育て達人第111回 小森 由美子

研究活動の原点となった蛇毒研究   人と違ったことをするから面白い

薬学部 小森 由美子 准教授(微生物学)

薬学部の小森由美子准教授は、院内感染防止対策や薬剤耐性菌の疫学調査とともに、蛇毒(じゃどく)の生理活性物質を探る研究に取り組んでいます。とりわけ修士論文、博士論文でも取り組んだ蛇毒研究は、小森准教授の研究活動の原点とも言えそうです。巳年にもちなんで、小森准教授にお話しを聞きました。

――小森先生が学生時代から所属する微生物学研究室は、ホームページによると、「初代田中哲之助教授が着任された昭和29年(薬学部創立)に発足した名城大学薬学部では最も古い研究室」ということですが、蛇毒研究との出合いもこの研究室ですか。

「蛇毒の研究手法もどんどん進化しています」と語る小森准教授

「蛇毒の研究手法もどんどん進化しています」と語る小森准教授

 そうです。田中先生は台湾で蛇毒に対する血清を作られるなど日本の蛇毒研究では第一人者だった方です。台湾で採取したたくさんの蛇毒を持ち帰り、その研究は名城大学の微生物学研究室に引き継がれました。蛇毒研究との出合いは、修士論文のテーマとして割り振られたのが最初で、その後助手に採用していただき、博士論文も書きました。

――蛇毒に関する研究とはどんな研究ですか。

 日本の主要な毒蛇と言えばマムシとハブですが、わが国では血清の入手も容易で医療体制も整備されているため、多種類の毒蛇がいる東南アジアやアメリカに比べ、被害対策という面ではあまりニーズはなくなりました。しかし、かつては動物実験などに頼っていた研究手法も、最近は培養細胞を使うことなどで大きく様変わりし、今まで見過ごされてきた毒性が注目されるようになってきました。蛇毒に含まれる非常に分子量の小さい物質に、急激に血圧を下げる作用があることが突き止められ、新薬の開発につながった例もあります。

――蛇毒研究のほかではどんな研究をしていますか。

 例えば日和見(ひよりみ)感染という、免疫の低下した人だけが感染する症例についての研究です。コウジカビとも呼ばれ、自然界において最も普通に見られるカビの一種であるアスペルギルスの一部が引き起こす症例を通し研究しています。パンやモチに生えるカビは、通常はその菌によって健康な人が病気になることは少ないのですが、免疫が低下していると日和見感染症にかかる恐れがあり、薬による治療もうまくいかない場合が多いのです。高齢化社会では、こうした感染症の研究は大変重要になってきます。「感染予防学」や「臨床微生物学」の授業では、日和見感染も含めた感染症例や、消毒とかワクチンなどの予防対策、関連法規も含めて講義しています。

――感染予防の分野でも、薬剤師の仕事の範囲が広がっているわけですね。

 そうです。病院では消毒薬やワクチンは薬剤部での管理になります。さらにチーム医療では、医師、看護師、薬剤師を始め、いろんな職種の人が協力し合わなければいけません。薬剤師も様々な職種の人たちと対等に話せるだけの知識が必要で、特に薬の選択や、どのような投与方法で使うかなどでは、医師からの信頼に応えなければなりません。

――授業ではどんな姿勢で学生たちを指導していますか。

 学生には厳しいと感じられても、学生たちが自分で努力して立ち向かっていくサポートをするように心がけています。何と言っても今の学生たちは「ゆとり教育」で育った世代です。競争にもまれ続けた団塊世代のようなエネルギッシュな生き方とは全く違います。こちらが注文するまで待ち続けるというか、自分から進んでやるということあまりない。しかし、そのまま社会に出たら苦労するのは自分なわけですから、「これではいけないな」と思ったら、1回は厳しく言います。そこで気付いてくれれば良いし、気付かなければ、冷たい言い方ですが、あとは社会に出て苦労して学んでいくしかないと思います。

――2013年は巳年。長年、蛇毒の研究を続けてきたことで特別な思いもあるのでは。

 そういうことはありません。巳年は12年に1回、必ず巡ってきます。とは言っても、蛇は金運を招くとも言いますし、私は“蛇様”のおかげで学位も取らせていただきました。年賀状には感謝の意味も込めて蛇の絵を印刷しました。(笑い)蛇毒に関する私の研究テーマを聞いて、変わった人だと思われているのかも知れませんね。最初はやはり引かれることもあります。でも、研究は人と違ったことをするから面白いわけです。どんな新しいものが生まれるかも分かりませんし、やってみなければ分かりません。もちろん、何でも思った通りには行きませんが。

――研究室の伝統として、蛇毒の研究は引き継がれてほしいですか。

 研究室の学生の中には、「旅行先でこんな物を売っていました」とかわいい蛇の縫いぐるみをお土産に買ってきてくれる学生もいます。私が指導している学生では6年生で1人、蛇毒の研究をしている学生がいますが、薬学部も6年制になって、研究者として大学に残る学生は少なくなりました。日本で蛇毒研究をされていた先生も引退された方が多く、ここの研究室で蛇毒の研究をやらないようになったら、日本で組織だった蛇毒研究を行うところはなくなるかもしれませんね。

4年生から6年生まで45人が籍を置く微生物学研究室の学生たちと

4年生から6年生まで45人が籍を置く微生物学研究室の学生たちと

小森 由美子(こもり・ゆみこ)

岐阜県大垣市出身。名城大学薬学部卒、同大大学院薬学研究科薬学専攻修士課程修了。薬学博士(名城大学論文博士)。助手、講師、助教授を経て現職。論文(共著)に「ウミヘビとコブラの神経に作用する毒の比較」「各種臨床分離細菌の消毒剤抵抗性」など。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ