育て達人第100回 鈴木 淳生

現場から学ぶことの重さを実感       時間を惜しむ学生生活を

都市情報学部 鈴木 淳生 准教授 (数理ファイナンス)

 学生たちにとっては間もなく迎える卒業の春。都市情報学部でも各ゼミの卒業論文発表会が相次いで行われました。胸を張って発表する学生がいる一方で、厳しい質問に立ち往生する学生もいる恒例の風景。鈴木淳生准教授(数理ファイナンス)は「社会人になったら卒論の比ではない厳しい試練が待ち構えていますよ」と語ります。

――授業ではどんな科目を教えているのですか。

「恵まれた環境を生かさなければ」と語る鈴木准教授

「恵まれた環境を生かさなければ」と語る鈴木准教授

 都市情報学部のカリキュラムは5つの科目群から構成されています。経済・経営、情報・数理、開発・環境、地域計画、財政・行政です。私は経済・経営系で、「貨幣の経済」「都市と金融」という科目を持っています。専門である数理ファイナンスとか金融工学は、経済・経営の分野を数学を使って論理的に考え、分析する科目ですが、学生は全員が受験科目として数学を選んで入学しているわけではありません。日常的な生活の中から、学生たちの興味を引きそうな事例をベースに、数学的な背景や知識を身につけさせる授業をしています。

――「都市学英語」という科目も担当されていますね。

 専門分野を英語の文献で読める力をつけることを狙いにした1年生向けの科目です。身近な話題から入れるよう、週刊の英字新聞もテキストにしています。今年度は東日本大震災関連のニュースもかなり取り上げました。

――卒論発表会では「小売店における在庫管理」「名古屋市におけるカフェの最適配置問題の研究」といったテーマを扱った学生もいました。ゼミの学生たちが学んだ4年間の集大成であるわけですね。

 そうです。在庫管理には数学を用いて現実の問題を解決するOR(オペレーションズ・リサーチ)という方法を使います。ただ、机に向かっただけの勉強だけではなかなか実感がわかない場合が多いと思いますので、今年度はゼミ生たちをビール会社2社の工場見学に連れていきました。在庫管理の現場を見ることで、こういうところにこういう理論が使われているんだということに気付かせるためです。

――名城大学が行っている東日本大震災復興のための研究支援で、都市情報学部の先生方5人が共同研究として取り組んでいる「被災者の生活再建をベースにした持続可能な復興まちづくり支援」に、「復興プログラム最適化」の役割分担で参加されていますね。

 共同研究者の先生方の専門は防災や土木計画、都市計画などで、柄谷友香先生のように、現地に入って生活再建について調査研究活動を続けている先生もいます。私は復興でのまちづくりの中で、公共施設の配置場所の最適化プロラグラムの作成や、地域産業振興のためのファンドのあり方などの研究で役割分担したいと思いました。それぞれの先生方の研究の進め方を学ばせていただくことも、自分にとっては刺激になり、とても価値のあることだと思いました。何らかの形で震災復興に関わりたいという思いもありました。

――10月には共同研究者の先生方と一緒に被災地を訪れたそうですが、被災地はどんな様子でしたか。

 学部長の大野栄治先生、福島茂先生、学生10人とともに、柄谷先生の案内で岩手県陸前高田市、大船渡市を初めて見させていただきました。よくテレビでも紹介されていた風景ですが、まさに流されて何もない無残な状態でした。廃墟と化した市役所の建物の中には泥まみれの書類が散乱し、時計が2時35分近くで止まっていました。「捜索終了」と書き込まれた日付を見て、不明者を探し出すための懸命な捜索がずっと続いていたのだと思いました。仮設住宅の人たちの暮らしぶりにも触れさせていただきました。改めて災害規模の大きさ、現場から学ぶことの重みを実感しました。今回の大震災からの復興に関しては、専門分野がどうのとか、そんな小さな話ではないとも思いました。

――学生たちへのアドバイスをお願いします。

 卒論発表会は若林拓史先生、柄谷先生、そして私のところと3ゼミが合同で行いました。18人の発表者の中には、夜行バスを乗り継いで被災地に足を運び、聞き取り調査をしたという学生、被災地でのボランティア活動の体験をもとに今後の課題を分析した学生もおり、貴重な体験をしたことが伝わってきました。大学は卒業の季節を迎えます。4年間、もったいない時間の使い方をしてきたのではないかと思われる学生もいます。学生は、年齢的には大人ですが、社会に出ていない分、甘えもあります。しかし、これだけ自由に使える時間は、社会人になったらないのです。失敗しても、恥をかいても、まだ許される恵まれた環境にいることをもっと自覚してほしいと思います。学生時代にしかできないことがたくさんあります。時間を惜しみ、いろんなことに果敢に挑戦してほしいと思います。

鈴木 淳生(すずき・あつお)

名古屋市生まれ。南山大学大学院数理情報研究科博士後期課程修了。博士(数理情報学)。同大大学院講師を経て2008年4月名城大学都市情報学部助教、2010年から准教授。大学院では総合数理政策学特論を担当。39歳。

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