育て達人第149回 寺田 理枝

イネのゲノム編集の研究が結実 英科学誌に2回論文掲載

農学部 生物資源学科 寺田理枝 教授(遺伝育種学)

遺伝子を狙い通りに書き換える「ゲノム編集」によって、イネやトマトの性質を変えることに成功したと本学、神戸大学、筑波大学のチームが3月27日付の英科学誌「Nature Biotechnology」電子版に発表しました。イネの成果は寺田教授が島谷善平神戸大学特命助教と9号館にある自動核酸抽出装置を使って行った研究が反映されています。

「Nature Biotechnology」誌に載った研究の概要から聞かせてください。

研究室の自動核酸抽出装置と寺田教授

研究室の自動核酸抽出装置と寺田教授

DNAを切らずに書き換える新たなゲノム編集技術「Target-AID」をイネに使いました。DNAを書き換えられる特殊な酵素を、細菌を使ってイネの細胞に入れると、DNA配列を狙い通りに変化させ、除草剤に強いイネを作ることができました。ゲノム編集を使えば、品種の掛け合せによる時間のかかる作業でも、1年か2年で可能になります。

素晴らしい成果に対する反響は。

掲載直後の3月30日に名古屋大学で開かれた一般社団法人日本育種学会のポスター発表で、本学の大学院生2人が類似の研究を発表しました。参加者は熱心に質問してくれたり、「頑張ってください」と声を掛けてくれたりで、予想以上に応援してもらえました。私も元気をいただきました。今回の研究が社会の役に立てばいいと願っています。

「リケジョ」になったきっかけや特段の動機はありますか。

絵を描くのが好きで「漫画家になりたい」と思い、手塚治虫さんの「漫画家入門」を実践したり、「火の鳥」を読んだりしているうちに、生命の流れの見事な表現に魅力を感じ、生物の勉強をするようになりました。旧ソ連の生化学者、オパーリンの「生命の起源」という本も熟読するようになりました。

その流れでバイオテクノロジーの研究に進むようになったのですね。

研究者というよりも、目の前の作業をコツコツやっていて生活できるということで研究を続けてきました。そのうちにバイオテクノロジーがブームになり、世の中の流れの中にたまたま居合わせたという感じです。研究分野は脚光を浴びるようになりましたが、実際は地味なことだらけです。

研究のだいご味は何ですか。

愛知県岡崎市にある基礎生物学研究所の助教時代の2002年、研究論文が「Nature Biotechnology」誌に載りました(Terada et al Nature biotec.2002)。イネの特定の遺伝子だけを組み換える「ターゲティング(遺伝子の狙い撃ち)」の研究でした。失敗の連続の末に、証拠となるデータをつかみました。「大当たり」という気持ちでした。私の提供した写真がその号の表紙を飾りました。人生の中で、「失敗の貯金」が逆に「財産」に変わることもあるのだと自分でも驚きました。当時は40代半ばで、「遅咲き」と言われました。

基礎生物学研究所は、2016年ノーベル生理学・医学賞を受けた大隅良典・東京工業大学栄誉教授が1996年から13年間教授を務めていたところですね。

恵まれた研究環境でした。私は研究所-自宅-スーパーマーケットの三角形を移動する生活を続けてきました。それ以外のことをする余裕はありませんでした。

尊敬する研究者は誰ですか。

植物分子遺伝学の第一人者で奈良先端科学技術大学院大学教授だった島本功(こう)先生です。三菱化成の作った植物工学研究所に勤務したとき、島本先生の研究グループの一員として、アブラナ科のキャベツなどの培養や細胞融合の研究に取り組みました。私に最初に研究のことを教えてくれた先生です。2013年に亡くなりましたが、カラオケがうまく、バイオリンやスキーなど趣味が多彩で社交的ですが、見えないところで努力し小さな結果を見つけて楽しむことを教えてくれた先生でした。

2010年に名城大学に移っての感想は。

学生が素直で元気という印象です。女性は話しやすく、たくましく、頼もしい。男性は身ぎれいにしています。爪などは私よりきれいです。研究一筋の生活から教授になってみると、講義で学生の顔色を見る余裕はなかったのですが、最近ようやくそれができるようになってきました。

学生へのメッセージをください。

研究が進展していても、人間が分かっていることはそんなに多くないのです。私自身も分かっていないことがいっぱいあります。学生には本当に心にしみて分かったことを大事にしてほしいと思います。

学生たちと歓談する寺田教授=天白キャンパス9号館で

学生たちと歓談する寺田教授=天白キャンパス9号館で

寺田 理枝(てらだ・りえ)

東京都生まれ。1979年、筑波大学第二学群生物学類卒。1982~1994年、三菱化成株式会社・研究員、1990年、農学博士(東北大学)、1994~1996年、スイス連邦工科大学植物科・博士研究員。基礎生物学研究所・助教を経て2010年4月から現職。所属学会は、日本育種学会、分子生物学会、植物生理学会。

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