育て達人第143回 近藤 敦
国籍法の専門家として二重国籍問題でマスコミにコメント
法学部 法学科 近藤敦 教授(憲法)
民進党代表選挙で蓮舫さんの二重国籍問題が取りざたされ、国籍法に詳しい識者としての近藤敦教授のコメントがマスコミに取り上げられました。一連の騒動の中で、「今回の問題は(二重国籍の有力政治家がいる)欧米では差別的に映るでしょう」といった冷静な分析が光りました。
蓮舫さんの国籍問題のコメントでのエピソードを聞かせてください。
識者コメントのエピソードなどを語る近藤教授=天白キャンパス10号館で
国籍や外国人の人権といったテーマが問題になるとき、新聞、雑誌、テレビ、ラジオの取材を受けることは、これまでもありました。以前は宮崎哲弥さんのような評論家の質問に答えていたのですが、今回は、春香クリスティーンさんや高橋みなみさんといったアイドル系の人からの質問に答える依頼もあり、この問題への関心の高さを感じました。
このような時事問題を講義で取り上げますか。
受け持っている憲法Ⅰの講義では、人権に関する時事問題を取り上げることはあり、国政選挙の一票の格差の問題は、決まって裁判になりますので、そのつど取り上げています。今回の二重国籍問題でも、複数の国籍をもつ人が国会議員になることを禁止する法改正をしたモルドバに対し、ヨーロッパ人権裁判所が2010年にヨーロッパ人権条約違反の判決を下していることを紹介しました。被選挙権を侵害し、法の下の平等に反するのがその理由です。
憲法学者として護憲派ですか、改憲派ですか。
9条との関係では、護憲派ですが、人権の分野では、人権の新たな要素を取り入れる改正には賛成です。もっとも、改正しなくても、人権条約上の新しい要素を取り入れる憲法解釈の研究をしており、「人権法」という今年出版した本には、そうした最新の研究内容も紹介しています。
ご自身の講義で心がけていることを教えてください。
今年度からパワーポイントを多く使うスタイルに変えました。従来の板書の方がノートをとる時間が確保できて学生には良いかと思いましたが、質問を受け、双方向的な要素を取り入れ、考えてもらう時間を設けるために、板書の時間を省くことにしました。イギリスやアメリカの大学での経験から、後でネットにアクセスすればパワーポイントの内容を学生がダウンロードできるようにする方が、効率的だと思うようになりました。パワーポイントも、1文ずつ、時間差をつけて文字が浮き上がるようにして、なぜかということを考える時間をもたせるように工夫しています。21世紀を担う学生の柔軟な思考力の涵養が、講義の目標です。
名城大学の良いところ、良くないところは。
学生数が多いので、活気があり、大学祭などはとてもにぎやかです。半面、学生数が多いので、大教室での講義になるのが難点でした。このため、法学部は、今年度から定員を減らし、その改善を図ろうとしており、少人数教育の授業を増やしています。図書館が日曜日も開館し、平日も夜遅くまで開いているのも、良い点です。残念ながら、恵まれた教育環境を十分に利用できていない学生もかなりいるように思います。
スウェーデンやイギリス、アメリカで客員研究員を務めた収穫は。
この3カ国と比べ、多様性の少ない日本社会において従来の法制度を見直す上で、人権規定がどのような役割を果たしうるのかという研究関心から訪れたのですが、とても恵まれた大学の環境を目のあたりにしたので、名城大学もこうした大学の良い点を取り入れていけたらと思っています。
学科長として法学部の今後の展望を語ってください。
1年生の少人数の演習が必修になったので、学習の動機づけが早い時期にできればと思います。法学の内容は、実際に社会に出てから、その意味がよくわかる場合が多く、何かの資格や試験を目標にしない場合は、知る楽しみを味わうことの少ない学生もこれまではいたのではないかと思います。これからは、現代社会の問題にもっと関心をもち、その問題を克服する方法を考える上で、法をどのように生かすことができるかという取り組みを強化していきたい。また、これまで社会に支えられて研究・教育ができてきたことを感謝しつつ、社会貢献にも一層取り組んでいきたい。これからの日本社会を担う優れた学生を育て、多くの後輩がそれに続く学部にしていきたいと考えています。
多文化共生の分野も研究していますね。具体的なことを聞かせてください。
今、名古屋市の多文化共生推進プランを見直す会議の座長をしています。「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的な違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていく」社会を多文化共生と呼ぶという推進プランを総務省が2006年に示しており、総務省や愛知県や岐阜県可児市のプランづくりにも協力しています。外国人や帰化した人や複数の国籍をもつ人も社会の一員として暮らしやすい社会をつくるために、従来の制度や慣行を見直したり、日本語教育の支援をしたり、多様性を生かした社会をつくったりすることは、これからの日本社会の重要な課題です。
座右の銘、愛読書、尊敬する人を挙げてください。
「好きな研究を好きな時に好きなだけやる」と心の中で思うことが多い。それが許されない状況が実際には多いからなのかもしれませんが。愛読書は特にありませんが、学生のときに「なぜ世界の半分が飢えるのか」(スーザン・ジョージ著)という本を読んだときの印象は強く、学生に薦めたい。尊敬する人は、スウェーデンで教わった政治学者のトーマス・ハンマー先生です。高名なのに気さくな人柄なので世界中の研究者からも敬愛されています。
趣味は何ですか。
たまに映画を見ることです。最近は子どもと一緒に「ONE PIECE FILM GOLD」や「インデペンデンス・デイ リサージェンス」を見ましたが、痛快なアクションシーンは、よい気分転換になります。
パワーポイントを駆使して講義をする近藤教授=天白キャンパス共通講義棟南で
近藤 敦(こんどう・あつし)
名古屋生まれ、豊橋市育ち。1989年、九州大学大学院法学研究科公法学専攻博士後期課程満期退学。九州大学法学部助手、日本学術振興会特別研究員、九州産業大学講師・助教授・教授を経て、2005年から名城大学法学部法学科教授。2015年4月から同学部学科長。この間、1年ずつ、ストックホルム大学、オックスフォード大学、ハーバード大学で客員研究員として過ごす。日本公法学会、国際人権法学会、移民政策学会、全国憲法研究会などに所属。著書に「人権法」「外国人の人権と市民権」「政権交代と議院内閣制」など。