育て達人第105回 吉永 美香
何万年もかけてつくられた 化石資源の残りはわずか 原発事故で高まるシンプルな太陽熱利用の意義
理工学部 吉永 美香 准教授(建築環境工学)
東日本大震災による原発事故を機に、エネルギー問題が大きな課題になっています。石油や天然ガスなど、人類の豊かな生活を支えてきた埋蔵化石資源を使い切るまでの残りの年数もカウントダウンが始まっています。太陽熱など再生可能なエネルギーの活用方法の研究に取り組む理工学部建築学科の吉永美香准教授に聞きました。
――昨年12月、建築学科が開催した東日本大震災への取り組みと今後の課題を話し合うシンポジウムで、吉永先生が示した、石油や天然ガスなど化石資源の「可採年数」の数字に、改めて“在庫切れ”が迫っているのだと痛感しました。
「学生生活で大切なのは学ぶ方法を身につけること」と語る吉永准教授。手にしているのは太陽熱集熱器に使う真空管。
はるか遠い昔、地上にいた動物や植物が地中に埋まり、何万年もかけて石油、ガス、石炭といった化石資源となったわけですが、底をつくまでの年数は原油が約40年、天然ガスが約60年、石炭は約160年と言われ、残りはわずかです。何万年もかけた資源を、人類はあっという間に使い切ろうとしています。ニューヨークに世界初の発電所ができたのも、日本初の電気街灯がともったのもわずか130年前でしかありません。そして、東日本大震災で、頼りにしていた原発の安全性が大きく揺らぎました。シンポジウムでは「震災後のエネルギー供給~再生可能エネルギーへの転換~」のテーマで講演者の1人に加わりました。
――再生可能エネルギーとして太陽光発電が注目されていますが、太陽光発電と太陽熱利用と混同されているような気がします。
私も太陽光発電はもちろん応援していますが、コストの問題もありますし、使われるシリコンも実は限りある資源です。住宅でのエネルギーの使われ方をみると、暖房や給湯など、50℃程度の熱利用が半分以上を占めています。化石資源を燃やして蒸気をつくって羽根車を回す。運動エネルギーに変えて電力をつくる。さらに搬送中にはロスもある。しかし、屋根の上にさんさんと降り注ぐ太陽熱をそのまま利用したら、たかだか50℃程度の熱を得るのは簡単です。電気を使うよりはるかにシンプルで合理的なスタイルです。
――電気は電気、熱は熱として使わないともったいないですね。
シンポジウムでも言いましたが、太陽熱でつくったお湯を貯めておくと、災害時の水の確保にもなります。私は太陽熱利用を広げる様々なプロジェクトに参加していますが、その中の一つで太陽熱給湯のシミュレーションを行っています。もちろん、雨や曇りの日はガス等で補う必要がありますが、標準的な世帯で、年間の給湯量の約42%は太陽熱で賄うことができます。
――ハイブリッド車の発想ですね。車も化石燃料依存から脱皮しようとしているわけですから、太陽エネルギーに対する意識改革が必要だと思います。
私は卒論段階から「太陽熱エネルギーと太陽光発電のハイブリッド利用」の研究に取り組んできました。地球温暖化問題で、太陽エネルギーに注目が集まるようになったのはまだ最近です。しかし、太陽光発電は増えているのに、太陽熱利用は増えていません。屋根の上に平板型に並べてお湯をつくる真空管を製造するメーカーも日本ではなくなり、中国から輸入している状態です。しかし、東日本大震災での原発事故もあり、太陽熱利用の意義を問い直す必要に迫られています。震災以降、私は大学や学会内だけではなく外に向かっても発信して行くことに方針を変えました。外で講演する機会があればどんどん出かけています。日本はエネルギー自給率が4%しかない国であることを再認識する必要があると思います。
――学生にはどんな指導をしていますか。
要領よく暗記して、定期テストでぎりぎり60点を取って単位を取ることには意味がありません。自分の頭で考え、分からないことは自分で分かるようにしようという姿勢を大事にすべきです。分かると楽しくなり、自信とモチベーションの維持にもつながります。教員が4年間で教えられることは知れていますから、大学では「学び方」を学んで、卒業後も自力で問題解決ができるようになってほしいです。
――8月4日のオープンキャンパス初日には「女子高校生のための理工系キャリアアップセミナー」が開かれます。理系女子の先輩としてエールをお願いします。
理工学部では、内閣府の男女共同参画室からの要請を受けて、2010年に女子学生キャリアアップセミナー実施委員会を立ち上げました。2010年3月に第1回を開催しました。2回目からはオープンキャンパスで開催しており、今回は通算4回目です。社会にはなお女性にとって見えない壁があります。セミナーは、理系が好きだ、モノづくりが好きだ、研究が好きだという理系志望の女子高校生たちに、理系女子の先輩として「やっていれば楽しいことがいっぱい待っているよ」とアドバイスをしてあげようというのが狙いです。高校の進路指導の先生たちも「名城大学で面白いことをやっているよ」と口コミで広めてくれているようで、参加高校生は20人、60人、90人と増え続けています。私も名古屋大学の建築学科で助手として勤務した時に、学科で初めての女性教員、初の旧姓使用、初の産休・育休取得などを体験し今まで研究生活を続けてきました。理系志望の女子高校生の皆さんの、多くの参加を期待しています。
吉永 美香(よしなが・みか)
山口県出身。名古屋大学工学部建築学科卒、同大大学院環境学研究科都市環境学専攻博士後期課程短縮修了。博士(環境学)。同研究科助手を経て2006年、名城大学理工学部建築学科講師。2009年から現職。名古屋市「脱温暖化2050なごや戦略」策定検討会委員など自治体や団体からの委嘱も多い。学内では女子学生キャリアアップセミナー実施委員。