育て達人第115回 葛 漢彬

連動型巨大地震災害に備えた耐震技術を

「想定外」は研究者としての敗北

理工学部社会基盤デザイン工学科 葛 漢彬 教授(構造工学)

 東日本大震災被害で改めて突きつけられた自然災害リスク軽減策。名城大学では2012年度から「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」(文科省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)がスタートしています。実施母体の自然災害リスク軽減研究センター(Advanced Research Center for Natural Disaster Risk Reduction  略称NDRR)が 取り組む5研究チームのリーダーの1人、葛漢彬教授に聞きました。

――NDRRでは「連動型巨大地震に対する土木構造物の安全性と修復性の向上に関する研究」のチームを率いています。どんな研究をしているのですか。

「明るく元気に自信を持ってやれば何でもできる」と語る葛教授

「明るく元気に自信を持ってやれば何でもできる」と語る葛教授

 1995年の阪神淡路大震災以降、日本では耐震研究が精力的に行われました。耐震技術は著しく発展しましたが、東日本大震災では大変大きな被害に見舞われました。特に複数回に及んで発生した連動型巨大地震での構造物の耐震性では大きな課題を突き付けられました。私たちの研究チームは、こうした現実を直視し、連動型巨大地震に対応した橋梁、高架橋システムなど大型構造物の耐震設計法の高度化、制震ダンパー(地震エネルギーを吸収する部材)の開発や補修、補強方法の対策の研究に取り組んでいます。

――東日本大震災では“想定外”という言葉が何度も言われました。

 私は4年生の「耐震工学」の授業で、“想定外”を言い訳にするのは技術者としての敗北を認めることだと学生たちに話しています。大型土木構造物の耐震・制震設計には、複数回に及ぶ地震の影響を考慮しなければならないという知見は、私たちも東日本大震災(3.11)以前に国内外のジャーナルに論文を発表していました。技術者や研究者は、限られたことだけでなく様々な可能性について考えるべきなのです。いろんな知識を身につけて、現在起こり得ること、将来起こり得ることを十分に検討すれば、対策を講じることが出来るはずです。

――3.11では耐震、津波対策、生活再建など複合的な備えの必要性が提起されました。

 その通りです。21世紀型自然災害のリスク軽減は、まさに防災のあらゆる面に備えなければなりません。NDRRでは、私たちの研究チーム以外に、大空間構造物の耐震安全性評価による震災リスクの軽減、豪雨および水災事象の発生機構とリスク軽減方策に関する研究、水工学-地盤工学の連携による沿岸域低平地の自然災害リスク軽減への挑戦、中核被災者を主体とした被災限界からの自律再建メカニズムの解明の4テーマを加えた計5チームで研究に取り組んでいます。私の研究室のドクターの学生は、津波によって流された大型船による被害に注目し、複合作用を想定した対策を研究しています。災害リスク軽減にはあらゆる面からの備えが必要です。

――研究者同士の国境を越えた連携、現地調査も大切ですね。

 大きな自然災害が起きた時、社会貢献や現実的な対応が求められる研究者はまず現地に入ります。何が起きているのかを知らないと、何が問題で、どんな支援ができるかが分かりません。2008年の中国四川大地震の際にも私は何度も現地に飛び、日米研究者で技術サポート協力グループを作り、中国科学技術省と連絡を取って、現地での調査に基づき提言をしました。3.11でももちろん、現地の橋梁被害を中心に見て回りました。

――4月から研究実験棟Ⅱがオープンし、これまで4号館で行われてきた実験が大型重量実験棟に移されました。どんな実験成果が期待できますか。

 私たちのチームに関係ある大型構造実験システムでいうと、4号館時代は設置場所が狭かったため小規模実験しかできませんでした。研究実験棟Ⅱの実験施設に移ったことでスケールの大きな実験ができます。構造物の8分の1~10分の1モデルしかできなかったのが、半分もしくは3分の1ほどのモデルで実験ができるようになりました。研究活動での知見が、実物により近い構造物でそのまま当てはまるのか、あるいは開発した制震ダンパーを取り付けての構造実験もできるようになります。研究実験棟Ⅱに誕生した実験施設は全国的にも屈指の設備です。施設内容だけでしたら名城大学よりすばらしい施設を持つ大学も一部ありますが、名城大学からはトップレベルの研究成果を出せると確信しています。

――学生たちへのメッセージをお願いします。

 学生たちには、明るく元気に自信を持ってやれば何でもできると言っています。海外での学会に研究室の学生たちを連れて行った時は、英語が苦手だと尻込みする学生たちにも、まずは一歩を踏み出させます。準備、練習してきたことを、「最初は用意した紙を読んでもいいから」と。国際学会で発表する研究者も、若いころはみんなそういうプロセスで成長してきているのです。2回目に連れていく時には「しっかり頭に入れて発表しなさい。質疑応答は難しいかも知れないけれど気にしなくていいから」と背中を押します。やがて、学生たちは「勉強した英語が使えて楽しかった」と、意気揚揚と帰ってくるようになります。日本の学生たちは受験英語とはいえ、たっぷり英語を勉強してきています。その英語を実際に使わせるチャンスを提供するのも我々教員と大学の責任だと思います。

葛 漢彬(ぐー・はんびん)

中国江蘇省出身。華中科技大学(武漢市)工学部卒。1989年に来日し、名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。名古屋大学助教授を経て2008年から名城大学理工学部建設システム工学科教授。同学科の学科名変更に伴い2013年4月から現職。専門は構造工学、耐震工学。2005年の愛知万博の際、中部日本新華僑華人会を設立し会長に就任。現在は名誉会長。1965年生まれ。

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