育て達人第098回 立川 剛

大地震で改めて問われる身近な防災意識   広めたい「かぐ転防」(家具転倒防止)活動

理工学部 立川 剛 教授(地盤振動学)

 理工学部建築学科は年末の12月20日、東日本大震災に対応した教員、学生の取り組みや今後の展望についての報告会を開催しました。立川剛教授の研究室の学生2人は「かぐ転防」ボランティア活動のテーマで、家具転倒防止への備えの大切さを訴えました。指導した立川教授に活動の意義を語っていただきました。

――報告会では、4年生の福拓也さん、竹内厳(つよし)さんが地震時の家具の転倒防止について報告しました。

「学生たちの建物の安全性を求める意識は高まった」と語る立川教授

「学生たちの建物の安全性を求める意識は高まった」と語る立川教授

 大地震では転倒するタンス・食器棚などは死に至る凶器にもなりかねません。学生たちは新潟中越地震(2004年10月23日)での「地震によるけがの原因」の分析例を紹介しましたが、家具類の転倒、落下、飛散したガラスが原因でけがをした方は負傷者の48%と半数近くに及びました。過去の事例でも常に30%以上を占めています。家具の転倒は非常に危険ですが、その対策は、ほとんどが居住者の責任とされているところに問題があります。

――「かぐ転防」ボランティア活動はいつごろから始まったのですか。

 防災の備えとして家具類の固定が不可欠だという立場から、現在、地震時の家具の転倒防止活動に取り組む「わがやネット」(名古屋市)の代表をしている児玉道子さんという方が、名城大学大学院生だった時、「先生、研究室の学生が中心となって『かぐ転防隊』(家具転倒防止隊)をつくりましょう」と動き出してくれました。「大地震発生時による家庭内の死傷被害を少なくする」ことを目的に、学生、大学教員、地域住民が非営利の活動として、住宅の家具類の移動、転倒予防のための金物補強の手助けをしようというボランティア活動で、阪神淡路大震災の発生から10年にあたる2005年1月から活動を始めました。

――どんな活動をするのですか。

 年齢に関係なく依頼のあったお宅を訪れ、地震で家具が転倒しないよう固定工事を行います。壁や家具の強度を確認したうえで、L字金具、チェーン、ベルト、ワイヤーで固定したり、連結したりします。ガラス扉のついた棚は、地震の際には、中のものがガラスを割って飛び出て来て、スリッパなしで歩くのは大変危険なわけで、ガラスフィルムを内側から張って防ぐことも大切です。施行後のケアも行います。

――阪神淡路大震災から間もなく17 年。「かぐ転防」隊も活動を開始してから7年になりますが、発足以来の出動回数はどのくらいですか。

 170件近くになると思います。大きな地震があった後には問い合わせが増えますが、しばらくすると静かになります。東日本大震災があった昨年は、転倒防止に使う金具類がホームセンターで品薄になり、なかなか手に入りませんでした。結局、出動したのは20件ほどで、例年とあまり変わりませんでした。「かぐ転防」ボランティア活動はまだまだ知られていません。もう少しPRに力を入れなければと考えています。

――「かぐ転防」ボランティア活動を進めていくうえでの課題は何でしょうか。

 地震と住民の防災意識との関係にどう取り組むかです。一方で福君、竹内君も報告しましたが、最近の建物は壁に下地がないため、ビスを打つことが難しい工法の住宅が増え、ピアノ・冷蔵庫など家具や家電側にも固定するための用意がない場合も多くあります。また、住民側には壁や床に穴を開けたくないという思いがあります。こうした問題を解決していくには、住民への啓発と同時に、家具類の転倒防止措置を施すことを前提にした、統一ルールづくりが必要だと思います。現在、ハウスメーカーではそのような動きも見られますが、家具、家電業界にはそのような動きはありません。研究室として、家具、家電業界にもぜひ、統一基準を設けるよう呼びかけを行っていきたいと思います。

――「3・11」は建築学科の学生たちに大きなインパクトを与えたのでは。

 建物の安全性というか、安全な建物を造らなければという意識をより切実に感じる学生が増えたと思います。それは建築学科を目指す受験生たちにも言えます。推薦入試の面接では、「最近のニュースで印象に残ったこと」として、ほとんどが東日本大震災をあげましたし、トルコの地震をあげた受験生もいました。

――学生たちへのメッセージをお願いします。

 建築学とは、自然と人間そのものと常に関わりをもつ魅力的な学問です。私は、宇宙船地球号の乗組員として持続可能なやり方を工夫しながら、人間の持つ文化性、芸術性を花開かせ、発展を後押しするのが建築学だと思います。数万円の予算で安全・安心が得られる「かぐ転防」活動のPRもさせて下さい。大地震が来襲する前に、「かぐ転防」活動を私たちと一緒に広めませんか。事態は急を要します。 ※「かぐ転防」ボランティア活動への問い合わせは   立川研究室へ電話(052-838-2370)かEメール(tachikaw@ccmfs.meijo-u.ac.jp)で。

「かぐ転防」ボランティアに取り組む立川研究室。立川教授の左が竹内さん、右が福さん。

「かぐ転防」ボランティアに取り組む立川研究室。立川教授の左が竹内さん、右が福さん。

立川 剛(たちかわ・つよし)

名古屋市出身。名古屋工業大学建築学科卒、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程単位取得満期退学。工学博士。名城大学理工学部助手、助教授を経て1989年から教授。日本建築学会 理事・東海支部長。専門は耐震構造、地震防災工学、地盤振動学。68歳。

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