育て達人第079回 齊藤 公明

数学で表現し解決する力を鍛えてほしい   総合大学ならではの環境を活用しよう

理工学部数学科長 齊藤 公明 教授(確率解析学)

 理工学部数学科は1928年(昭和3年)に開校した名古屋高等理工科学校「數學科」がルーツ。8学部21学科を擁する名城大学の中では最も伝統ある学科と言えます。伝統の一方では最先端の国際金融市場の動向理論も扱う数学科の齊藤公明学科長に聞きました。

――数学の世界に関心を持ったのはいつごろからですか。

「数学で表現できる力をつけてほしい」と語る齊藤教授

「数学で表現できる力をつけてほしい」と語る齊藤教授

 静岡県富士市の出身で、幼い時から富士山を間近に見て育ちました。形の良い富士山を見て育ったことが影響しているかどうかは分かりませんが、子供のころから算数が好きでした。やがて無限の概念を扱う数学の世界に惹かれ、大学でも数学を勉強しようと早々と決めていました。数学の教授陣が充実していたため入学した学習院大学では、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を日本人として初めて受賞された小平邦彦先生、関数解析学の世界的権威の吉田耕作先生、吉田先生の退職後に就任された伊藤清先生などそうそうたるメンバーにご指導頂くことができました。特に、伊藤先生との出会いは、まさに私を確率論の研究に向かわせる人生のターニングポイントになったと感じています。

――専門である確率解析学についてわかりやすく教えて下さい。

 私の恩師でもある伊藤清先生が創始された確率微分方程式論は画期的な業績であり、これにより非決定的でランダムな時間発展の記述が可能になりました。ゆらぎを含んだ不規則な運動を記述できますから、広範囲に応用される理論です。ほんの一例に過ぎませんが、経済にも応用され、デリバティブ(金融派生商品)の価格決定には、伊藤先生が考案した「確率微分方程式における伊藤の公式」が使われることは有名です。国際金融市場を予測する方程式として知られ、ノーベル経済学賞にも結びついた「ブラック・ショールズモデル」は「伊藤の公式」をもとに1973年に構築されました。伊藤先生は京都賞などのほか、2006年には、数学の応用で世界最高の実績をあげた研究者に贈られるガウス賞の初代受賞者にも選ばれています。私は大学院で伊藤先生にご指導頂いた最後の学生と思います。この分野は現在では、更に現象の細部に入り込み、量子のような極微の世界を記述する無限次元確率解析学へと発展を続けています。無限次元確率解析学は抽象的ではありますが、現象を極微の世界から深く知るための応用に適した数学ということができると思います。

――名城大学の数学科ホームページでは「数学で自分を表現してみませんか」という齊藤先生のメッセージが紹介されています。

 農業のプロが自慢の作物で自分を表現し、プロの料理人はその作物で創った繊細な料理で自分を表現するように、数学で自分を表現しようというのが私の信条です。コメ作りをする方は自分が作ったコメに自信を持っており、作られたコメはその人を表わしています。プロの料理人の料理にもその人が表れていますし、どの道を歩んでいる方々に対しても同様であると思います。数学科で学ぶからには、様々な分野で数学的な発想、応用ができるようになってもらいたいと思います。数学で表現し解決するには与えられた課題の勉強、受け身の勉強だけでは役に立ちません。数学の奥は深く、日々進歩しています。

――大学院数学専攻では海外から招いた教員による授業も行われていますね。

 海外招へい教員による授業は10年ほど前から続いています。学内ではあまり知られていませんが他に類のない数学専攻になっています。今年も2人の先生の授業があり、1月17日から26日にはイタリアのローマ第2大学からアカルディ教授(量子確率論)が訪れ、大学院生や学部の学生たちに講義をしていただきました。アカルディ教授は経済学部の中にある数学の研究所であるヴォルテラセンターの所長です。2月28日からはアメリカのルイジアナ州立大学のクオ先生(無限次元解析学)による授業も予定されています。英語での授業なので相当勉強しなければなりませんが、熱心に勉強してルイジアナ州立大学に出かけた学生もいます。両教授は数学専攻の非常勤としてのスタッフメンバーです。ヴォルテラセンターとは学部間共同研究協定も締結しています。

――数学科は教員免許を取得する学生が多いですね。

 名城大学の前身は1928年に開校した名古屋高等理工科学校ですが、すでに中等学校教員養成の「數學科」が設置されていました。数学教員の養成は本学の伝統で、現在でも数学科の約6割の学生が教員免許を取得しています。愛知県の高校の数学教員での採用実績では最も多い大学だと思います。ただ、先ほど言いましたように、数学の真髄を教えるには、数学を自分で表現できる力が必要です。このため、数学科では理論面、応用面の双方を重視し、代数学、解析学、幾何学、応用数学、計算機科学の5つをカリキュラムの柱にしています。単に計算技術だけでなく、物事を数学としてとらえて表現できる力、問題を設定し数学的に解決する力を身につけた教員になってほしいと思います。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 せっかくの4年間ですので、目標を定めてそれに向かって過ごすことで有意義な学生生活を送れると思います。それから、せっかく単科大学ではない、名城大学のような総合大学に来ているわけですから、その利点を大いに生かしてほしい。理系の学生にとっては自分の専門だけでも大変かも知れませんが、時には専門以外の授業を聴いてみることで、いろいろな面で感性を高めることができると思います。自然科学はもちろんですが、哲学、心理学や経済の授業など数学と関連するところが多くあります。目的に向かいながら、いろいろな経験を積むことも人間形成の上で大切かと思います。

大学院生や学部生に英語で講義するローマ第2大学のアカルディ教授(共通講義棟南のS502教室で)

大学院生や学部生に英語で講義するローマ第2大学のアカルディ教授(共通講義棟南のS502教室で)

齊藤 公明(さいとう・きみあき)

静岡県出身。学習院大学理学部卒、同大大学院自然科学研究科博士前期課程修了、名古屋大学大学院理学研究科数学専攻博士後期課程単位取得満期退学。理学博士。1987年、名城大学理工学部助手。講師、助教授を経て教授。2010年4月から数学科長。52歳。

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