育て達人第085回 村野 宏達

津波にのまれた水田土壌の再生を願う   初心捨てずに自分を高める努力を

農学部 村野 宏達 助教(土壌化学)

 農学部生物環境科学科の村野宏達助教は土壌学が専門。東日本大震災では、出身である岩手大学農学部も実験器材が破損するなど被害に遭いました。旧盛岡高等農林学校の伝統を継ぐ研究室。津波にのまれた水田をどう生き返らせるか。先輩にあたる宮沢賢治も冷害に苦しむ農民のために土壌を改良しようと、雨にも負けず風にも負けず、歩き回りました。

――神奈川県出身でどうして岩手大学農学部だったのですか。

「大震災で宮沢賢治の偉大さを再認識した」と語る村野助教

「大震災で宮沢賢治の偉大さを再認識した」と語る村野助教

 昔から農業に貢献するような仕事をしたいと思っていましたが、浪人時代、予備校の先生から「土壌を学びたいなら岩手大農学部がいいよ」と勧められました。入学して初めて、前身の盛岡高等農林学校では宮沢賢治が鉱物や土壌を学んでいたことを知りました。しかも私が在籍した研究室の恩師の井上克弘先生は、研究室に埋もれていた当時の石の標本を発見し、記録に残さなければと責任を感じたのか「石っ子賢さんと盛岡高等農林―偉大な風景画家宮沢賢治」という本を出しています。井上先生は私が在学中に亡くなられましたが、奥さんからいただいた日本手ぬぐいに「雨ニモ負ケズ」の詩が染められていました。賢治のように人に寄り添う生き方は、教員として目指すべきだとは思いますが、賢治のようにまでになるには大変なことだと思います。

――今度の東日本大震災では農地も津波で大きな被害を受けました。農地として生き返らせることはできるのでしょうか。

 津波での影響はまず海水による塩害です。よく洗ってやれば6月の田植えも可能ですし、ぜひ頑張ってほしいと思います。ただ、水を被ったのはかなりの面積ですので、塩抜きは相当な事業になり、今年、作付けができるまでに回復できる面積は限定的になるのではないでしょうか。塩だけなら洗えばいいのですが水田が漏水していたり、畔が壊れていたらそちらの修復も必要ですし、重油や重金属で汚れている場合ですと数年という年月が必要になってくると思います。県の農業試験場などは、津波による塩害を調べるのが大変だと聞いています。

――いったん企業や研究機関に勤務後、また大学院に入られたのはどうしてですか。

 岩手大学には大学院まで計6年いて、環境について調べる会社に研究員として就職しました。その後、環境省系の財団に移り、それぞれの職場で、環境省やOECDの生態毒性に関する会議の資料を作る仕事をしていました。しかし、水生生物に対する化学物質の毒性研究に比べて、土壌中の化学物質の動態や生物への影響についてはあまり知られておらず、研究例もまだ少ない。もっと研究が必要と思い、仕事を辞めて筑波大学の博士課程に3年間、お世話になりました。修士課程からストレートに博士課程ではなく、4年間の社会人経験で、研究の的を絞ることができたと思います。

――名城大学の環境土壌学研究室でも同じようなテーマの研究をしているのですか。

 はい。農業は土壌が重要です。土壌中の化学物質の動きについて、農業現場なら作物にどう吸収されていくかなど、まだまだ研究する余地があると思っています。学生たちと春日井の農場やフィールド調査に出かけサンプル採取しています。豊橋でのフィールド調査では、昔は海の底だった時の地層が、その上にある畑にどんな影響を及ぼしているかということを調べています。

――教育、研究への取り組みとして「学生は議論し、試行錯誤の中で問題解決していくことが大事」と指摘しています。

 大学の修士課程を出て会社に入っても、当然のことながら知らないことのほうが圧倒的に多かったわけです。いろんな人と関わり、ディスカッションしたりして試行錯誤を繰り返し、失敗しながらも乗り越えていくことが大事だと思います。単位を取ることはもちろん重要ですが、それより重要なのは、その講義の内容などを自分のものとすることだと思います。卒論のテーマであればとことん考え、やり抜くことです。ただ、一人で解決できることは非常に限られています。そんな時、私はいろんな人と意見を交換するようにしています。それにより、取り組んでいるものがより良いものになっていくと感じています。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 名城大学生が自分の学生時代と重なる時があります。私は1年浪人して、岩手大学に入りました。岩手大学を好きでしたが、旧帝大などの他大学に劣等感があったと思います。ただ、この大学で自分のやりたいこと、できることを一生懸命やろうと思い、私なりに頑張りました。名城の学生たちと話していると、本当はあの大学に行きたかった、こういう勉強をやりたかったということを聞くことがあります。しかし、そこで止まらず、今、名城大学で、自分のやりたいこと、やるべきことを思いきりやることが重要だと思います。社会に出た時に本当に重要なのはどの大学を出たかではないと思います。志を高く持ち、仲間と刺激しあいながら自らを高めていけば、名城大学での4年間は何ものにも代えがたいものになると思います。

村野 宏達(むらの・ひろたつ)

神奈川県出身。岩手大学農学部卒、同大大学院農学研究科農林生産学専攻修了。環境コンサルタント会社、財団法人研究員を経て筑波大学大学院生命環境学研究科生物圏資源科学専攻修了。博士(農学、筑波大学)。2010年4月から名城大学農学部助教。36歳。

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