育て達人第087回 柳田 純也

非営利組織の発展に貢献したドラッカー   分からないことでも積み重ねが大事

経営学部 柳田 純也 准教授(非営利組織体会計論)

 経営学と高校野球を組み合わせた「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(もしドラ)が人気です。経営学部の柳田純也准教授も「ドラッカー理論は難しくても自分ならどうするか考えるにはいい本」とお勧めです。ドラッカーのマネジメント論とも関わりの深い非営利組織体会計が専門の柳田准教授に聞きました。

――非営利組織体である自治体や大学の財務分析を研究されているそうですが、今回の東日本大震災が被災自治体財務に与える影響は深刻になりそうですね。

「やる時はやる。遊ぶ時は遊ぶといったメリハリが必要」と語る柳田准教授

「やる時はやる。遊ぶ時は遊ぶといったメリハリが必要」と語る柳田准教授

 これは大きな問題です。被災したそれぞれの自治体の事情にもよりますが、大きな影響が生じると思います。漁業や農業が主な産業である地域では、震災と原発の影響で地域経済を支える経済資源に打撃を受けたわけですから税収も望めません。復興にも財源が必要です。インフラを整備し、被災者の方々が安心して生活するには、復興対策で財源を作るだけでなく、今後の日本社会をどのようにして行くべきか知恵を絞り合い、アイデアを出し合うことが必要だと思います。

――「もしドラ」で一躍有名になったドラッカーの著書に「非営利組織の経営」があります。ドラッカーとはどういう学者ですか。

 非営利組織の場合、その年に入ってきた収入はその年に使わなければならないという収支均衡の原則が経営の前提となります。使わずにお金が余った場合、その余った分はサービスの提供不足と考えます。したがって、非営利組織は予算を組んで、予算通りにお金を使い切るのがベストと考えられてきました。ですからマネジメントを導入するという発想自体がありませんでした。ですから、Plan-Do-Seeにはつながらないわけです。しかし、ドラッカーはそうではなく、非営利組織こそマネジメントが必要であることを主張しました。言うまでもなく非営利組織の発展にも多いに貢献した学者さんです。

――「もしドラ」はアニメにもなっていますが、こうした話題は授業でも取り上げますか。

 ドラッカーの本そのものは結構難しい。「もしドラ」の、高校野球をテーマにした青春ドラマとしての具体的なストーリーは学生たちには分かりやすく、自分の立場ならどうするか考えやすいと思います。私も授業で、「こういう映画があるけど」とお勧めビデオを紹介する時があります。例えばバブル経済時代の不良債権処理をめぐって、大銀行をモデルにした「金融腐蝕列島」は、バブル経済時代をよく知らない学生たちには参考になると思います。トム・クルーズ主演の「ザ・ファーム」(法律事務所)も国際的な脱税の話です。「税務会計」の授業とかゼミなどで、雑談のついでに話題にします。

――教員紹介要覧で、「思いやりのある人材を育てたい」と書いておられました。どんな授業を心がけていますか。

 私は法学部出身ですので、つい裁判を例に考えます。裁判官は原告、被告の両者の言い分を聞いて判決を導くことになります。経営の世界は数字が優先されがちですが、実際には経営者と株主では数字の見方が違ってきます。相手の立場も考えて経営戦略を考えなければなりません。授業ではAという考え方もあるしBという考え方もありますが、皆さんはどう思いますか?そう思うのはなぜですか?というように、学生に考えるきっかけを与えることができるように工夫しています。社会科学は人と人とのつながりの中で生じる社会的な問題を、どう解決するかを考える分野です。相手の立場や気持ちを考える、察することができるよう育って欲しいと願っています。

――学生たちへのアドバスをお願いします。

 やる時にはやる、遊ぶ時には遊ぶというメリハリが大事だと思います。ゼミを上手に活用して、ゼミでの勉強や活動を大切にして欲しいと思っています。ゼミでの発表や準備は、社会人でいうなら企画提案からプレゼンテーション、さらに報告書の作成という一連の流れに似ています。途中経過を先輩や教員に見てもらい、相談することは、社会人として活躍する能力を養うことに通じると考えています。ゼミを重視して、一生懸命に取り組んでほしいと思います。私のゼミにはまだ若い卒業生も時々顔を出してくれますが、実際に企業でもまれているだけあって、学生たちの発言が歯がゆく聞こえるのでしょうか、辛口の意見を言ってくれます。

――学生への注文はありませんか。

 分からないことは分からないままにしないで、分かる努力をすることが大切です。ゼミでもグループで分担して発表する際は、それぞれが責任をもって準備して、コミュニケーションを取り合ってほしいと思います。私のところに相談に来る場合でも途中経過でも心配することは全くありません。積み重ねることが大事なのです。

柳田 純也(やなぎだ・じゅんや)

東京都八王子市出身。立命館大学法学部卒、青山学院大学大学院法学研究科修士課程、同国際マネジメント研究科国際マネジメント専攻博士後期課程修了。国際経営学博士(青山学院大学)。2006年、名城大学経営学部専任講師、2009年から現職。著書は伊藤秀俊本学教授との共著『会計グローバリズムと国際政治会計学』。

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