も交え語っていただきました。

――4年生12人のゼミ生たちはどんなテーマの卒論に取り組んだのですか。

「学生時代は何にでも挑戦できる貴重な時期」と語る畑中助教

「学生時代は何にでも挑戦できる貴重な時期」と語る畑中助教

 心理学を学んだ学生たちですので、いじめとか高校生の学校生活への適応、メールでの誘いに不快感を与えない断り方など、心の問題をベースに、様々な現実的なテーマが出てきました。10人が女子学生ということもあり、女子学生が集団に同調しやすい心理的な要因の分析に取り組んだ学生もいました。身近な関心や疑問など、こだわって決めたテーマが目立ちました。そうでないと研究のモチベーションは続きません。

――研究室には学生の皆さんがよく出入りしていましたね。

 テーマを決めた学生たちは計画を立て、インタビューやアンケート調査など仮説を実証するためのデータを集めながら論文を仕上げていきます。その間、学生たちの興味がさらに深まるように指導、アドバイスをするのも私の仕事だと思っています。他の先生方の研究室は学生たちの出入りがもっと頻繁で、より綿密な指導をされており、私も「見習わなければ」と感じています。1月28日にはゼミの2、3年生たちを前に卒論発表会がありました。自分でテーマを決めて1年半から2年をかけて仕上げた卒論ですが、就職活動と同時並行で苦戦の跡がにじむ発表もありました。

――社会心理学を研究しようと思ったのはいつごろからですか。

 高校生の時にソーシャルワーカーやカウンセラーに興味を持ち、心理学と心身障害学の両方を学べる筑波大学人間学類を志望しました。お世辞にもよく勉強したとは言えない方だったと思いますが、3年生の時、恩師となる先生の「社会心理学特講」という授業が面白く、ゼミに入りました。「会話場面における発言の抑制」が卒論テーマで、会話中に発言を控えたり黙ることの意味や、コミュニケーションを円滑に運ぶための効果を分析する内容です。夢中になって取り組みました。もともと卒業したら普通に就職するつもりで、Uターン就職も考えていたのですが、恩師からは「今やっていることが楽しいなら、それを続けることも(将来の)の選択肢ですよ」と指摘されました。その時初めて「大学院に行くという選択肢もあるんだ」と思いました。いろいろ悩んだ末、大学院進学を決めました。

――大学院での勉強は学部時代とはかなり違いましたか。

 全く違いました。夜遅くまで研究棟の大学院生室での生活で、家に帰ったらお風呂に入って寝るだけでした。博士論文は卒論をベースに、会話と精神的な健康の関連や意思決定過程を扱いました。指導教員の先生に声をかけていただき、消防職員が衝撃的な現場で被るストレスやその解消方法についての研究にも関わりました。惨事を経験した消防士が、一緒に出動した消防士仲間と話し合うことで、ストレス症状が緩和されたり、解消されたりするかどうかなど、会話と精神的健康との関連に注目していた自分の研究テーマと重なる部分もありました。現在も消防職員のストレスに関する研究を続けています。

――報道関係者が体験する衝撃的なストレスについても研究されていますね。

 報道関係者が事故や災害現場での取材中に体験する強いストレスは惨事ストレスと呼ばれており、5年ほど前から共同研究として調査、研究に関わっています。フィールド調査ではJR福知山線の脱線事故、雲仙普賢岳の火砕流発生、阪神淡路大地震、新潟県中越地震の取材に関わったテレビ局の記者や新聞記者らへの聞き取り調査をしました。限られた時間での他社との競争、誤報は許されないというプレッシャー、デスク(上司)からの厳しい注文。極度の不安や緊張。様々なストレスを抱えながら、記者の方たちが現場取材に向き合っていることを知りました。

――下山学長は新年のあいさつで学生たちへの「ピア・サポート」(仲間による援助)を広めたいと述べました。

 心理学では人間関係によってもたらされる援助を、情緒的なものも物質的なものも含めてソーシャル・サポートと言います。自分を支えてくれる人がいると思えることが、精神的な健康状態につながります。サポートしてくれる人がいる人は、いない人よりもストレスや困難な状況に直面した時に耐えられる力が強くなります。下山学長がおっしゃられたように、いろんな人たちと「いい関係」を築くことで学生生活がより充実すると思います。

――学生たちへのメッセージをお願いします。

 学生時代は、何にでも挑戦することができるチャンスに満ちた4年間です。社会に出たらこれほど恵まれた状況はそうそうありません。「学生のうちに、これも、あれも、もっとしておけばよかった」と今更ながら思っている私がこのようなこと言うのも何ですが、ぜひ、いろんなことに挑戦して、目一杯大学生活を満喫してほしいと思います。

畑中 美穂(はたなか・みほ)

三重県出身。筑波大学第二学群人間学類卒、同大学大学院博士課程心理学研究科修了。博士(心理学)。2008年4月から名城大学人間学部助教。人間学部キャリアセンター委員。分担執筆に「対人関係と適応の心理学」「健康とくらしに役立つ心理学」など。

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