育て達人第144回 林 利哉

肉の目利き 食肉のおいしさと効能を中日新聞で連載

農学部 応用生物化学科 林利哉教授(食品機能学、畜産物利用学)

中日新聞愛知県内版日曜日掲載の「味な提言」を執筆中。お肉のもつ機能性成分やおいしさの秘密などを解きほぐしています。連載は12月末まで。

新聞連載の今後の予告からお話しください。

研究室でソーセージのマスコットを手にする林利哉教授

研究室でソーセージのマスコットを手にする林利哉教授

霜降り肉の話から、ソーセージなど加工肉、さらには肉の漬物、つまり発酵肉の話題に及び、これに関連して乳酸菌の健康効果で締めようと思っています。

加工肉に絡みますが、ドイツに留学中、国際ハム・ソーセージコンクールのゲスト審査員を務めた経験を聞かせてください。

留学中も含め2011、2012、2014、2016年の計4回務めました。細かい審査基準があり、現地の審査員が一口含んだだけでかなり微妙な酸味がどうの、成分がどうのと言うのを見て驚きました。コンクール出品用という特別なハム・ソーセージだとしても、日本製品の出来栄えはよく、世界的に見ても日本の食肉加工技術は高いと実感しました。

自身の名城大学学生時代と今の教授時代で変わらないことと変わったことは。

控えめで真面目、悪い言い方をすれば“地味”なところは昔から変わらない気がします。印象として大きく変わった部分は、教職員の多忙さです。私の学生時代は、恩師の芳賀聖一先生(名誉教授)が研究室で毎日、小一時間程度のティータイムを設け、先生と触れ合う時間や並んで実験台に立つ時間が多かった。今は、教員も学生もとても忙しくなっています。大学特有のゆったりとした時間をもてないことは、大学にとって大きな損失とさえ思います。しばしば学生を置き去りにして物事を進めていないかと、ハッとすることがあります。
ただ、先端機器も含めた研究設備関係は、私の学生時代と比べますと、比較にならないくらい充実しています。構成員の皆様が長いこと努力されてきた結果だと頭が下がります。

研究や教育の重点は何ですか。

一言でいえば「現物主義」です。そして今はモノづくりを重視しています。例えば、ミルクや肉を発酵させたり熟成させたりすると、おいしさや機能性が向上しますが、なぜそうなるのか?何が効いているのか?といったことに対して、実際にモデル製品をつくってアプローチしています。昨年度九州大学より赴任した長澤麻央助教と、この共通認識のもとにタッグを組んで、日夜、教育研究に励んでいます。動物実験が得意な長澤先生はとても心強い味方です。
また実習教育では、春日井キャンパスの附属農場でソーセージやハム、あるいはみそをつくって食べたり、地元食品企業等の工場見学にも出かけたりします。実際に食べ物をつくってみたいと考えている学生や受験生には、楽しい実習があることも応用生物化学科の魅力の一つです。 今年、附属農場に教育研究館が完成し、その1階に食品加工施設が新設されたことによって、このような充実した実習教育が可能になりました。これには大学はもちろん、親御さんの組織である後援会からも多大なる援助をいただいています。大変ありがたいことです。

農学部の将来像をどのように描いていますか。

誤解を恐れず言えば、例として名古屋大学と同じではいけないと思っています。個人的にはあまり遠い将来ではなく、近い距離、時間枠での社会ニーズに応えたい、と思っています。それがこの地区に根差した私立大学の重要な役割の一つではないかと。特に農学は応用科学ですので、本学の教育理念の一つでもある実学を前面に出しながら「地味にすごい」農学部を目指せたらと個人的には思っています。そのためには教員と職員間のコミュニケーションをさらに深め、広げることを通じて、緊密な信頼関係を構築する必要があると感じています。

この機会に強調したいことがあれば。

当たり前ですが研究室に所属してからは「研究室中心の生活」を送ってほしい。気が付けば用がなくても研究室に足が向いている、それが心地よく感じる、という生活です。それはただ楽しいだけで得られる境地ではなく、苦しみと解放のサイクルを繰り返す、すなわち苦労も伴うからこそ得られる境地です。当研究室の話で恐縮ですが、私が所属する食品機能学研究室は、芳賀先生の時代から、大学祭や同窓会で卒業生がたくさん集まります。卒業生とのつながりを強く意識しているのが大きな特長ともいえます。卒業生が皆、この「研究室中心の生活」を実践した結果が、この研究室カラーをつくりあげています。
また、戦略プラン「MS-26」で共有したい価値観として「生涯学びを楽しむ」をうたっています。学生時代に学びの楽しさを知れば、卒業しても主体的に学び続けると思いますし、それが大学への帰属意識にもつながると思っています。ぜひ今、そしてこれからの学生さんには、縁あって入学した母校、名城大学で胸を張れるほど頑張って、社会で戦える自信を携えて巣立って欲しいと願っていますし、その手助けをしたいと思っています。

趣味、好きな言葉、尊敬する人などを聞かせてください。

趣味は魚釣りです。40年ぐらいやっています。好きな言葉は、あまり口にしたことはありませんが、「歌は心」です。歌はあくまで例ですが、何事にも至誠、すなわちまごころかなと思っています。また、今は無理ですが、晩年は「晴耕雨読」ならぬ、「晴釣雨読」を地で行きたい。尊敬するのは学生時代に出会った芳賀先生です。どちらかというと不真面目だった私を更生し、この世界に導いてくれた大恩人です。
もう一人は、ここで出すべきか迷いましたが、ミュージシャンの奥田民生さんです。彼は釣り師でもあり、僕ら前後の世代には有名かと思います。ホントはすごい人なのに、常に脱力して、力んでいない、まったくすごそうに見えないところにひかれます。彼の演奏、歌声を聴くと、在りし日の苦しくも楽しい実験生活が思い出されます。

2013年3月卒業生に囲まれる林教授(前列左から2人目)

2013年3月卒業生に囲まれる林教授(前列左から2人目)

林 利哉(はやし・としや)

名古屋市生まれ。名城大学農学部農芸化学科(現・応用生物化学科)卒、九州大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。1998年、九州大学農学部助手。2001年、名城大学農学部講師、2006年、准教授を経て2014年、教授。主として食肉・乳の加工による機能改善に関する研究に従事し、実際にモノ(製品)をつくって評価することに主眼をおく。2011年にドイツの国立食肉研究所、Max Rubner-Institut(Kulmbach)に留学。その後DLG(ドイツ農業協会)国際ハム・ソーセージコンクールのゲスト審査員を務める。著書に「ゲルの安定化と機能性付与・次世代への応用開発」「イラスト 食べ物と健康」(いずれも分担執筆)など。

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