育て達人第106回 原田 守博

「ゲリラ豪雨と都市型水害」の解明に迫る   市民のための工学「社会基盤デザイン工学科」に期待を!

理工学部建設システム工学科長 原田 守博 教授(水理学)

 暑い夏を少しでも涼しく過ごす庶民の知恵として、江戸時代から伝わる打ち水。天白キャンパスでは7月11日、18日、施設部や環境ワーキンググループの学生たちの呼びかけで「打ち水大作戦」が行われました。アドバイザー役でもある理工学部建設システム工学科長の原田守博教授に、専門である水理学の最新事情も含めて聞きました。

――専門の水理学とはどんな研究分野ですか。

「本音で語り合える友達をつくってほしい」と語る原田教授

「本音で語り合える友達をつくってほしい」と語る原田教授

 土木工学の中には、川や海に関する水理学という分野があり、広い意味で水工学とも言います。私は地下水の研究から出発しましたが、最近は水の循環に絡んだ研究として、ゲリラ豪雨とも呼ばれる局地的な集中豪雨、都市河川の水害対策の研究にも取り組んでいます。国土交通省には河川の計画や管理について、専門的な立場から技術的な助言を受ける制度がありますが、2000年から名古屋を流れる庄内川のリバーカウンセラーをしています。

――「打ち水大作戦」では研究室の学生たちも協力していますね。

 打ち水には、路面の温度を下げると同時に、まかれた水が蒸発する時の気化熱で周囲の温度を下げる効果があります。市民が手軽にできるヒートアイランド対策といえます。2005年の愛知万博の時は、国交省から「打ち水でどうして涼しくなるのか」をパビリオンでPRしてほしいと頼まれ、モリコロメッセで、学生たちに映像を使いながら寸劇を演じてもらいました。大学の「打ち水大作戦」では、ゼミの学生たちが6地点で気温や湿度の変化を観測するなどして協力しました。現在、学生たちは、天白キャンパス北側にある天白渓下池という1ヘクタールほどの池が、どれだけ熱を貯め込む効果があるか調べています。夏になると都市の気温が周辺地域より高くなるヒートアイランド現象に対し、都市部のため池の暑熱緩和効果を調べる研究で、昨年までは昭和区の隼人池で行っていました。

――炎天下の野外調査ですから学生の皆さんも大変ですね。

 研究室には4年生9人がいますが、暑熱問題に取り組んでいる学生たちにとって、夏の観測こそが勝負です。水害問題をやっている学生たちも、大学近くの植田川に水位計を設置して、雨量と水位の関係の変化を調べています。今年は、電波流速計という新しい観測機器を使って流速測定もする予定です。都市の川は雨が降ると、すぐに洪水が起きますが、正しい流速データがないと流量計算ができません。植田川は昨年4月から名古屋市が愛知県に代わって管理者になったこともあり、名古屋市からもデータ提供を求められています。

――文部科学省の平成24年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された理工学部が中心となった「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」では、原田先生も「豪雨および水災事象の発生機構とリスク軽減方策に関する研究」のテーマリーダーとして参加しています。ゲリラ豪雨も21世紀型自然災害であるわけですね。

 そうです。雨の降り方が変わってきています。今年の梅雨も九州では降り方が強烈で、シトシト雨ではなくザーザー雨でした。ゲリラ豪雨がどんどん増え、都市部では、流域の小さい河川の氾濫が続発しています。上昇気流も以前より活発になり、限られた範囲に強い雨を降らせる入道雲が発生しています。温暖化や建物の高層化も絡んだヒートアイランドの影響もあると思いますが、過去のデータだけでは対応しきれない事態になっています。

――建設システム工学科は2013年度から「社会基盤デザイン工学科」としてリニューアルされます。

 建設システム工学科は、土木工学科時代から英語表記は、世界共通の「Civil Engineering」です。市民生活に欠かせない公共施設、インフラ施設の建設を担ってきたことから、社会や市民に貢献する技術者養成の学問とされてきました。「社会基盤デザイン工学科」になってもこの表記は変わりません。ただ、これまで、橋、トンネル、ダム、上下水道、海上空港など、個々の施設の建設に特化してきた傾向がありました。「社会基盤デザイン工学科」は、専門技術領域の連携を図りながら、ソフト面も含めて、防災や減災、環境、景観問題にも応用させながら、社会基盤(まちづくり)をデザインしていきます。もちろん、21世紀型自然災害のリスク軽減も見据えた新学科です。期待してください。

――学生たちへのメッセージをお願いします。

 今の学生たちは、自分の考えをきちんと語り、相手の言うことをしっかり聞くということが苦手です。こうしたコミュニケーション力が弱い原因の一つは、友達関係がしっかりしていないのではないかと思います。落ち込んでいる時には親身になって相談できる、本音で語り合える親友をぜひつくってほしい。私は学生時代、早朝の新聞配達を4年間続けましたが、それでも友達をつくる時間はありました。学生時代の親友は宝ものといえます。

原田 守博(はらだ・もりひろ)

名古屋市出身。名城大学理工学部土木工学科卒、名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程修了。工学博士(名古屋大学)。名古屋大学助手を経て、名城大学講師、助教授、教授。2009年4月から建設システム工学科長。名古屋市環境審議会委員、愛知県治水計画検討会委員、国土交通省リバーカウンセラー。2012年4月から体育会弓道部部長。54歳。

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