育て達人第133回 岡 充彦

情報の宝庫「新聞」の活用授業10年
高校生たちに多様な引き出し整えたい

名城大学附属高校 岡 充彦 教諭(社会)

「教育に新聞を」。NIE(Newspaper in Education)と呼ばれる教育実践が全国の学校で取り組まれていますが、名城大学附属高校でも10年間にわたり新聞を活用したNIEの実践が取り組まれてきました。開始当時から関わってきた岡充彦教諭に聞きました。

――NIEの歴史と附属高校の取り組みについて教えてください。

「新聞は情報の宝庫」と語る岡教諭

「新聞は情報の宝庫」と語る岡教諭

新聞を教材として活用するNIE(エヌ・アイ・イー)は1930年代にアメリカで始まりました。日本では全国の新聞社が加盟する日本新聞協会の呼びかけで1996年に「NIE基金」が設けられ、1998年からは日本新聞教育文化財団によって一定期間の新聞購読料が補助されるNIE実践校の指定が始まり、NIEが広がっていきました。名城大学附属高校では2004年度から、総合学科で特徴あるカリキュラムづくりが行われた際に、NIE学習がスタートし、2005年度、2006年度に実践校の指定を受けました。当時は2年生総合学科の2クラスが中国への修学旅行を実施していたこともあり、「コミュニケーション」という授業で、新聞を使った調べ学習をしたのが、最初のNIE学習の実践となりました。

――手応えはどうでしたか。

新聞は情報の宝庫。生徒たちは関心を持った中国に関する新聞記事を集めました。新聞記事以外にもインターネットや書籍でも情報を集め、中国と日本の文化の共通点や違いなどの調べ学習を掘り下げていきました。修学旅行から帰った後は、中国で見たこと、感じたことを記事化し、写真を付けて新聞の形にまとめました。これはプレゼンテーション力をつけることにもつながりました。その後、NIE学習は、取り組む教員の創意工夫により、様々な形で進化を続けました。「中日新聞」に連載されているインタビュー記事「この人」を教材に、1、2年生が各教室でペアとなってそれぞれの相手を紹介する附属高版「この人」の作成、推薦入試で秋に入学が決まった3年生たちが、事前に大学で学ぶ領域や内容についての新聞記事を集める「新聞切り抜き作品」の作成、2年生総合学科「探究入門」という授業では、毎週、キーワードについて詳しく調べた内容、感想を書き込んでいく「新聞ノート」を作成。10年間で多様な活用法(コンテンツ)が詰まった引き出しを整えることができました。2014年度からは2度目のNIE実践校の指定を受けています。

――生徒たちはいつでも自由に新聞各紙を見ることができるのですか。

NIE実践校として提供してもらえる新聞は5紙を1部ずつ。年間4か月間分、2年間の提供です。1800人余の全校生徒がいつでも自由に読めるわけではありませんので、授業で使う場合は各家庭から持ってきてもらうことになります。この地区ではどうしても「中日新聞」になりますが、朝日、毎日、読売、日経、中日、産経の6紙を2階、7階の新聞コーナーで閲覧できるようにしています。読売は同社発行の英字紙「ジャパン・ニューズ」も置いて、国際クラスの生徒たちに利用してもらっています。

――岡先生にとって新聞が身近な存在となったのはいつごろからですか。

中学時代です。家では「中日スポーツ」もとっていました。中日ファンでしたので、プロ野球の記事はよく読みました。「星野がんばれ」とかコメントを電話で送ると、投稿欄の記事にしてくれるんですね。それが面白くて中スポはよく読みましたし、新聞がとても身近に感じるようになりました。父が印刷関係の会社をしていたので、いろんな新聞や雑誌が身近にありました。「世の中にはいろんな情報誌があり、知らない出来事がたくさんあるんだなあ」と読みました。印刷物をいつでも読める環境は大きいと思います。

――NIE学習で高校生の読む力、書く力はついているのでしょうか。

NIE学習では、新聞を読み込み、調べてまとめ、発表していきますので、読む力、書く力はついていると思います。ただ、若者たちが全体的に文章を書かなくなってきているのが気になります。小学校までは作文の授業がありますが、中学校からは文章を書く機会がグンと減り、高校生になるともっと少なくなる。大学入試の小論文対策として慌てて書く訓練を始めることになります。社会全体がそうですが、各家庭では新聞の購読率が低下しているのも心配です。

――新聞は購読しなくてもインターネットで情報を得ることもできますね。

ネットでも新聞記事が配信されていますので、ネットを上手に使えば有効に情報を得ることができます。ただ、最近はLINEなどスマートフォンの無料通話アプリに夢中になり、ネット上でのニュースすら読まない若者たちが増えています。LINEに書き込まれている、書き手の一方的な感情や思い込みなどが唯一の情報源となってしまう。さらに、スマホでのゲームに何時間も熱中し、メディアが伝えるニュースを読まない若者たちが激増している。こうした点はNIEに関わる他校の高校の先生たちとの会話でも最近、話題になります。高校生たちだけでなく大学生にも広がっているのではないかと見ています。

――NIEのほかにやってみたいことはありますか。

附属高校の歴史を調べてみたいと思っています。附属高校も大学同様、2016年で創立90周年を迎えますが、かつては新聞部や弁論部があり、立派な学校新聞や文芸誌を出していた時代がありました。英文タイプのクラブもあったようですし、大学でも「名城大学物語」の連載などで自校史発掘に取り組んでおり、附属高校もぜひやらなければと思っています。附属高校の卒業生であり、同窓会の役員もしていますので使命感を感じます。

岡 充彦(おか・みつひこ)

名古屋市出身。名城大学附属高校卒。愛知大学文学部史学科を1989年に卒業し母校教員に。附属高校のNIE学習には2004年度のスタート時から関わり続けており、他校とのNIE実践報告会には附属高校を代表して参加しています。保健主事として、高校生の健康に関する新聞記事を集めた「保健タイムズ」も保健室から発信中。

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