育て達人第088回 都竹 愛一郎

スカイツリー企画展で「電波の未来」アピール   研究の楽しさを学生に伝えたい

理工学部 都竹 愛一郎 教授(放送工学)

 東京スカイツリーの建築技術を紹介する企画展「メイキング・オブ・東京スカイツリー~ようこそ、天空の建設現場へ~」が6月11日から東京・お台場の日本科学未来館で開催中です。同展では「地上デジタル放送の専門家」として理工学部の都竹愛一郎教授のメッセージも紹介されています。7月24日の地デジ全面移行を前に都竹教授に聞きました。

――東日本大震災で開幕が遅れた日本科学未来館の企画展「メイキング・オブ・東京スカイツリー」(6月11日~10月2日)では都竹先生のメッセージも紹介されています。

「研究成果が世に出る時こそ研究者として一番うれしい瞬間」と語る都竹教授

「研究成果が世に出る時こそ研究者として一番うれしい瞬間」と語る都竹教授

 私はスカイツリーからどんな風に電波を出したら関東一円をカバーできるかという回線設計に関わりました。企画展ではスカイツリー頂上で作業するクレーンや出来上がるまでの過程などの他に、関わった人ら11人の「理想のまち」についてのメッセージが紹介されています。私も「電波を使って情報を直接脳へ送る未来へ!」という一文を掲げ、放送用電波の基本となるマクスウェルが考えた電磁波を表す波動方程式、脳の模型を添えました。黄色い筒状メッセージ台のハート型窓からのぞき込む仕掛けです。

――地上デジタル放送が2003年にスタートした際の思いを、「自分の研究成果が世に出る一番うれしい瞬間」と本学の研究者要覧に書いていますね。

 1990年代後半から先進国は次々にテレビ放送の地デジ化を進めました。98年9月にイギリス、同年11月にアメリカが地デジ放送を開始しました。それぞれ欧州方式、米国方式と呼ばれ、今の日本とは違った方式です。私は郵政省電波研究所(現在の独立行政法人・情報通信研究機構)で、日本のデジタル放送の開発に関わりました。日本はアナログ放送の研究では世界のトップを走っていましたがデジタル放送研究は出遅れました。ただ、その分、最新技術を盛り込んだ日本方式を生み出し、2003年に関東、中京、近畿の3大都市圏で地デジ放送を始めましたが、50年ものアナログ放送に代わり、苦労の末の方式だったので長年、研究、開発に取り組んだ一人として思い入れがあり感無量でした。

――東京スカイツリーの地デジ電波の回線設計で最も苦労したのはどのへんですか。

 回線設計そのものは数学の話なので計算すればOKなのですが、最大の課題はどこに、どれ位の高さの塔を建てるかでした。様々な条件上の制約がある中、どうしたら関東一円に効率的に電波を飛ばすことができるか。しかも、2013年に東京タワーから地デジ電波を引き継ぐ際には、受信アンテナの向きも調整なしで済ませたい。非公開での専門委員会には、さらに観光、環境、地震などの専門家も加わり検討が重ねられました。

――研究室のホームページを見ると、「大学において地上デジタル放送を研究している数少ない研究室」と紹介されています。

 私の研究室ではテレビを中心にした放送電波がどういう風に飛んでいくのかという研究をしています。電波の測定方法や品質評価方法のほか、難視聴地域や移動受信対策などについて大学院生7人、学部生9人のメンバーが、伝送、周波数、成層圏の3グループで研究にも取り組んでいます。放送電波について研究している大学は全国的にも極めて少なく、瀬戸市にあるテレビ塔やいろんな中継局から出されている電波の測定もしています。

――電子工学に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

 日本のテレビ放送は私が生まれる2年前に始まりました。テレビは一般家庭にとっては高価な時代で、通信技術者でもあった父親はキット製品を買ってきて白黒テレビを組み立てました。接触不良でたたくと映り出すという時もありましたが、そうした体験を通して電子工学に興味を持ちました。父親の影響が大でした。「学研の科学」など科学雑誌の付録につく実験キットが楽しみで、付録のゲルマニウムラジオを作りながら「電源も電池もないのになんでラジオが聞こえるのだろう」と不思議に思いました。

――ラジオなど組み立てた経験のない今の学生にはピンとこないかもしれませんね。

 リモコン操作のテレビの普及で「チャンネルを回す」という言葉が死語になりつつあります。携帯電話など次々に便利な商品が生まれ、誰もが簡単に使いこなす時代になりましたが、複雑な技術も「知らなくて当然」という時代にもなってしまいました。原理や構造を考えるには私たちの体験したアナログ時代の方が分かりやすいかもしれません。授業ではIC(集積回路)の実験セットを使って、iPodなどの音声信号からボーカル音声だけ取り除いてカラオケ用回路を作らせるなど、意識的に小さな実験を体験させています。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 一つはインターネットの使い方です。ネットで調べることは大事ですが、経験や基礎的な知識がないと、情報が正しいかどうか判断できません。同じ言葉でも違う意味で使われている場合も多い。それから、目的意識を持った学生生活を送ることが大切だと思います。4年間の勉強はその後40年間の人生も左右するかも知れません。どういうところに就職し、どんな仕事をしたいのか。できるだけ早く目的を決め、得意な分野を伸ばすことです。

東京・お台場の日本科学未来館で開催中の企画展「メイキング・オブ東京スカイツリー」で「地上デジタル放送の専門家」として紹介されている都竹教授のメッセージコーナー(左) 筒状のハート型の窓をのぞく「電波を使って情報を直接脳へ送る未来へ!」のメッ

東京・お台場の日本科学未来館で開催中の企画展「メイキング・オブ東京スカイツリー」で「地上デジタル放送の専門家」として紹介されている都竹教授のメッセージコーナー(左) 筒状のハート型の窓をのぞく「電波を使って情報を直接脳へ送る未来へ!」のメッ

都竹 愛一郎(つづく・あいいちろう)

岐阜県高山市出身。名古屋大学工学部卒、同大大学院工学研究科博士課程前期修了。郵政省電波研究所(その後、通信総合研究所、独立行政法人情報通信研究機構)を経て2002年4月、名城大学理工学部電気電子工学科教授。工学博士(東京大学)。映像情報メディア学会丹羽高柳賞の論文賞、著述賞など受賞。55歳。

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