育て達人第137回 梅本 良作

工作機械のデザインの変遷を研究し博士に
「生涯学びを楽しむ」を体現

理工学部 梅本良作 技術員

ものづくりの現場で広く使われているが地味なイメージが強い工作機械。FA(ファクトリーオートメーション)の進展に伴ってデザイン性も加味されてきました。その変遷を産業技術史の面からアプローチした研究で2015年末、九州大学から芸術工学の博士号を贈られました。62歳での学位取得は、本学の戦略プラン「MS-26」の「生涯学びを楽しむ」を体現しているようです。

学位論文の内容は。

学位記を手にする梅本さん=3号館で

学位記を手にする梅本さん=3号館で

「戦後日本における工作機械のイノベーションとデザインに関する産業技術史研究-マシニングセンタの成立と展開を通して-」です。NC(数値制御)工作機械から、それを高度化、汎用化したマシニングセンタ(MC)の技術開発とデザインの流れを考察した論文です。

同じ工業デザインでも、車や家電、家具、食器などと違って一般消費者になじみの薄い分野に着目しましたね。

工作機械は金型製造など金属部品の加工になくてはならないのですが、以前は油汚れを目立たなくするように灰色が基調でした。開発の主眼は精度や安全性の追求でした。しかし、1980年代、事務所はOA(オフィスオートメーション)化、工場はFA化が急速に進み、それに伴ってNC工作機械もMCもきれいになっていきました。アイボリー、ベージュ、青などが使われ、青と白のツートンカラーも登場してきました。

ご自身の工作機械やデザインとのかかわりは。

勤務先の鉄工所(名古屋市緑区)で1980年、NC工作機械を導入する担当になりました。社長が当時日本金型工業会会長で、自社の金型製作のNC化を他社に先駆けて取り組みました。そして、車のホイールのダイカスト金型設計とデザインに携わり、デザイナーに触発されて工業デザインに興味を持ち始めました。次の勤務先のカーアクセサリーメーカー(愛知県岡崎市)では、商品開発部CAD室に籍を置き、製品設計を担当し、デザインを勉強する意欲が湧きました。創業者の社長が朝礼で「勉強しろよ」と力説する人でした。役員の理解があって、働きながら浜松市の静岡文化芸術大学大学院デザイン研究科に通うことができました。静岡文化芸術大学には立派なMCが置いてあり、自分から「使わせてください」と言って研究に活用させてもらいました。周囲の学生に使い方を教える機会もありました。

それで未開拓の分野に光を当てたわけですね。

MCは最先端技術を駆使した機械であるため、自在に操作して効率よく加工するには、人と機械との関係を考慮したデザインが求められます。研究対象として魅力的に映りました。

専門家を求めて九州大学(福岡市)の門をたたいた。

九州大学芸術工学府には石村眞一教授というデザイン史の専門家がいました。「工作機械のデザインの変遷を研究したい」と言うと、「人間が絡むので面白いテーマだ」と受け入れてもらいました。57歳の時です。毎週火曜日を大学へ行く日と決め、名古屋駅から始発の新幹線に乗り、終電に近い新幹線で帰る生活を半年続けました。その後も毎月1回は大学に通いました。先行研究がなく、古い文献や古いカタログを見たり、メーカーで聞き取り調査をしたりしました。日刊工業新聞に定期的に広告を掲載していた遠州製作、豊田工機(現・ジェイテクト)、日立精機の1965年から1971年までの広告から工作機械の技術の進化を読み取り、デザイン変遷の指標として日刊工業新聞社主催の「機械工業デザイン賞」の歴代受賞機種もたどりました。

その学びの原動力となったものは。

玩具など製造販売のタカラトミーの創業者、佐藤安太さんが2010年に86歳で工学博士号を取りました。自分もやれるかもと奮起しました。自分の経験を学術的に「ものにしよう」という執念もありました。

学位記を受け取った感想は。

一つのことを成し遂げた達成感があります。論文を指導していただいた藤原惠洋教授からは「次の世代に道筋をつけた。これから工作機械のデザインを研究したい人たちの指標になってほしい」と言ってもらえました。

名城大学ではどのような仕事をしていますか。

理工学部機械システム工学科の非常勤講師としてNC実習を担当し、理工学部機械会の評議員をしている縁で2015年4月から理工学部技術員になりました。機械工学科と材料機能工学科の学生の実習を3号館で担当しています。NC工作機械のプログラミングや加工について指導しています。研究室からの部品加工などの依頼も受けています。

学生にメッセージをください。

社会に出ると一つの枠組みの中ではやっていけません。エンジニアとして成功するためには、学生のうちからいろいろなことに興味・関心を持つことが大事です。学生時代にさまざまな知識を吸収し実技を体得しておくと、社会に出てから高く評価されるでしょう。

導入された最新マシニングセンタと梅本さん=3号館で

導入された最新マシニングセンタと梅本さん=3号館で

NCフライス盤と写真におさまる梅本さん=3号館で

NCフライス盤と写真におさまる梅本さん=3号館で

梅本 良作(うめもと・りょうさく)

1975年、本学理工学部機械工学科卒、2006年、静岡文化芸術大学大学院デザイン研究科プロダクトデザイン修士課程修了、2010年10月から九州大学芸術工学府芸術工学専攻博士後期課程に在籍し、2016年3月修了。学位記の日付は2015年12月31日。2007年から本学理工学部機械システム工学科非常勤講師(NC実習担当)、2015年4月から同学部技術員。

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