育て達人第080回 横森 求

人にやさしい乗り物について学んだ学生たち   介助犬グリフと卒業を迎える和田君、ゼミ生たちに拍手

理工学部 横森 求 教授(機械工学)

 理工学部交通科学科は4月から交通機械工学科に名前が変わります。4年間、介助犬グリフとともに車いすで通学を続けた和田隆正君は、交通科学科の卒業生として間もなく巣立ちの春を迎えます。「四輪電動車椅子の振動伝播特性と乗り心地」のテーマで卒業研究に取り組んだ和田君を指導した横森求教授にお話を聞きました。

――交通科学科が2011年4月から交通機械工学科に名前を変えるのはどうしてですか。

「プラス志向で友だちをたくさんつくろう」と語る横森教授

「プラス志向で友だちをたくさんつくろう」と語る横森教授

 グローバルな視点で交通の科学を研究する視点は大事ですが、実際に学ぶ内容となると材料力学やエンジンなど機械工学が中心になります。「機械」というキーワードがなかったことで、受験雑誌では理工学系部の中でも「その他」で分類されたり、受験生たちにはどんなことを学ぶのか分かりにくかったようです。中にはメカに弱い鉄道マニアであるとか、交通の歴史を学びたいと誤解する文系受験生もいました。就職先としても機械系の学生を求める企業からの求人が減ったりしました。

――研究室ホームページをみると卒業研究やゼミ指導では「ヒューマンインターフェイス」の大切さを挙げていますね。

 ヒューマンインターフェイスとは、機械やそのシステムとか環境というものを、人間の持っている特性に合わせてうまく利用していこうという、人間にやさしい技術とか学問領域と考えて下さい。私の研究室では「交通(乗り物)を通して社会の発展と人類の幸せに貢献する能力を養う」を基本姿勢にしています。乗り物の安全性、操作性、乗り心地などは全てヒューマンインターフェイスのレベルによって決定されます。車いすの場合は特に利用する障害を持つ人にとってより満足度の高いレベルが必要になります。こうした基本姿勢に立って、今は「自動車の走行環境変化のドライバーへの精神的影響」「二輪車の低速直立安定性」「電動車いすの乗り心地」を研究活動の3本柱にしています。

――いただいた名刺にはクラシック二輪車のイラストが書き込まれています。

 私は二輪車の安定性の研究で学位を取りました。大学院時代、2サイクルエンジンの世界的権威だった富塚清先生が定年後も非常勤で顔を出しておられ、「低速での直立安定走行に関する研究はまだだれもやっていないから」といただいたテーマでした。二輪車ほど人間が影響する乗り物はないと思います。積雪地帯では雪の中でも郵便配達のオートバイを走らせる必要があり、雪氷との関係を調べる研究も必要でした。名刺に印刷してあるのは、1870年ごろにフランスで誕生した蒸気機関エンジンを搭載した自転車のイラストで、世界初のオートバイとも言えるものです。実物はパリ近郊の博物館で展示されており、そのうちに見に行こうと思って名刺に書き込んでからもう40年近くになりますが、まだ対面は果たしていません。

――4年前に介助犬グリフとともに車いすで入学した和田隆正君が間もなく卒業を迎えます。卒業研究を指導された立場から感想をお聞かせ下さい。

和田君が名城大学を受験した当時、私は理工学部の教務委員長をしていてご両親ともお会いしています。電動車いすを勉強したいと3年生後半から私のゼミで学んでいます。和田君の卒業研究テーマは「四輪電動車椅子の振動伝播特性と乗り心地」で、自分自身の体験を電動車いすの改善に役立てようという思いもあったと思います。和田君は車いすも収納できるように改造した車にグリフとともに乗り込み、自分で運転して通学を続けました。ラブラドール犬のグリフは、キャンパス内や教室の移動では教科書やノートなどの荷物を背負い和田君をサポートし続けました。授業中は和田君の足元で一緒に講義を受け続けました。12歳近い高齢ということもあり、4年生の後半からは一緒に登校する機会は少なくなりましたがよく頑張ってくれました。ゼミの教室が騒々しいときには「グリフを見習いなさい」と学生たちを叱ったことも懐かしい思い出です。頑張った和田君とグリフ、そして和田君を支えながら一緒に卒業を迎えるゼミ生たちに拍手を送りたいと思います。

――和田君の頑張りから感じたことも含め、学生たちへのエールをお願いします。

 何事にも好奇心をもち、前を向いて頑張ること、学生時代に友達をたくさんつくるということですね。和田君は就職活動でも40社近くを回り苦労したようですが、車が好きだったこともあり、JAFへの就職を決めました。性格的にもプラス志向で、車いすの周りにはいつも語り合う仲間がいました。卒業研究発表が終わり、ゼミのコンパが塩釜口駅近くの居酒屋であった時も、体格のいい運動部のゼミ生が和田君を背負って3階の会場まで駆け上がる様子が本当に自然でした。ゼミ生たちの中には「和田君と友達にならなかったら、身障者に対して全く今とは違った意識で卒業していたでしょう」と語る学生がたくさんいます。パソコンや携帯などの画面だけでのつながりしか持てない若者が増えていますが、実際に顔を突き合わせないと本当の意味での人間関係は築けません。学生時代には、プラス志向で、ぜひたくさんの友達をつくってほしいと思います。

グリフと登校した和田君と横森教授

グリフと登校した和田君と横森教授

号館実験室での横森教授

号館実験室での横森教授

横森 求(よこもり・もとむ)

山梨県出身。法政大学工学部卒、明治大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程修了。博士(明治大学)。1966年名城大学理工学部助手。講師、助教授を経て教授。論文に「定常円旋回時の車両運動のドライバーに与える精神的負荷」「道路構造と電動三輪車椅子交通に関する研究」「低速走行時のオートバイのライダーによる操作特性」など。69歳。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ