育て達人第083回 谷口 昭

文書史料の大海かきわけて藩政を分析   入門ゼミでは大震災から法の仕組み学ぶ

法学部 谷口 昭 教授(日本法制史)

 法学部の谷口昭教授の専門は日本法制史。出身の三重県亀山市ではインターネットで閲覧・検索できる「IT亀山市史」が完成し、4月から公開を始めましたが、谷口教授は編さん委員の中心となり、全国の自治体史では初の取り組みを主導してきました。新学期からの1年生対象のゼミでは大震災と法についての授業も始めた谷口教授に聞きました。

――全国の自治体史では初めてという亀山市の「IT市史」の意義を教えて下さい。

「社会へのアンテナを伸ばそう」と語る谷口教授

「社会へのアンテナを伸ばそう」と語る谷口教授

 史料のデータベースには7万ページ分もの情報が蓄積され、音声や立体画像も盛り込まれています。これを書籍にしたら分量もコストも大変ですし、一家に一セットなどとてもは無理です。図書館で引っ張り出して調べるのも大変です。それがインターネットやDVDで、誰でも、いつでも、どこでも手軽に閲覧・検索できるようになった意義は大きいと思います。亀山市が市制50周年を期に編さんすることになり、私が講師になって勉強会を開いたのが2001年でしたから、10年かかっての完成です。10年前はまだまだIT環境も未成熟で、「IT弱者」も多く、パソコンを使わない執筆者もおり、市民から参加していただいたデジタル作業部会の皆さんに原稿の入力でも頑張っていただきました。

――近世の亀山藩政の章では、執筆者名に谷口先生のお名前も出てきますね。

 私は日本法制史のなかでも藩政を一つのテーマとして研究しています。法治主義といってもいい徳川時代中期以後の武士たちは驚くほどの文書主義者でもあり、膨大な文書が残されています。願いを出す、受け取って調査し、先例を調べて許可を出す。そのやりとりが全部文書で、必ず筆写(コピー)もする。藩校や寺子屋による教育成果もあり、日本人は庶民の識字率の高さでも世界トップクラスでした。文化的にも成熟しており、私はまさに古文書の大海に溺れてしまいそうな状態で研究生活を続けています。亀山市史では亀山を去来した大名たちの動きや藩政の展開、各地の庄屋を束ね、大名との橋渡し役をした大庄屋の動きなどを紹介しました。この大庄屋については「子孫ですが」という東京の方からの問い合わせがありました。まさに、ネット上での公開ならではの反響です。

――もともと歴史が好きだったのですか。

 どちらかといえば歴史は苦手で文学が好きでした。法学部在学中は、授業の半分以上は文学部の授業に潜り込んでいました。京都大学の教員でもあり、「我が心は石にあらず」「邪宗門」などの著作で人気作家でもあった高橋和巳はあこがれの的でした。法制史の実態調査では古文書の解読が必要ですが、法学部には古文書の授業はなく、自分で学ぶ方法を考えなければならない事情もありました。亀山市史の調査でもそうでしたが、古文書の大海と格闘していて、面白い史料を見つけ、読み進んでいくうちに、自分でも歴史小説を書いてみたいという思いが頭の片隅をよぎることがあります。

――普段の授業でもITは活用していますか。

 日本法制史の授業は600人収容の名城ホールで行うこともあります。大河ドラマを見ている学生たちは結構いますので、幕藩政治の事例として使えそうなシリーズは活用しています。昨年はパワーポイント画面に山内一豊や篤姫、龍馬に登場してもらいました。階段教室での大スクリーンですから、学生たちは、私のナレーションを聞きながら映画を観賞しているような気分になるようです。「本当かどうかは知らないけど」と断ってから説明しますが、法と制度をわかりやすく説明できればと思って活用しています。私のホームページには講義ノートやパワーポイントのファイルをアップしています。試験は資料の持ち込みは自由ですので、ダウンロードした講義ノートをわんさと印刷して持ち込む学生もいますが、頭の中に私のナレーションがインプットされていて、しかも整理されていないと大変です。このスタイルは2003年から続いています。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 何ごとについても関心や好奇心を持ち、関心ある知識をどんどん増やしてほしいですね。法律、裁判にはいつの時代でも社会的背景があるわけで、そういうところまでアンテナを伸ばしてほしいと思います。一方では情報を選択して取得する習慣をつけることです。頭の中に雑多に入れて置くのではなく、整理、加工し、解釈し、さらにそれを外に発信していく習慣をつけることです。発信するには文章力が必要になります。そのためにはコピー&ペーストに頼ってはいけません。1年生の皆さんは、まずは授業に対して真摯に、まじめに向き合うことです。文系学部なら時間は十分あるはずですので、ぜひ有効に使って下さい。

――東日本大震災については授業でも触れていますか。

 1年生を対象にした「リーガルリサーチ」という30人限定の入門科目で早速、取り上げています。大地震と津波、原発、被災、避難などについて、それに政治や法がどう絡んでいるのかをテーマに学生たちに調べさせています。中央政府と地方自治体、政府と政党、予算、災害と全てが法律に結びつきます。原発問題は評論家的に賛成、反対で済むことではなくなりました。科学的な知識も含め、しっかりと追いかけてみたいと思います。

谷口 昭(たにぐち・あきら)

三重県亀山市出身。京都大学法学部卒、同大大学院法学研究科満期退学。同大助手を経て1975年、名城大学講師。助教授を経て教授。最近の論文に「寛文期の地域社会と幕府評定所」、著書に「近世刑事史料集1盛岡藩」(デジタルデータ付)など。亀山市史編さん委員長、藩法研究会会長。67歳。

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